中学生の頃・・・休み時間はずっと、
本を読んでいるフリをしていた記憶があります。
そうフリだけフリだけ。
私は人と話すのが非常に苦手でして、
友達が居ない事を誤魔化すために、
本を開いていたのです。
『本好きで無口な人』
・・そんなキャラ付けが欲しかったんです。
本を読み始める前は・・・
休み時間になると・・・
ゆっくりゆっくり・・トイレに行って、
そしてゆっくりゆっくり・・教室に帰る。
という無意味な動作を繰り返していました。
まるでナメクジ。
しかしナメクジのマネは大変です・・
だから本を読むフリをする事にしたのです。
でも実際は・・・・本なんて読みません。
いや・・・読めません。
一応開いた本は読み始めるのですが・・・
これがまぁ・・全く頭に入ってきません。
頭の弱い私には、どれも難解過ぎたのです。
家に帰ると母にこう言います。
「違う本をくれないか?」と・・・・
「また読めなかったの?」と言いながら、
母は別の本を渡してくれます。
私の両親は熱心な読書家でして・・
二人は本の貸し借りを通じて出会って、
そこから結婚をした程なのです。
なので・・・・
家は本であふれ返っておりました。
そんな本好きな母ですから、
私が本をねだると、
上機嫌で本を用意してくれました。
何度か母の勧める本を突き返していると・・
「これならきっと読めるでしょう」
そう言って渡されたのが・・・・
『星新一』の『ショートショート』でした。
えーと・・・この本は・・・
SFチックでミステリアスな話が集まった、
1話完結型の短編集なのです。
いつも通り休み時間になると・・・
パラパラッと本を開きました。
すると・・・母の言う通り・・・・
なぜか読める!
とんでもない本嫌いで、
文字を見るだけでイライラする私が・・
スラスラと読み進める事が出来たのです。
わかりやすく面白い!
率直にそう感じました。
気が付くとチャイムが鳴り・・・・
休み時間が終わっていました。
この本はすぐに読み終わり、
また母に次の本をねだりました。
すると今度は・・・また別の
『星新一』の本を渡されました。
・・どれも夢中になって読みました。
星新一先生の作品の良さは・・・・
こう・・・・なんて言えば良いのか・・・・
文が苦手で知識の無い私にすら、
傍で寄り添ってくれるような文章なのです。
どれも不思議な話なのに・・・小難しく無い。
星新一先生のオカゲで・・・・・
孤独で苦痛な休み時間は無くなりました。
こうして4冊ほど読んだころ・・・・
私が夢中に読んでいたのが気になったのか?
「それ何読んでるの?」
とクラスメイトに話しかけられました。
ああっ・・・チャンスだ!
私はこの本の面白さを伝えたい気持ちと、
友達が欲しい!という一身で懸命に話ました。
話したのは確か・・・・
『館に入った人が次々と記憶を失っていく』
ショートショートの不思議な短編の話です。
私がワチャワチャと懸命に話をすると・・
「え-面白いじゃん?ほかの話は?」
とクラスメイトも興味を持ってくれました。
こうして本の話をしていると・・・・
グループの輪に入れてもらえる事になり・・
休み時間に本を読む必要は無くなりました。
星新一先生とも・・それっきりです・・・
しかし・・・・
こうしてブログを書いていると・・・
『星新一を読んだ事あるの?』
と聞かれる事が何度かありました。
その名前を見てドキッとしました。
(あっそういえば読んだ事があるぞ!)と
いやぁ・・自分でもスッカリ忘れていました。
読んだのは、もう20年以上前の話です。
それも・・ほんの数週間の出来事なのです。
そうだ・・・中学生の時に、
星新一先生の作品を読んだ事がある。
不思議です・・
なんでわかったんだろう?
うーん・・・自分でも忘れていたのに。
文章には人柄や人生がにじみ出る、
『自分を隠す事は出来ない』
そんなような話を聞いた覚えがあります。
やはりどこの世界にも優れた人がいて、
わかる人には全部見透かされてしまいますよね。
言葉でも文章でもそうでは無いでしょうか?
それが恐ろしくもあり、
愉快だとも感じております。
そう・・・人に見透かされるって事は、
案外気持ちが良かったりもしますよね?
えへへ・・・
おわり