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医療費圧縮の先送りはもうムリなので…

いよいよ始まった医療費を巡る攻防

増え続ける医療費を巡って、来年度予算の攻防が始まった。

財務省の審議会が診療報酬を「マイナス改定」するよう求めたのに対し、人件費見直しを迫られる病院経営者らから反発の声が上がっている。

財務省の財政制度等審議会財政制度分科会(分科会長:榊原定征・経団連会長)が10月25日に求めたのは、診療報酬の「2%台半ば以上のマイナス改定」。診療報酬は医療サービスの公定価格で、医師の技術料に当たる「本体」と薬価相当分で構成される。

もっとも、仮に2%台半ばのマイナス改定が実現しても、医療費総額は減らず、医療費の伸びを「高齢化の範囲内」に留めることができるに過ぎない。それでも医療の現場からは、働き方改革などで医師の人件費の引き上げなどが求められている流れに逆行する、として抵抗する声が出ている。

一方で、厚生労働省は診療報酬改定によって薬価の大幅な引き下げを行う方針だが、急激に増えていきた調剤費をどれだけ抑えられるかは予断を許さない。

今年9月に公表された2016年度の「概算医療費」は41兆3000億円。このうち33兆6000億円が診療費、7兆5000億円が調剤費用、1900億円が訪問看護医療費となっている。

「概算医療費」は労災や全額自己負担の治療費は含まない速報値で、1年後に確定値として公表される「国民医療費」の98%程度に当たる。この「概算医療費」が2002年以来14年ぶりに減少した。だがこれで、増え続けてきた医療費が頭打ちになるのかというと、そうではない。

 

薬価を引き下げても、調剤費は…

2016年度の減少は大幅に増えた2015年度の反動だ。2015年度は一気に1兆5000億円、3.8%も「概算医療費」が増加したが、そのうち調剤費が9.4%増と一気に7000億円も増えた。

2015年度にはC型肝炎治療薬の「ソバルディ」と「ハーボニー」が相次いで公的保険の適用対象になったが、1錠約6万円から8万円と高額だったため、一気に調剤費が膨れたのだ。

通常、薬価改定は2年に1度だが、調剤費の急増に慌てた厚労省が、年間の販売額が極めて大きい薬は2年に1度の薬価改定を待たずに価格を引き下げるルールを設けた。この結果、これらの薬の価格が3割ほど下がった。これによって、2016年度の調剤費は4.8%の減少になった。

診療報酬改定の薬価分は、薬の実勢価格に合わせて引き下げられることになっており、それだけで1000億円程度は下がる見通し。つまり、2016年度の調剤費は7兆4000億円程度になる見込みだ。

もっとも、2015年度の薬価引き下げ前の調剤費は7兆2000億円で厚労省が大幅に薬価を引き下げると言ったところで、3年前よりも多くなるのは確実だ。

薬価は2年ごとの改訂だが、現実には薬の価格は時間と共に下落するケースが多く、医療機関や薬局、製薬会社に利益が多く残る仕組みになっている。厚生労働省内にはかねてから薬価を毎年改定すべきだ、という意見もあるが、製薬業界などの反対で実現していない。

高額薬剤の販売急増で製薬会社は潤ったが、一方で国民が負担した医療費は大きく増える結果になった。

こうした経緯から、薬価の引き下げには製薬業界なども強く反対しにくいと見られ、診療報酬全体でマイナス改定になるのは間違いなさそう。