昔から人類は身の回りの食材から美味しい料理を創り出す努力を惜しまなかった。それはあまり食材が豊富でなかった古代でも同様だったようである。
日本ではすでに縄文時代、木の実を石ですりつぶして粉にし、それに水を加えてパンやクッキーのようなものを作っていたという話もある。
というわけで、ここでは世界各地で食べられていた古代食とやらを見ていこう。
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10.マッコ(maccu) / 古代ローマ
潰したソラマメで作る古代ローマのスープ。発祥の地はシチリア。ローマ帝国最高の料理にも挙げられている。
ソラマメを香草と香辛料入りのお湯で茹で、そこにオリーブオイルを加えてスープをいただく。残った部分は固まってからスナックとして食べる。小麦粉をまぶし、フライにして食べることもあった。
現在、シチリアでも珍しい料理だが、一部レストランではまかない飯として食べられている。グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼという酵素を持たない人の場合、ソラマメの毒素を分解できず、病気になったり、時に命を落とすこともあるので注意が必要。
9. モレトゥム(moretum) / 古代ローマの農民
古代ローマの農民がパンにつけて食べた一種のチーズ。詩人ウェルギリウスは、その詩の中でこの料理に触れている。農民はニンニク、香草、バターを集め、料理の間奴隷に話しかけたり、歌ったりしていたという。
また松の実を混ぜたアレンジも広く食されていたが、これなどは現在のペストという調味料に驚くほど似ている。すり鉢で食材をすり潰したことからこの名がついたのだろう。
8. シュリカンド(shrikhand) / 古代西インド(※諸説あり)
サンスクリット語の「乳(ksheer」)とペルシャ語の「甘い(qand)」が名前の由来で、発酵させた乳から作る。
正確な起源は不明だが、古代西インドにあると伝えられている。牧夫が凝乳やヨーグルトを一晩干して作ったと言われており、もっと後の時代になって砂糖、香辛料、ナッツなどの食材も入れられるようになった。
現代インドでは北部なら朝食、南部なら伝統的なデザートとして食される。作り方は、牛乳を熱してから常温まで冷まし、培養物を入れて凝乳にする。これを濾して乳清を取り除き、お好みの食材を混ぜる。
7. タマレス(tamales) / メソアメリカ
少なくとも紀元前1500年には食べられていたメソアメリカの伝統料理。紀元前8000年まで遡れるという説もある。
ナワトル語の「包んだ食べ物(tamalii)」が名称の由来。トウモロコシが素材で、マヤはこれに魚、豆、卵などを詰めて食べたと言われている。アステカのタマレスも似ており、スペインの宣教師ベルナルディーノ・デ・サグアンが著書の中で言及している。
タマレス(特にアマランスで作ったもの)は、神々へのお供えであることもあり、宗教的な意味合いがある。このためカトリック教会によって禁じられ、作った者は処刑されることもあった。
包み込んだ食材をきちんと蒸し上げるために、トウモロコシのさやがよく使われる。一方、熱帯ではバナナの葉が一般的だ。
6. メラス・ゾーモス(melas zomos) / スパルタ兵士
スパルタの兵士が食べていたこのスープは、史上最も評判の悪い料理として知られている。体を維持することしか考えられていないのだが、中にはこれが好きな兵士もいたようだ。沸騰させた豚の血液、豚肉、酢が材料で、当時から不味いと評判だった。
あるイタリア人が味見をして、これを食べることを強いられるスパルタの兵士が命知らずである理由が分かったという逸話もある。
別の逸話としてポントスの王がスパルタ人の調理師にメラス・ゾーモスを作らせたというものがある。ほんの少し口に入れただけで吐き気を催した王を見て、調理師はスパルタの川で沐浴したほうがいいと発言(スパルタ人しか美味しく味わえないの意)したらしい。
幸か不幸か、レシピは現在に伝わっていない。
5. アクアコッタ(acquacotta)
こちらも農民の料理。イタリア西部の沿岸部マレンマ地方が発祥。シンプルなスープであり、その意味は「調理された水」だ。自生の香草や野菜が主な具材で、そこに硬くなったパンを入れ、柔らかくして食べた。アクアコッタの通なら上から卵を落とすことだろう。
料理の誕生にまつわるいくつもの伝説が伝わっているが、それらはポルトガルの民話「石のスープ」によく似ている。その1つによると、ある貧しい人が水と石しか入っていない鍋に食材を入れてくれるよう人々に頼んで回り、やがて美味しいスープが完成したのだという。
