「Google Home」や「Amazon Echo」はゲームでも使えるもの? ゲーマーも知っておきたい「スマートスピーカー」の今とこれから
一方で,まだ日本で製品は発売していないものの,本命と見られているのが,
スマートスピーカーは,すでに多数の企業が競いあう
「レッドオーシャン」に
まずは,スマートスピーカーの基本をおさらいしておこう。
スマートスピーカーでやっていることは,スマートフォンで当たり前になった技術の応用でしかない。いまどきのスマートフォンでは,音声入力技術が広く使われている。音声入力を介して,人間の言葉をいったんテキストデータに変換してしまえば,そこからコンピュータが命令を読み取って,実行に移すことは難しいことではない。
スマートスピーカーは,スマートフォンやPCで使われている音声アシスタントを,インターネットに直接つながる機能を持ったスピーカー(要はディスプレイのないネットワーククライアント)に組み込んだもの,といっていい。もちろん,ディスプレイがないデバイスで使えるように,応答の方法を工夫しているため,スマートフォンでの応答とまったく同じ,というわけではない。だが,基本的な仕組みは「画面がなく,声だけで操作するスマートフォン」だと思えばいい。
以下に掲載するのは,AmazonによるEchoのプロモーションムービーだ。登場人物たちが,「Alexa」という「コマンドワード」に続けて喋っているのが,命令である。音声アシスタントによって,コマンドワードは異なる――Google アシスタントなら「OK Google」――が,基本的な使い方はどこも同じなので,雰囲気は理解できるだろう。
Echoの公式ムービー「All-New Amazon Echo」
2017年10月に国内発売となった「Google Home」。ベース部分は交換可能だ |
LINEが展開するスマートスピーカー「Clova WAVE」 |
「スマートフォンの力」をどこでも気楽に使うためのデバイスがスマートスピーカー
スマートスピーカーは音声で操作できる機器だが,知っている人も多いように,現在の音声認識技術は完璧にはほど遠いものだ。「音声で使うリモコン」といった趣もある機械だけに,「声では正確に反応できないのなら,タッチやマウスで操作したほうが早い」と思う人もいるだろうし,実際,その通りと思わされるシーンも多い。声からテキストへの認識精度は上がってきたが,認識した内容から「適切な命令を読み取って反応する」,すなわち知恵にあたる部分は,まだまだ発展途上である。技術に詳しい人であればあるほど,その価値に懐疑的になっても不思議ではない。
また,スマートスピーカーは,音声アシスタントとの対話によって操作する機器だ。機械に対して話すため,「AIスピーカー」と呼ばれることも多い。だが筆者は,AIスピーカーという呼び方は誤解のもとであり,適切ではないと思っている。AIという言葉から,スマートスピーカーに対して過大な期待を抱きがちになるからだ。
それでも,スマートスピーカーと音声アシスタントは大きな可能性を秘めているのは間違いない。それは,スマートフォンを置き換える「ポストスマートフォン」ではなく,スマートフォンとともにあって,より広い生活シーンをカバーする機器となる可能性が高いからだ。
スマートフォンとPCの普及によって,私達は常にネットの力を使えるのが当たり前になった。分からないことや気になることがあればすぐに検索できるし,SNSを介してさまざまな情報に触れ続けるようになっている。台所でもトイレでも,お風呂でさえもスマートフォンを持っているという人は珍しくないだろう(だからこそ「防水スマートフォン」が必要とされる)。
