タモリはブラックホールみたいになんでも吸収して大きくなっていった

昭和から平成の芸能界を駆け抜けてきた喜劇人・小松政夫。にぎやかで元気のあった時代を自ら振り返った半生記『時代とフザケた男』を特別連載。『笑っていいとも!』出演より以前、まだ無名だったタモリと一緒に、新しい芸をバカみたいに真剣に考え、生み出していた頃のエピソードを小松政夫が綴ります。

『笑っていいとも!』は、フジテレビのプロデューサー横澤彪さんからアタシとタモリのコンビでどうかって話が来たんだけどさ。条件はなんですか?ってアタシが聞いたらさ、横澤さんが「月曜から金曜まで、朝の10時入りです」って言うから、ゴルフ行けなくなっちゃうなあと思って断っちゃった。当時のアタシはゴルフに夢中で、その頃タモリはゴルフをやらなかったんだよね。長ーい目で見たら『笑っていいとも!』があんな番組になって、タモリが国民的人気者になるなんてね、なんか不思議だよね。

 タモリとは一時ずっと一緒だったよね。素人の頃から知ってるもん。新宿に「ジャックと豆の木」っていうスナックがあってさ、知る人ぞ知る曲者業界人のたまり場を放送作家の髙平哲郎さんに紹介されてさ、早稲田を除籍になって、今は赤塚不二夫さんのところで居候している妙に面白いヤツだって。たしか髙平さんに「彼も博多です」って言われたのかな。そこはアタシも博多の男だから、地元には徹底的でこだわる。

 タモリにね、

「あんたは博多ね?福岡ね?」

 って聞いたんだ。

「博多です」

 タモリが答える。

「いいか。博多ってのは、博多山笠に出られる場所に住んでないと博多って言えないの!よーく考えて言いな」

 って、タモリに詰め寄った。

「もう一度聞くよ、あんた博多?福岡?」

「……福岡です」

 タモリ、凹んでましたけどね。アタシの中ではタモリと武田鉄矢は博多じゃない!福岡ですよ。でもね、そうはいってもどこか近いニオイを感じてたんでしょうね。アタシも喜劇役者を目指して東京に来たけど、コネもなけりゃツテもない、どうすりゃいいのさこのアタシ。てんで、車のセールスマンになってさ、社会人になって鍛えた話術や観察眼が、植木等のオヤジのもとで花開いたと思ってますからね。タモリも早稲田を除籍になって、福岡戻っていろんな職場転々として、じーっとガマンして、チャンスつかんで上京して、赤塚不二夫さんのところに居候して機会を窺っていたんだよね。

タモリは芸をすぐモノにできる男だった

 今思えばタモリの目指す「笑い」のカタチにアタシも乗ってみようかと思ったのかもしれないな。アタシは自分で言うのもなんだけどさ、当時芸能界きっての「宴会芸」と「瞬間芸」の王者だったからね。タモリをよく引き回したもんだったよ、アタシの代々木上原のマンションにも連れて行ったし、タモリもよく付き合った。

 アイツのいいところはね、音感がいい、ネタをすぐ覚える、ふくらます、アレンジがうまい、すぐ自分のモノにする。とにかくね、耳がイイんだ。今思えば湧き出る泉のごとくアイデアが生まれたんだよね、タモリがいると。

「博多どんたく・博多山笠」って即興コンビ組んでさ、「京劇」のパロディネタをやる。アタシがさ「ここで、シャンシャンシャンシャン、ジャ〜ン!といって登場ね」って、やらせると「シャンシャンシャンシャン、ジャ〜ン!バァ」って1回で覚えてヒトクセつけてくる。この感じ、理屈ではうまく言えないけど、教え甲斐があったけれど、なんか底知れなく無気味でじんわりとおっかなかったですね。