4. タリダ(tharida) / アラブ
ムハンマドの時代にまで遡るアラブのスープ。肉をだし汁とパン粉で煮込んだもので、ガッサーン朝で作られた。ガッサーン朝はキリスト教圏であったが後に併合され、これをきっかけにアラブのイスラム社会に広まるようになる。
ムハンマドはタリダを愛妻アイシャになぞらえ、アイシャが他の女に優るように、タリダは他の料理に優ると話したという。
この発言を裏付けるかのように、タリダは他の地域に広まった数少ないアラブ世界の料理であり、モロッコから中国まで世界各地にそのアレンジが存在する。
3. カンタル(cantal) / フランス
ガリア人の統治時代に遡るフランス最古のチーズの1つ。適度に硬く、フランス人からはフルムとも呼ばれる。歴史家トゥールのグレゴリウスは、異教徒が山の湖に供物を投じていたことについて記しているが、その中にこのチーズがあった。
最も古い記録はローマの大プリニウスが1世紀に記したもので、世界最高のチーズはフランス南部のニームのものだと述べている。それ以来ほとんど姿を変えることなく、やがてルイ14世の時代に有名になった。今日のカンタルはかつてほど熟成させず、塩分も控えめだ。
2. パパズレス(papadzules) / マヤ
ユカタン半島を発祥の地とする。マヤで作られていた伝統的なものはトウモロコシのトルティージャとかぼちゃの種から作ったソースが特徴だ。
さまざまなアレンジがあり、しっかり茹でた卵をみじん切りにして、それをトルティージャで包み、トマトソースをかけるものもある。現在はかぼちゃオイルをかける。今日のような技術がないマヤでも同じものを使っていたかどうかについては議論がある。
その名称は「貴族の食事」という意味で、スペインの支配者たちにも食べられた。一説によると、「食事」と「愛」を意味するマヤ語が名称の由来であるらしい。
1. ハリッサ(harissa) / アルメニア
チュニジアにも同じ名前の調味料があるがそれとは別物で、こちらはアルメニアの伝統料理だ。祝日や宗教上の祭日によく食べられるもので、小麦と鳥肉(あるいは羊肉)で作るおかゆのような料理である。
肉食が禁じられる断食の最中は、肉の代わりに香草が使われる。弱火でじっくり時間をかけて煮込むのがコツだが、その時間のかかる点がアルメニア文化で愛される理由でもある。
その名称について伝説にはこうある。ある折に羊鍋が作られたが、全員が食べるには量が足りないことがあった。そこでそこにいた啓蒙者グレゴリオスが鍋に小麦を入れ、粘りが出てきたのを見て、「混ぜよ(harekh)」と命じた。これが転じてハリッサ(harissa)となった。
via:10 Of The Most Interesting Ancient Foods / translated by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. じょん・すみす
なんか、お粥っぽい物が多いのは気のせいか?
とある栄養学者の話によると、雑穀の類は
お粥にして食うと美味い、って話なんだが。
2. 匿名処理班
この地球に人間以外に料理する動物ってのはいるのだろうか
3. 匿名処理班
6の料理、スパルタの川で沐浴したほうがいいではなく
スパルタの水を産湯で使ったものでないと味がわからないと
言ったような気がするぞ
もっともスパルタの場合生まれた直後にワインを産湯に使い
そこで穢れたり肌が弱かった時には、森の中に投棄して処分や
奴隷に成り下がるという恐怖の選択をするのでちょっと話が
変わってるかもしれない
4. 匿名処理班
なんか、日本の方が食に対する異常性はるかに高いよな
全部見終わった感想が「ぬるいなぁ」だったもん・・・
5. 匿名処理班
後に卵かけご飯が極東地域の一般人の食べ物だと新たな論文で…
6. 匿名処理班
8は「シュリカンド」ではないだろうか。
7. 匿名処理班
>これなどは現在のペストという調味料に驚くほど似ている。
すごい名前の調味料があるんだなと思って調べたらペーストと同じ意味なのね
しかし日本語表記だとあの病気と同じだからどうにもイメージが悪いなぁ
8. 匿名処理班
まずいのがもはや定番ネタみたいにいろんな逸話に出てくる黒スープのレシピが残っていないというのが意外だった。スパルタ人がレシピを残すとも思えないけれど別の国の人が記録していそうなのに。
9. 匿名処理班
ハリッサ美味そう!!