しかし,スマートフォンは基本的に手指で操作するデバイスであり,手を放せなかったり,手では触れなかったりする状況では使いにくい。リビングでリラックスしているときに,スマートフォンを取りに行くのは面倒だし,ゲーム中に何か調べたいことがあっても,いちいちゲームパッドやマウスから手を放したくないものだ。自動車を運転中のように,そもそも「手が他のことにとられている」「目線もそらすのが難しい」シーンは厳然としてある。
音声アシスタントは,スマートフォンの機能としてすでに実現済みで,とくにAndroidのGoogle アシスタントと,iOSのSiriはよく知られている。PCでも,Windows 10ではCortanaが標準機能になった。だが,PCやスマートフォンに入っているだけでは,音声アシスタントの価値は広まらない。それをスマートフォン以外の機器に組み込んでいくことが必要で,そのもっともシンプルな例がスマートスピーカーであるということなのだ。
ちなみに音声対応の機能は,とくに据え置き型ゲーム機で,いろいろと過去から取り組まれていた機能でもある。たとえば,Xbox 360は「Kinect」で音声コマンドに対応し,Xbox Oneではウインドウコントロールなどの多様な操作に利用できるようになった。同様にPlayStation 4でも,ゲームの起動などが音声で行える。
これらはまさに,ゲームパッドを両手で持っている時でも多様な操作を実現するための方法論だったのだが,イマイチ操作しづらかったことなどから,メジャーにはなりきれていない。一方,スマートスピーカーの音声アシスタントはもう少し賢くなっているうえに,「ユーザーによる質問への回答」などがメインになっているため,方向性は異なる。
スマートスピーカーの起爆剤は
検索ではなく「音楽」だった
繰り返しになるが,現在利用できる音声アシスタントの機能は,それほど高くない。実際,アメリカでスマートスピーカーがヒットした経緯も,音声による操作といった“未来への可能性”よりも,もう少し現実的なものだった。現在,海外におけるスマートスピーカーの用途は,音楽再生が中心という,ある意味,非常に保守的なものなのだ。これには,海外(※とくに北米)での音楽消費がどう変化しているかを理解しておく必要がある。
過去の音楽は「物理メディア」を介して提供されるのが基本だったが,いまや主軸は「ストリーミングミュージック」。「Spotify」や「Apple Music」,「Google Play Music」といった月額料金制による聴き放題サービスに移行している。
こうした変化にともない,行き場をなくしたのがいわゆるホームオーディオだ。ストリーミングミュージックは,スマートフォンやPCで聞くのが中心であり,古典的なホームオーディオ機器では使いづらい。そのためBluetoothの無線スピーカーがヒットしたのだが,スマートフォンやPCを触らずに,もっと気楽に音楽が聴きたいときもある。スマートスピーカーは,まずそのニーズで成功したわけだ。
たとえばGoogleは,Google Playの無料体験チケットをGoogle Homeに入れているし,LINEは「2018年1月末までのキャンペーン価格」として,税込価格は1万4000円のClova WAVE本体に,LINEのストリーミングミュージックサービスである「LINE MUSIC」の12か月分にあたる利用権(980円/月×12)をセットにして,1万2000円で販売中だ。音楽サービスが1年無料で使えて,しかも正価より安い。LINE取締役の舛田 淳氏は,その狙いを「音楽サービスにも良い影響があると想定できるから」と明確に述べている。
Amazonが海外市場を寡占
理由は「低価格で先行」したから?
