『Hellblade』の売り上げは開発者の予想を超えるペース。インディーゲームとAAAゲームの中間を狙う「Independent AAA」を実践

今年8月、Ninja Theoryは『Hellblade: Senua’s Sacrifice』をPC/PlayStation 4向けに発売した。ヴァイキング時代に生きるケルト族の女戦士を主人公とする3Dアクション・アドベンチャーゲームで、主人公が抱える精神疾患を大きなテーマとした作品だ(弊誌レビュー)。本作はメディアやユーザーから高く評価されたが、その売り上げもまた好調だという。Ninja Theoryの共同設立者で、チーフクリエイティブディレクターを務めるTameem Antoniades氏が、海外メディアVenture Beatとのインタビューの中で明らかにしている。

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Antoniades氏は、本作の開発費を回収するには発売から半年かそれ以上はかかるだろうと考えていたが、3か月足らずでほぼ回収できたとし、予想以上の売れ行きだと語る。Ninja Theoryは、これまで『Dmc Devil May Cry』や『ENSLAVED ODYSSEY TO THE WEST』などの大作を手がけてきたが、本作は同スタジオとしては初めての自主販売だった。Antoniades氏は利益の大部分が自らの収入になったことも、この早さに繋がっていると説明している。具体的な数字への言及はなかったが、SteamSpyではSteam版の所有者数は約17万人となっており、ここにPS4版やGOG.comでの売り上げが加わることになる。

本作の成功はNinja Theoryにとって素晴らしいことであるが、業界にとっても大きな意味を持つかもしれない。Antoniades氏はかねてより、小規模なインディーゲームと大規模なAAAゲームの間のぽっかり空いたスペースに活路を見出す「Independent AAA」という考えを提唱しており、『Hellblade』はそれを自ら実践した作品だったからだ。

Image Credit: Ninja Theory

Antoniades氏のいうIndependent AAAとは、インディーデベロッパーが持つ自由と、AAAゲームのクオリティを合わせ持つゲームあるいはビジネスモデルのこと。両者の大きな違いは、パブリッシャーが介在しているか否かだ。もちろんインディーゲームにおいてもパブリッシャーがついている例は多々あるが、ここでは「お金は出すが口も出す」パブリッシャーを指している。莫大な開発費を拠出するのだから、パブリッシャーにとってはある意味当然の権利かもしれない。デベロッパーは大規模でリッチなコンテンツを開発できる代わりに、クリエイティブ面の自主性やユーザーとの繋がりは制限される。もちろん、作品の権利を手にすることもない。Independent AAAでは、インディーデベロッパーのようにこうした権権利(や責任)を確保しつつ、小規模ながら濃密な体験を生み出すことを目指している。

Image Credit: Ninja Theory

『Hellblade』では、Ninja Theoryは開発状況をその都度公開し、ゲーマーからの意見を聞きながら開発を進め、伝えたいテーマ・ストーリーにフォーカスして余分なものは極力排除しつつ、その体験を高めるために必要だと思ったことは積極的に導入した。そして、Unreal Engine 4とパフォーマンスキャプチャを駆使して最先端のグラフィックやキャラクター表現を実現しながら、ゲーム全体のボリュームは抑えているため販売価格は約3000円と、一般的なインディーゲームとフルプライスゲームの中間に設定している。Antoniades氏は、本作で取り入れたことの多くは万人向けのアイデアとは言えないため、AAAゲーム開発では実現できなかっただろうと振り返っている。そして今回得た経験と結果をまとめて、Independent AAAを目指す開発者と共有する予定だそうだ。

インディーゲームとAAAゲームの良いとこ取りをするようなIndependent AAAは魅力的に映るが、ハイエンドの技術力を要するため、誰もがこのカテゴリに参入できるわけではないだろう。Antoniades氏も基本的には中規模クラスのスタジオを念頭に置いて提唱している。つまり、Ninja TheoryのようにAAAゲーム開発に携わった経験を持ち、技術はもちろんある程度の資金も持っているスタジオのことだ。Independent AAAは新しい概念ではあるが、これに該当する中規模スタジオは数多く存在する。一方で、さまざまな理由で閉鎖に追い込まれ大きなニュースになることも多い。『Hellblade』はIndependent AAAの概念に則っているという以上に、精神疾患というテーマに真摯に向き合った表現が評価された面もあるが、この新たな試みに成功したという事実は、この業界のトレンドのひとつになりうる可能性を高めたと言えるのではないだろうか。

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