(英フィナンシャル・タイムズ紙 2017年10月31日付)
スイス・ジュネーブ(Geneva)で、銀行の窓に写り込んだスイス国旗。(c)AFP/FABRICE COFFRINI〔AFPBB News〕
10月半ばのある朝8時に、チューリヒにあるスイス国立銀行(SNB、中央銀行)の立派な本店の前に行列ができた。
ありがたいことに、スイスの市中銀行で取り付け騒ぎがあったわけではない。関心を集めていたのは、スイスの新しい10フラン札だった。
この光景は、物理的な形の通貨の根強い人気を思い出させてくれる。保守的でドイツ語を話す欧州地域では、特にその人気が高い。
ただ、スイス中銀の内部では、かなりの数の職員が、あとどれくらい人気が続くだろうかと自問していたかもしれない。
高速鉄道でチューリヒから20分ほど行ったツークという小さい街は、技術の専門家と金融のスペシャリスト、資本の提供者を呼び集め、暗号通貨のハブとなっている。
ツークの市当局はビットコインでの料金支払いに応じており、世界第2位の規模を誇るデジタル通貨イーサリアムを開発・運営しているのは、ここツークの団体だ。
新興企業が投資家にデジタルトークン(代替通貨)を売ることで資金を調達する「イニシャル・コイン・オファリング(ICO)」では、調達額が最大の案件上位6件のうち、4件をスイスが占めている。
一方、スイスの政治家は、思考が企業寄りで政府の干渉が少ない欧州の安全地帯としての自国の評判を足がかりとして、金融技術における競争優位を与えるような規制環境を整えたいと考えている。
数年もすれば、慎重なスイス人消費者でさえ電子財布に切り替えている可能性は十二分にある。