さて,そんな海外のスマートスピーカー市場だが,現在はAmazonがほぼ寡占している状況といっていい。米国の市場調査会社であるeMarketerが,2017年5月に公表したレポートによると,米国におけるEchoシリーズのシェアは70.6%と,Google Homeの23.8%を大きく上回る。現在は,もう少しシェアの差が縮まっていると想定できるものの,現在のスマートスピーカー市場において,Amazonが圧倒的な勝者であることは間違いない。
そうなっていない理由は2つある。
理由の1つめは,Amazonがスマートスピーカー市場で他社に先行して製品を出した,ということ。AmazonがEcho初代機を発表したのは2014年11月のこと。当初はAmazon Prime会員だけの限定販売だったものの,2015年6月から一般向けへの販売を始めている。Google Homeの発売は2016年11月だから,一般販売から数えても,1年以上先行している。
スマートスピーカー市場がブレイクしたのは,2016年秋に,Amazonが低価格な「Echo Dot」の第2世代モデルを発売してからのことだ。Echo Dotの初代は,価格が89.99ドルだったのに対して,第2世代モデルは価格が49.99ドルと,通常版Echo(約130ドル)の半分以下になった。スピーカーは貧弱で音質もそれなりだが,それも織り込み済み。ケーブルやBluetoothで外部スピーカーをつないで使うことを想定したモデルだったからだ。
2015年から2016年前半にかけて,早い時期にEchoを買ったアーリーアダプターたちは,「気楽にリビングで音楽が聞ける」「ちょっとしたことを声で行う」というEchoの便利さに気づいていた。だからEchoを自宅にある複数の部屋に置きたくなっていたし,家族や知人へのプレゼントにも適しているということで,買い足す人が増えたのだという。また,初めてEchoを買う人でも,「まずは安いもので」と考える人が多かったため,Echo Dotが爆発的に売れることになった。そもそもスマートスピーカーは,便利ではあるが生活に必須のものではない。だから,高くてはなかなか売れない,という面もあったのだろう。
Amazonは販売台数を公表しないため,正確な台数の内訳は不明だ。しかし,複数の調査による販売統計によれば,Echoシリーズの販売台数は,Echo Dotを発売した2016年秋を境に劇的に伸びているそうで,結果的に,Echoのマーケットシェアを押し上げた。
Amazonは,現在のビジネスモデルを「自社通販の定期的利用者を増やす」「有料会員制のAmazon Prime加入者を増やす」ことに据えている。電子書籍端末であるKindleシリーズなど,同社が展開するほかのハードウェアもそうだが,まずは利用者を増やすことが重要で,ハードウェアの販売から大きな利益を得る必然性は薄い。だからAmazonは,価格競争に入っていくのはまったく怖くないのだ。Echo Dotという低価格モデルを投入したのも,そうした背景にもとづく。
互換機戦略で先行するAmazon
日本でも勢いを維持するか?
世界的に見れば,Amazonはスマートスピーカーで先行した存在だ。他社も,それを座して見ているわけにはいかない。GoogleとLINEが国内で先行したのは,日本でもAmazonに独走させることは防ぎたい,という思惑が透けて見える。
音声アシスタントを改善するには,とにかく用例を集めることが重要で,そのためには多数の利用者が必要だ。
スマートスピーカーを直接的には手がけていないものの,音声アシスタントを開発している企業は多い。たとえば,NTTドコモは,2018年から本格的に音声エージェントサービスを展開する予定で準備を進めており,同社のスマートフォンやタブレットで全面的に活用していく予定になっている。
また,シャープは「COCORO+」という音声アシスタント機能を,テレビから電子レンジまで,さまざまな同社製品に組み込んでいる。シャープ製スマートフォンに組み込まれているコミュニケーションアプリ「エモパー」や,コミュニケーションロボット「RoBoHoN」(ロボホン)も,同じ計画の中で開発されているものだ。ソニーモバイルコミュニケーションズも,「Xperia Hello!」というコミュニケーションロボットを2017年11月18日に発売する予定だ。
シャープのコミュニケーションロボットRoBoHoN。初期モデルは携帯電話機としても使えるようになっている。足はあるが,自走はできない |
ソニーモバイルコミュニケーションズのXperia Hello!。「Hello」の文字がある部分はディスプレイで,ビデオチャットの相手を表示したりもできる |
音声アシスタントから広がる市場はきわめて大きなものになる可能性がある。今はスピーカーの形をしているが,そもそも本質的には,スピーカーの形である必要はない。マイクとスピーカーとネット接続機能があれば,そのハードウェアはスマートスピーカーになり得る。
