東京・八王子市の23歳の女性が行方不明になり、神奈川県座間市のアパートの部屋で切断された9人の遺体が見つかった事件で、1人の遺体を遺棄した疑いで逮捕された27歳の男が「浴室で遺体を切断した」と供述していることが警視庁への取材でわかりました。部屋からはのこぎりが見つかっているということで、警視庁は遺体を隠すためにのこぎりで切断した疑いがあると見て調べています。
東京・八王子市の23歳の女性が1週間余り前から行方不明になり、警視庁が行方を捜査していたところ、女性と連絡を取っていた神奈川県座間市の職業不詳、白石隆浩容疑者(27)のアパートの部屋から9人の遺体が見つかりました。
警視庁は白石容疑者を、このうち1人の遺体を遺棄した疑いで逮捕しました。
警視庁によりますと、調べに対し容疑を認めているということです。
これまでの調べで遺体は女性8人、男性1人と見られ、切断されてクーラーボックスなどに入れられていたということですが、調べに対し白石容疑者が「浴室で遺体を切断した」と供述していることが警視庁への取材でわかりました。
部屋からはのこぎりが見つかっているということで、警視庁は遺体を隠すためにのこぎりで切断した疑いがあると見て調べています。
白石容疑者は女性と「自殺サイト」などを通じて知り合った可能性があり、「初めて会って殺害した」などと供述しているということです。
警視庁は、白石容疑者が9人いずれも殺害したと見て遺体の身元の確認を行うとともに、詳しい動機や経緯など一連の事件の全容解明を進める方針です。
白石容疑者 8月にアパートに入居
知り合いなどによりますと、逮捕された白石容疑者は以前、神奈川県座間市の実家で家族と一緒に暮らし、父親の仕事の手伝いなどをしていたということです。
その後、東京・豊島区のマンションに転居しましたが、職業紹介会社の社員だった去年7月から9月にかけて、茨城県神栖市の風俗店に女性を紹介したとして、ことし2月に職業安定法違反の疑いで茨城県警に逮捕されていました。
そして、ことし5月、水戸地方裁判所土浦支部で懲役1年2か月、執行猶予3年の判決を受けました。
このあと、ことし8月22日に、遺体が見つかった座間市内のアパートに引っ越し、1人で暮らしていたということです。
アパートの関係者によりますと、賃貸契約をした際、白石容疑者は無職で「すぐに入居したい」と言って慌ただしく手続きを進めていたということです。
同級生「変わった人という印象はなく普通」
逮捕された白石容疑者と中学校で同じ学年で、一緒に委員会活動をした26歳の男性は、「勉強や運動などで目立つことはなく、教室で遊ぶ時間が多かったタイプだったと思う。学校も毎日来ていて、委員会活動で顔を合わせていたが、特に変わった人という印象はなく普通だった。事件を聞いて、どこで道を間違ってしまったのかと思い、驚いている」と話していました。
多数の死者が出た事件 過去には
今回逮捕された男のアパートの部屋からは9人の遺体が見つかり、警視庁はいずれも男が殺害したと見て詳しい経緯を調べています。
平成に入ってから多数の死者が出た事件としては、平成13年、大阪・池田市の大阪教育大学附属池田小学校で8人の児童が殺害された事件や、平成20年に東京・秋葉原で7人が殺害された通り魔事件などが起きています。
そして去年7月には、神奈川県相模原市の知的障害者施設で戦後最悪とされる19人が殺害された事件が起きています。
ツイッターに「死にたい」 不明女性か
行方不明となっている東京・八王子市の23歳の女性のものと見られるツイッターには「死にたい」などという内容が書き込まれていました。
女性のものと見られるツイッターは先月20日に投稿が始まり「死にたいけどひとりだと怖い。だれか一緒に死んでくれる方いましたらdmください」などと書き込まれています。
2日後には「パッと死んでパッといなくなりたい」と書かれています。
このツイッターには「一緒にどうですか」などと少なくとも6人がメッセージを送っていました。
その後、女性が行方不明になったあとの今月26日、女性の兄を名乗る人物が「10月23日を最後に私の妹と連絡がつかなくなりました。それまでは毎日のようにLINEで連絡をとっていました。しかし23日の朝9時を最後に反応がなくなりました」と書き込んでいます。
兄を名乗る人物はそれから2日間にわたって投稿を続け、今月23日の午前9時半ごろに女性がツイッターのダイレクトメッセージで男とやり取りし「死ぬ決心がついた」と連絡していたことや、その4時間後に女性が男と駅で合流したと見られること、それに警察に捜索願いを出したことなどを書き込んでいます。
ツイッターには「自殺募集」投稿多数
女性はツイッターに「自殺を一緒にしてくれる人を探している」と書き込みをしていました。
女性のものと見られるツイッターのアカウントでは「自殺募集」というハッシュタグが付いた書き込みもありました。