 例えば初期タモリの代名詞である「イグアナ」もルーツがあってさ、アタシがクレージーキャッツについてた頃、谷啓さんと一緒に岩風呂に入っていたんだ。谷さんが風呂場の隅の方で、目だけを光らせてジッとしている。で、「ワニ!」って言いながら両手足を床につけて湯船にスルスルスルッと入って来た。おかしかったねえ、それから大浴場に入るたんびに2人でワニのマネをやってた。この話をアクションつきで教えたら、すぐにタモリ流の「イグアナ」にアレンジしちゃったね。もとネタより面白いから参っちゃうよね、「イグアナ」のルーツが谷啓さんって、笑っちゃうだろ。

 タモリはブラックホールみたいなところがあるんだ、なんでも吸収して自分のモノにして大きくなっちゃう。世間に対してフザケるには最高のパートナーだったね、当時のタモリは。

バカバカしいことをじつに真剣に行う

 アタシの代々木上原のマンションだけでは飽き足らず、湯河原の旅館で「コント合宿」と称して飲んで騒いでネタ作りをしたねえ。みんなバカバカしいことを真剣に考えてたんだ、美しかったねえ。アタシとタモリと作家の髙平哲郎さんや滝大作さん、赤塚さんと団しん也さんと劇団東京ヴォードヴィルショーの石井愃一さんもいたかな、トヨペットの宴会部長時代のネタをもとにいろいろコントを作りましたよ。

 舌を出して「ポラロイドカメラ」とか、全部人間で表現する「公衆便所」とか、腹減って寿司頼んだら、それで思いついた「寿司将棋」とかね、もういい大人が真面目にフザケてた。傑作が「製材所」ってネタでね、アタシのセールスマン時代の隠し芸なんだけどさ、電動ノコギリを前に、丸太や角材、べニヤ板などを次々と切ってその音を楽しむネタで、これを「博多どんたく・博多山笠」で組んで切りまくるんだ。アタシらワルノリしてさ、いっそのこと有名人や文化人も切っちゃえってことで、大橋巨泉さんや永六輔さんや寺山修司さんや岡本太郎さんらを材木に見立ててね、モノマネで切ることになっちゃった。

 例えば巨泉さんだと、モノマネでね、「なんたって、野球は巨人、司会は巨泉、ウッシッシ」で、チュイーンって真っぷたつ。

「なんたって、なんたって、なんたって、ウッシッシ、ウッシッシ……」

 モノマネでリフレインしながらはかなく切られていくんだよね。コレがウケてさ、当の巨泉さんが大喜び。2人のコントは巨泉さんの肝いりで日本テレビ『PM』で「そのまま見てください、私は今日は何も申しません!」 って丸ごと特集されたりしたもんだったよ。

 で、『笑っていいとも!』が決まってタモリが毎日忙しくなってさ、なんとなく疎遠になっちゃった。『笑っていいとも!』のテレフォンショッキングで呼ばれた時は、すごい久びさだったもん。リハーサル中に、「おーい、タモリ!」って声かけたらスタッフいっせいにシーン!ですよ、あのタモリさんを呼び捨てにするオッサンは誰だ?みたいな目で。ああ、タモリもそんな存在になったんだなあと思ったらちょっと寂しくなったけど、うれしかったですよ。ああフザケ続けてよかったなあって。

 アタシはまだまだフザケ続けてますけどね。「博多どんたく・博多山笠」コンビでまた世の中斬りたいよね。

NHKドラマ『植木等とのぼぜもん』が話題!高倉健、キャンディーズ、タモリ、AKB48……あのスターたちの知られざる姿を”小松の親分”が綴った

この連載について

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時代とフザケた男~エノケンからAKB48までを笑わせ続ける喜劇人

小松 政夫

昭和から平成の芸能界を駆け抜けてきた喜劇人・小松政夫。昭和の一時期、宴会芸は「デンセンマンの電線音頭」か「しらけ鳥音頭」でした。学校では子どもたちが机の上に登って小松政夫や伊東四朗のマネをして踊った時代。それは「小松の親分」こと小松政...もっと読む

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locksley6k <いいともゲスト回よく覚えてる 約5時間前 replyretweetfavorite