たとえば,Googleはテレビ向けのAndroidデバイス「Android TV」の次期バージョン(OSコアがスマートフォンと同じOreoになる)から,Google Homeとしての機能を組み込んでいく予定だ。あるいは,洗面台やキッチンに組み込んでしまってもいい。
そのために必要になるのが「プラットフォーム化」だ。ここでもAmazonは先行している。Amazonは,Alexaのサービスを「Alexa Voice Service」(AVS)として公開しており,同様に公開されている開発キットを使って,Amazon以外の企業や個人が自由に「Alexa対応機器」を開発できるのだ(関連リンク)。ハードウェアとして「Echoクローン」を作るための情報も,Amazonからの招待が必要ではあるが,同様に公開されている。組み込み用のワンボードマイコンである「Raspberry Pi」や「Arduino」があれば,AVS対応機器を簡単に自作できてしまうほどだ(関連リンク)。
こうした施策が功を奏して,結果的に海外では,「Alexa搭載機器」や「Alexa対応家電」の開発が急ピッチで進んでいる。2017年1月に開催されたCES 2017の時点で,すでに700以上のAlexa対応機器が出展されており,筆者が把握しているだけで,Lenovoやオンキヨー,Harman/Kardon,Ankerなどが,Alexa搭載のスマートスピーカーを製造して,販売を準備中だ。このほかに,Alexa搭載スマートスピーカーを作っている小さなメーカーは多数あって,もはや総数は把握しきれない。
AmazonがEchoの日本語版をスタートすれば,これらの海外勢が一気に日本に入ってくることになる。AmazonのEchoが注目される最大の理由はここだ。日本語版のクオリティがまだ不明であるため,海外と同じようにAmazonがそのまま勝つとは言えないものの,それでも,Amazonが本命であることに間違いはない。
ゲームでは「音声UIの再評価」が始まる
さて,ここまでの説明でも想像がつくとおり,現状のスマートスピーカーと音声アシスタントを巡る動きは,ゲームとはほぼ無縁なものだ。だが,将来的にも無縁であるというわけではない。本稿の最後に,こうした状況が,今後のゲームにどう影響するかを想像してみよう。
その方向性は,基本的に2つある,と筆者は考えている。
1つは,「ゲームにおける音声UIの変化」だ。先述したように,ゲームに音声UIを組み込む試みは,以前にも存在した。両手がふさがりやすいゲームでのUI補完に,音声は有望だからだ。一方で,過去のアプローチは音声認識と文脈判断の能力が弱かったため,結果的に実用的な使い方が難しかった。だが,音声アシスタントの能力は急速に向上しており,ウェブAPI経由で簡単に使えるようになっているので,ゲーム内に高品質な音声UIを,しかも低コストで組み込むことが難しくなくなっている。
ただし,ゲーム用途における現状での問題として,音声アシスタントの反応は,ネットを介する分だけ反応が遅くなるという点が挙げられよう。たとえば,数フレーム分のレイテンシが快適さや面白さに直結するゲームの場合は,音声への反応の遅さが致命的な問題になりうる。適材適所の見極めと,技術のさらなる進展が必要になるはずだ。
もう1つは,ゲームそのものではなく,「周辺での利用」だ。たとえば,ゲーム内テキストチャットに音声認識技術を利用したり,実況機能への活用したりといった可能性は,十分にありうる。「テキストチャットは面倒だが,ボイスチャットは抵抗がある」という人は少なくないだろう。そういう場合に役立つはずだ。
加えて,ボイスチャットの言葉がテキストデータになれば,自動翻訳も容易になるため,国を超えたコミュニケーションも容易になる。もちろん完璧な翻訳ではないが,こうした使い方はそう遠くないうちに,かなりの精度で実現可能になるだろう。
また,SNSへの投稿やビデオのアップロード,設定の変更などを音声で行うことも,実用的な使用法になるだろう。今のPCや据え置き型ゲーム機でも行えていることだが,スマートスピーカーをゲーム機と接続したり,スマートスピーカーの普及にともなう音声アシスタントの品質向上とセットになることで,ゲームにおいても新しい価値を生み出す可能性は高い。
今のところ,音声アシスタントとスマートスピーカーの市場は,ゲームにはあまり目線を向けていないように思える。だが,そこがつながってくる日も,そう遠くないのではないかと思うのだ。
Amazon.comのEchoおよびAlexa対応デバイス製品情報ページ(英語)
GoogleのGoogle Home 製品情報ページ
LINEのClova WAVE製品情報ページ
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