10. 匿名処理班
研究している人に色々食べさせてもらった。
昔の料理は今食べてもちゃんと美味しいよ。
当時の人は心のそこから神様に感謝して
料理して味わっていたからね。
料理にこめられている愛と感謝の重さが違う。
コショウも塩も宝石のような価値の時代に
大切に大切につかって味をととのえていた。
11. 匿名処理班
8.は作ったことがある。
シルクハンドと紹介されていたが、ヨーグルトをさらし布に入れて一晩吊るしておくと出来る。
流行のギリシャヨーグルトに似てるが、もっとねっとりしていて、食べるとクリームチーズのような味がする、某漫画でヨーグルトを振り回してこれを作りチーズの代用にした話があった。
要は水分を抜けばいいのだ、野菜の水切り機でも可能だろう、布から滴る水は乳清だからコップか何かで受けておき、飲んでもいい。
さらに美味しくするなら、布で裏ごししてサフランと砂糖を混ぜると、とてもとても美味しいデザートになる、ナッツを添えるのもいい。
サフランの色がムラになるけど、それもまた美しい、サフランの風味が頭の中まで爆発するように広がるのは病み付きになるよ。
ぜひぜひお試しあれ(サフランで頭痛を起こす人は注意を)。
12. 匿名処理班
↑すごい...何者?
13. 匿名処理班
こっち側の方のレシピわよ?
14. 匿名処理班
欧州文化圏ばかりでアジアが見事に省かれてるけど別枠かな?
古代食ラーメンが無いのが残念
15. 匿名処理班
古代は薬代わりになってた乳発酵系が多いな、栄養の塊だから食料事情が悪い古代では本当に貴重だったんだろう
16. 匿名処理班
食では無く食材だけど、こんにゃく思いついたヤツはクレイジー(褒め言葉)だ。
17. 匿名処理班
※4
古代日本の平安時代の貴族のレシピは薄い塩味で、煮る・ゆでる・焼く・生という感じで今の感覚からすると物足りないかも。中国伝来の味噌は貴重品だし、醤油は江戸時代になるまで(塩も十分使えるようになるまで)一般に広まらなかった。手前味噌や梅干しが一般的になったのもこの頃。豆腐も蒟蒻もそうだけど、江戸時代に現在でいうところの日本食になったよ
18. 匿名処理班
※16
コンニャク芋はお腹の砂落としとして伝来したけど、今の形になったのは水戸の中島藤右衛門さんのおかげみたい
19. 匿名処理班
※8
実は物凄く旨いのでレシピは内緒なのだ。
20. 匿名処理班
醍醐天皇 後醍醐天皇
21. 匿名処理班
※4
これは古代食の紹介だから。比べるなら同時代
22. 匿名処理班
古代食といえば、最古のレシピもあげておく
紀元前1900年(3900年前)の古代イラクの対訳辞書(アッカド語・シュメール語)に記されていた800種類以上の料理・飲料。20種類のチーズ、100種類以上のスープ、300種類の様々な材料・フィリング・形状のパンetc.
23. 匿名処理班
昔の日本人「何が何でも食ったるわ」精神は異常
河豚とか蒟蒻芋とか食わんでも良いやん
24. 匿名処理班
スパルタがもうスパルタすぎてもうwww
25. 匿名処理班
製法は残っていないけれど「とにかくまずい」ことだけは伝わってるメラス・ゾーモス……気になる。どれだけまずかったのか。
26. 匿名処理班
レンバス出てこない…
27. 匿名処理班
日本食を引き合いに出す人達が
古代日本の料理というものに一切目をやっていない不思議
28.
29.
30.
31.
32.
33.