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Finance

「だから日本は少子化だ」三菱UFJモルガンから休職命令を受けた幹部が激白

「これは江戸時代?と思いました。今の日本で、まさか自分がこんな目にあうとは思いませんでした。安倍政権が女性の活躍を促して少子化を止めようとしているのに、実態は真逆です」

最初に来日してから30年近い年月が流れ、日本にも慣れ親しんできたつもりだったと、カナダ出身の男性は流暢な日本語で話し始めた。

男性は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の機関投資家営業部の特命部長、グレン・ウッド(Glen Wood)さん(47)。

ウッドさんは10月26日、勤務先の三菱UFJモルガン・スタンレー証券を相手取り、正当な理由なく休職命令を受けたとして、地位の保全や賃金の仮払いを求める仮処分を東京地裁に申し立てた。一連の出来事のきっかけが育児休業取得にあったとするウッドさんの主張から、ブルームバーグなど国内外のメディアから注目を集めている。

10月30日、Business Insider Japanは東京・六本木でウッドさんに会い、話を聞いた。

育休をめぐる会社の対応に憤りを見せる、ウッドさん。

ウッドさんは、育児休業をめぐる会社の対応に、憤りを見せた。

育休後に様相一変

ウッドさんの初来日は1989年にさかのぼる。

大使館など政府機関で国際交流支援プログラムの仕事に携わった後、アメリカの名門大ペンシルバニア大学・ウォートンスクールでMBA(経営学修士)を取得。バンカーとしてウォール街で働き始める。メリルリンチ、ドイツ証券、ゴールドマン・サックスなど金融大手を経験した後、三菱UFJモルガン・スタンレーのオファーを受け、2012年にグローバル戦略の東京代表に就任。金融エリートとしてキャリアを築いてきた。

そんなウッドさんを取り巻く状況が大きく変化したのは、3カ月の育児休業を経て職場に戻った2016年3月のこと。彼を迎え入れたのは、様変わりした職場の対応だったと、ウッドさんは言う。

海外オフィスチームのヘッドとして指揮を振るってきたウッドさんだが、「それまでの仕事は取り上げられ、少人数のクライアント業務だけやるように言われました。仕事を完全に干されたのです」

「ハードで長時間労働の職場ですが、仕事は大好きです。私が引き受けた機関投資家部門の収益は拡大し、成果を上げてきました。会社もそれを評価してくれていた」

そう話すウッドさんにとって、育休明けに待ち受けていた会社の措置は、衝撃的だった。

ウッドさんには、海外在住の未婚のパートナーとの間に生まれた子どもの体が弱いこと、シングルファザーとして育てていかなければならない事情があった。このため、行政関係の数々の手続きを行い、子どもの面倒をみてくれるフィリピン人のシッターを手配。これまでどおりに仕事をしながら子どもを育てる体制を、育休中に整えていたという。

にもかかわらず「そもそも私の育休中に、もう彼は辞めるよ、戻ってこないという話がされていたようです。復職の日から『どうして戻ってきたの』と、周囲に言われました

ウッドさんによると、重要なミーティングの日時を教えてもらえなかったり、自分が出席できない時間帯に会議が設定されたりしたという。新規採用面接や顧客訪問といった基幹業務から外され、海外出張も命じられなくなったとウッドさんは語る。

「一方で夜中のミーティングや膨大な時間のかかるリサーチをやれという。ハラスメントは明らかでした」

これはおかしいと人事に訴えても、「上司と話してくださいと、取り合ってくれなかった」。


グレン・ウッドさんの2015年〜現在までのタイムライン(ウッドさんの「地位保全仮処分事件申立書」を元に作成)


「そんな制度はない」

そもそも、育休の取得を申請した時点で、会社側の対応は歯切れの悪いものだった。2015年8月、パートナーの妊娠生活は順調とはいかず、早産の危機にあった。

「出産後、子どもの健康のためにもしばらく休むことになるかもしれない」と人事部に相談したところ、「そんな制度はない」と言われたという。

「恥ずかしながら、日本の育休制度について全く知りませんでした。おかしいと思ってハローワークに相談すると(法律で定められた)育児休業制度があると言われました」

それで再度かけあうと「今度は母子手帳やDNA鑑定の結果提出を求められたのです」。

育児休業を申請すると、ウッドさんはDNA鑑定結果の提出を求められたという。

2015年10月、予定日よりも早産の危機にあるとの連絡があり、現地に駆けつけようにも「会社は渡航を認めてくれない。結局、立ち会えないうちに息子が生まれ、会社とは折り合いがつかないまま渡航したのです」。その結果、12月にDNA鑑定を提出し、会社が育休取得を認めるまでの休業は「欠勤扱い」となっていた。

育休の取得申請を皮切りに、復職後も半年以上にわたるハラスメントの積み重ねで、ウッドさんは心身の不調を感じるようになる。医師からは「うつ状態」との診断を受けた。しかし、診断書を提出した上での人事、上司との面談では「育児のために配慮した結果、ハラスメントは誤解だ」との説明をされた。

精神的に追い詰められた上に長時間労働で、ウッドさんは本格的に体調を崩す。主治医の診断に従い、2017年1月から休職に入った。

それ以降、ウッドさんは会社に在籍しながらも、一切仕事に戻れない状況が続いている。

「主治医、産業医から復職可能の診断が出ても、会社が次に示したのは業務も報酬も半減する条件でした。体調を崩したので、元の業務は無理だ、と」

どうしても納得ができないウッドさんは職場の条件を拒否。折り合いがつかないまま、10月18日付で、無給の休職を命ぜられた。

「こんな日本にイノベーションは生まれない」

「大企業の看板を誇りにしている日本企業の上層部の男性は、スーパーで買い物もしたことない。電気代も払ったことがない。家事も子育ても専業主婦の妻に任せている。会議には女性もいない。多様性がない。自分たちは軍隊のような組織で、とにかく仕事に耐えている。大企業の社員という肩書きを失うことを恐れて『これはおかしい』と誰も言わない。これで日本はイノベーションが生まれるわけがありません」と、ウッドさんはいう。

小池百合子都知事は今年、東京がアジアの金融ハブを目指す「国際金融都市構想」を掲げた。

ウッドさんは言う。

「小池都知事に問いたい。子育てする社員は戦力外。日本企業がこんな状況で、一体全体、東京に来たい外国人がいるでしょうか」

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の広報担当者は、個別案件に対するコメントはしないとした上で、同社は社員に対して国籍、性別を問わず育休制度を推奨していると述べた。

(文・写真、滝川麻衣子、佐藤茂)

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