ツイッター上で「#自殺募集」という言葉を検索すると一緒に自殺する人を探すような内容の書き込みが多数投稿されているのがわかります。
また「ご一緒したいです」などと投稿に応じるようなリツイートもあります。
こうした書き込みがどのようないきさつで書き込まれたかなどはわかりませんが、ツイッター上で頻繁に自殺に関するやり取りが行われている様子が見てとれます。
自殺対策に取り組むNPO法人「ライフリンク」の代表、清水康之さんは「死にたいという気持ちをネット以外で打ち明ける場所がなく、自分の思いに共鳴してくれる人を探しているうちに実際の自殺や事件に巻き込まれるおそれがある」として警鐘を鳴らしています。
自殺ほのめかす書き込み SNS各社は
SNSを運営する各社では、自殺をほのめかす書き込みがあった場合、書き込んだ人に相談機関の情報を提供するなどの対策を取っているとしています。
「ツイッター」では、利用規約の中で自殺をする仲間を募ったり、自殺の手段を紹介するなどの書き込みを原則禁止しています。
しかし「自殺をほのめかすツイートはルールに反しているとはいえ、通常のルール違反とは扱いが異なる案件だと考えている」として、ツイートの削除を求めたり、アカウントを凍結したりすることはせず、周囲の人が自殺を考えている人の兆候に気がついて手を差し伸べる可能性を残す必要性があるとして、ツイートを見た人の報告を受けて専門の相談機関を案内しているということです。
また、今回の事件で被害者はツイッターの書き込みを通じて容疑者と知り合ったと見られることについては「今回のことを踏まえ、できるだけよい方法を社内外で相談し続けたい」としています。
一方「フェイスブック」では、自殺をほのめかす投稿をした場合は、友達がその内容を見て、投稿が問題だと報告できるようにしているほか、本人が次にアクセスした際に「あなたの投稿を見て心配している人がいます」と通知するほか、相談窓口を紹介しています。
ただ、自殺をする仲間を募る投稿を削除するなどの対応は取っていないということです。その理由について「フェイスブック」では「利用者は実名で登録することになっていて、自殺する仲間を募る行為そのものがしにくいシステムになっている」としています。
ネット通じた自殺 これまでにも繰り返し
インターネットの「自殺サイト」など、ネット上の自殺をめぐる書き込みがきっかけとなった事件は過去にも繰り返し起きています。
平成10年には、20代の女性がインターネットを通じて知り合った札幌市の男から青酸カリを受け取って自殺し、その後、複数の男女が同じ男から青酸カリを受け取っていたことが明らかになりました。みずからも自殺した男は自殺ほう助の疑いで書類送検されました。
また、平成17年にはインターネットの自殺サイトで知り合った男女3人に対し「一緒に自殺しよう」などと誘い出して殺害したとして前上博元死刑囚が逮捕され、すでに死刑が執行されています。
平成19年には川崎市の当時21歳の女性が、携帯電話の自殺サイトで知り合った男に「1人で死ぬのが怖い」などとメールで伝え、殺害を依頼された男が嘱託殺人の疑いで逮捕される事件も起きています。
自殺願望のある人がネットを通じて一緒に集団自殺するケースも少なくありません。
平成16年には、自殺サイトで知り合った20歳から34歳の男女7人が、埼玉県内の駐車場にとめたレンタカーの中で練炭を燃やして集団自殺しました。
ことし8月には、インターネットの会員制の交流サイトで自殺する仲間を募り、男女3人が高知県内の漁港で自殺を図ろうとしたとして、このうち男性2人が自殺ほう助未遂の疑いで逮捕され、その後不起訴になっています。
「自殺サイト」の対策の1つとして警察庁から委託を受けた民間団体の「インターネット・ホットラインセンター」が「自殺に誘う」情報などが掲載されているとして、去年1年間に一般から通報を受けた件数は257件に上っています。
センターでは通報を受け、有害情報としてネット事業者に削除を要請するなどの対応を取っているということです。
専門家「情報発信の敷居低く簡単に結びつく」
インターネットに関する事件や法律問題に詳しい弁護士の岡村久道さんは「情報発信の敷居がどんどん低くなっていて、そこで人が簡単に結びついてしまうところがネットの問題だと思う。かつては、いちいちホームページにアクセスして書き込まなければいけなかったが、今はスマホ一つ、指先一つで、どんどん書いて放り投げられてしまう。さらにハッシュタグなどで同じ関心を持った人が一緒に集まりやすい」と指摘しています。
そのうえで「問題のあるツイートなどはプロバイダーやSNSの運営会社が利用規約などでいつでも削除することができるようになったが、情報量が爆発的に増大しているため、なかなかパーフェクトに消すことができない。新たなネットメディアが次々に出てくるので、いたちごっこが続いてしまう」と話しています。