「ONE PIECE」などの漫画が違法にアップロードされているウェブサイトへのリンク先を紹介するリーチサイト「はるか夢の址」を運営している元大学院生らが逮捕されるという報道がありました。
このサイト、めちゃくちゃ有名でして、私もサイトの利用規約やポリシーを読んだことがあります。こういうリーチサイトやまとめサイトって、「著作権を侵害する意図はございません」とか、「もし問題がございましたら、削除対応致しますのでお問い合わせください」といった注意書きが付されていることがほとんど。
ですが、少なくとも私が当該サイトを訪問した際は、そういった文言は見当たらず、むしろサイトのポリシーとして、「良いコンテンツを世に広める」云々と、著作権侵害を助長するかのような説明書きがなされていたように記憶しています。
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リンクを張る行為の違法性
事案は異なりますが、リンクを張る行為の違法性が争われたものとして、大阪地判平成25年6月20日があります。
この事件は、被告が、自身の運営するウェブサイト(ロケットニュース24)において、「ニコニコ動画」上にアップロードされた原告の動画に付されていた引用タグ又はURLを、ロケットニュース24の編集画面に入力し、記事の上部にある動画再生ボタンをクリックすると、ロケットニュース24上で原告の動画を視聴できる状態にしたことが、原告の著作権侵害に当たるのではないかと争われた有名な判例です。
公衆送信権の侵害
まず、公衆送信権の侵害について、大阪地判は次のように判示しています。
被告は,「ニコニコ動画」にアップロードされていた本件動画の引用タグ又はURLを本件ウェブサイトの編集画面に入力することで,本件動画へのリンクを貼ったにとどまる。この場合,本件動画のデータは,本件ウェブサイトのサーバに保存されたわけではなく,本件ウェブサイトの閲覧者が,本件記事の上部にある動画再生ボタンをクリックした場合も,本件ウェブサイトのサーバを経ずに,「ニコニコ動画」のサーバから,直接閲覧者へ送信されたものといえる。
すなわち,閲覧者の端末上では,リンク元である本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態に置かれていたとはいえ,本件動画のデータを端末に送信する主体はあくまで「ニコニコ動画」の管理者であり,被告がこれを送信していたわけではない。したがって,本件ウェブサイトを運営管理する被告が,本件動画を「自動公衆送信」をした(法2条1項9号の4),あるいはその準備段階の行為である「送信可能化」(法2条1項9号の5)をしたとは認められない。(下線は筆者によるもの)
これは著作権法上も通説的見解であり、自社サーバーに保存せずに、画像や動画の掲載元サイトにリンクを張る行為は、著作権侵害には当たらないとされています。
ただですね。業界的に「直リンクだったらOK」という決して正しくはない認識が広まっているように思います。DeNAのキュレーション問題でも、画像の掲載方式について、経営陣及び法務部は、直リンク方式にすれば著作権侵害を回避できるという認識を抱いていたようにお見受けしますが、これは軽率だったと思います。
例えば、経済産業省の電子商取引等に関する準則によりますと、「インターネット上において、会員等に限定することなく、無償で公開した情報を第三者が利用することは、著作権等の権利の侵害にならない限り、原則、自由であるが、リンク先の情報をⅰ)不正に自らの利益を図る目的により利用した場合、又はⅱ)リンク先に損害を加える目的により利用した場合など特段の事情のある場合に、不法行為責任が問われる可能性がある。」と、一般不法行為責任が成立する余地のあることを示唆しています(140頁)。
また、著作権侵害の点についても、「リンク態様が複雑化している今日、ウェブサイトの運営者にとっては、ウェブサイトを閲覧するユーザーから見てどのように映るかという観点からすれば望ましくない態様でリンクを張られる場合があり、例えば、ユーザーのコンピュータでの表示態様が、リンク先のウェブページ又はその他著作物であるにもかかわらずリンク元のウェブページ又はその他著作物であるかのような態様であるような場合には、著作者人格権侵害等の著作権法上の問題が生じる可能性があるとも考えられる。さらに、そのようなリンク態様において著作者の名誉声望が害されるような場合には、著作者人格権の侵害(著作権法第113条第6項)となる可能性もあるであろう。」と指摘しています(146頁)。
幇助による不法行為の成否
上記判例は更に踏み込んで、直接的に公衆送信権を侵害していなくても、リンクを張る行為が、公衆送信権侵行為の幇助による不法行為に当たるのではないかという点についても、次のように判示しています。
「ニコニコ動画」にアップロードされていた本件動画は,著作権者の明示又は黙示の許諾なしにアップロードされていることが,その内容や体裁上明らかではない著作物であり,少なくとも,このような著作物にリンクを貼ることが直ちに違法になるとは言い難い。そして,被告は,前記判断の基礎となる事実記載のとおり,本件ウェブサイト上で本件動画を視聴可能としたことにつき,原告から抗議を受けた時点,すなわち,「ニコニコ動画」への本件動画のアップロードが著作権者である原告の許諾なしに行われたことを認識し得た時点で直ちに本件動画へのリンクを削除している。
このような事情に照らせば,被告が本件ウェブサイト上で本件動画へリンクを貼ったことは,原告の著作権を侵害するものとはいえないし,第三者による著作権侵害につき,これを違法に幇助したものでもなく,故意又は過失があったともいえないから,不法行為は成立しない。
ここで、考慮された事情は2つ。一つは、本件動画が、著作権者の明示又は黙示の許諾なしにアップロードされていることが、その内容や体裁上明らかではない著作物だったという点。もう一つは、原告から抗議を受けた時点でリンクを削除しているという点です。
このような事情を考慮し、被告には、著作権侵害及び幇助の故意・過失はなかったと認定しているわけですね。「はるか夢の址」では、リンク先サイトにアップロードされている著作物は、著作権者の許諾なしにアップロードされていることが明らかであり、私の記憶では、「削除依頼フォーム」なども設置されていなかったように思うので、上記判例に照らすと、著作権侵害の幇助が認定されてもおかしくないとケースと言えます。
なお、福井健策編著「インターネットビジネスの著作権のルール」には、
リーチサイトは、それ自体にファイルが違法にアップロードされているわけではないものの、ユーザーはリーチサイトに掲載されているリンクを通じて違法サイトなどにアクセスし、違法にアップロードされた著作物をダウンロードすることになるため、違法サイトなどへの道しるべ的な役割を果たしているといえます。
この問題に関しては、リーチサイトの運営・管理行為は、著作権侵害そのものではないものの、著作権侵害の教唆ないし幇助にあたるとして差止請求(リンクの削除請求)を認めるべきであるとする見解もあります。
との指摘があり(235頁)、リーチサイトの運営・管理行為について、特に判例のような事情を考慮要素とすることもなく、「著作権侵害の教唆ないし幇助にあたる」とする見解も見受けられます。
まとめ
一昔前であれば、「リンク行為は適法」という認識がまかり通っていたのですが、今回の運営者逮捕を受けて感じることは、リーチサイトが著作権侵害を助長しているという現実を、捜査当局が無視できなくなったのではないかと。そもそも起訴されるかどうかも分かりませんが、裁判所がどのように判断するのか注目です。