手塚治虫生誕90周年企画のひとつとして2018年2月に小学館クリエイティブから発行予定の『カラー完全版 ふしぎな少年』。今回はこの本が企画されて本になるまでの全過程をご紹介! 古い雑誌からページを取り込んで復元する複刻作業とは? 消えた天才子役はどこへ? 幻のシナリオを追って北海道へ飛んだ!? じつはこの本、企画・編集を私・黒沢が担当している。ということで普段はあまり見られない手塚マンガの複刻版制作現場を行程順に編集者本人が大公開いたします!! ◎幻の単行本未収録エピソードを復活させたい!!
手塚治虫の『ふしぎな少年』という作品をご存知だろうか。昭和36年にNHKの同題のテレビドラマと一緒に企画され、手塚マンガの雑誌連載(講談社『少年クラブ』)とテレビドラマの放送が同時に始まるという、メディアミックスの走りのような作品だ。 ◎企画会議を通過させた役員たちの思いとは!?
今回、ぼくが小学館クリエイティブにこの作品の複刻企画を提案したのは、ぼく自身がこの作品が大好きで丸ごと未収録となっているお話があることを記憶しており、ずっともったいないと思っていたからだ。 ◎雑誌原本はどこにある!?
さてこうして企画が通っても、複刻版を出版するためには、その元となる連載当時の雑誌原本を入手しないことには始まらない。企画提出前から相談にのってもらっていた手塚プロ資料室の田中創さんに連絡をして、さっそく原本探しを開始した。 ◎もしもし、『少年クラブ』持ってませんか!?
ところが、この原本探しが思いのほか難航した。雑誌自体が休刊直前だったため、恐らく発行部数がかなり少なかったのだろう。お持ちの方がなかなか見つからないのだ。 ◎雑誌当時の雰囲気をそのまま複刻したい!!
今回ぼくがこのように雑誌原本からの複刻にこだわったのは、トビラや柱に入っている文章なども含めて雑誌連載当時の雰囲気をできるだけ残したまま、このマンガを複刻したいと考えたからだ。 ◎カラーページと2色刷りページを完全再現!
原本が揃ったら、次はこの本をどんな仕様で出すかを決めなければならない。今回の複刻の主題のひとつとしてカラーページと2色刷りページを完全再現するというのがあった。『ふしぎな少年』は、先ほども紹介したように、雑誌連載時は毎月本誌のカラートビラ絵から始まり、その後にカラーもしくは2色刷りページが数ページ続いて、そのままお話は1色刷りの別冊付録へと続くスタイルだった。 ◎最後の最後まで判型に悩んだ!!
そして悩みに悩んだのが本の大きさ=判型だった。先ほども紹介したように、連載当時の『少年クラブ』本誌は今の週刊マンガ誌と同じB5判。別冊付録はその半分の大きさのB6判(後半の別冊付録はB5判)である。このバラバラの判型をどうやって単行本にまとめるかだ。 ◎マンガ本編は見所がいっぱい!!
マンガ本編の見所は、先にも紹介したように連載当時のカラーと2色刷りページを完全再現していること。過去の単行本でカットされていた「時限爆弾」編と「鬼が島」編240ページ以上を単行本初収録していること。 ◎かるたの原画は手塚治虫が描いたのか!?
判型が決まったことでその他の仕様も少しずつ固まっていった。本は約500ページずつの2分冊として、それを箱に入れて2冊セットでの販売と決まった。箱は業界用語で“三方箱”と呼ばれる箱の側面の1面が開いていてそこから本を差し入れる形式の箱である。 ◎サブタンを演じた天才子役・太田博之を探せ!
第2巻目の巻末には資料編として、原作マンガの解題とテレビ番組の作品紹介、そして関係者インタビューなどを掲載する予定を立てた。 ◎辻真先さんから驚きの証言が!!
一方で別の朗報があった。テレビドラマ『ふしぎな少年』を企画し自らプロデューサー・ディレクターを担当された辻真先氏へのインタビューができることになったのだ。手塚治虫ファンクラブで『手塚ファンmagazine』を編集している和田おさむ氏に相談したところ、同誌に不定期で連載されている関係者インタビュー記事『私の中の手塚治虫』で、近々辻氏のインタビューを行うことになっているという。このコーナーの取材と文は濱田高志さんである。そこで本書の巻末インタビューもこの取材に便乗して濱田さんに同時に行っていただけることになったのだ。 ◎石山透氏の幻のテレビ脚本が北海道にあった!?
この辻真先氏のインタビューではもうひとつ大きな収穫があった。 ◎幻の脚本、第1話完全再録決定!!
石山透氏の『ふしぎな少年』のシナリオが北海道小樽市にあることが判明! さらにそこにもうひとつの幸運な偶然が重なった。この問い合わせをしたのは4月初めのことだけど、このとき、この虫ん坊コラムの編集会議では次の『虫さんぽ』の訪問地を北海道にすることが決まった直後だったのだ。そして1ヵ月後のゴールデンウィークには北海道へ行くことがすでに決まっていた。 ◎NHK少年ドラマシリーズのルーツ!!
脚本の読了後、館長の玉川薫さんにお話をうかがった。玉川さんは昭和28年生まれで『ふしぎな少年』放送当時は8歳。まさに視聴者ど真ん中の世代だった。 ◎やはり太田博之さんは探せなかった!
ところで玉川さん、こちらの小樽文学館に石山さんの脚本が保管されているのはなぜなんですか? ◎キーワードは「レトロフューチャー」!!
さて、ぼくがこうやって周辺資料を収集している間も、東京のDTP会社・オフィスアスクでは雑誌原本から印刷用のデータを作るスキャンと画像修正の作業がコツコツと進められていた。
取材協力/小学館クリエイティブ、市立小樽文学館、オフィスアスク、米川裕也(順不同・敬称略) 1957年東京生まれ。マンガ原作家、フリーライター。手塚マンガとの出会いは『鉄腕アトム』。以来40数年にわたり昭和のマンガと駄菓子屋おもちゃを収集。昭和レトロ関連の単行本や記事等を多数手がける。手塚治虫ファンクラブ(第1期)会員番号364番 コラム バックナンバー虫さんぽ
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