宇宙空間をこだまする、天体の「声」:今週の宇宙ギャラリー
宇宙を航行する探査機が記録するのは、美しい天体画像だけではない。一部の探査機は、天体から放出される電波も記録できる機器を備えている。科学者たちが、その電波を音波に変換することで、文字通り異世界的な音源が生まれるのだ。米航空宇宙局(NASA)がハロウィンを記念して公開した天体の「声」を、最新の画像とともに紹介する。
TEXT BY TOMOYA MORI
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1/3米航空宇宙局(NASA)の土星探査機「カッシーニ」が撮影した土星の姿。右上には、土星の衛星のひとつである「パンドラ」が、1ピクセルほどのサイズで確認できる。PHOTO COURTESY OF NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute
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2/3木星の表面に見える、衛星「アマルテア」の細長い影。NASAの木星探査機「ジュノー」が、9回目の近傍接近を行った際に撮影された。PHOTO COURTESY OF NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS/Gerald Eichstädt
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3/3複数の画像をつなぎ合わせて作成した、エンケラドスの動画。南極付近から噴出される蒸気が、土星に反射する太陽光によって照らされている。NASAの土星探査機「カッシーニ」が撮影。PHOTO COURTESY OF NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute
空気がない宇宙空間では、“音”は発生しない。だから、太陽系の謎を解き明かすべく壮大なミッションを担う探査機は、時に数年間も静寂の中を突き進む。
しかし、宇宙空間には電波や放射線が飛び交っている。そのなかには、天体が放出する電波も含まれている。そして、探査機が記録したその電波は、地上で音波へと変換することができる。
姿が見える、声も聞こえる
上記ギャラリー1枚目の写真は、NASAの探査機「カッシーニ」が撮影した土星の姿。その美しい球体を囲む、氷の粒で形成された何重もの環は、半日〜1日をかけて土星を公転しているという。画像の右上に見える、Fリングと呼ばれるもっとも外側の環の外れには、土星の衛星のひとつである「パンドラ」が確認できる。画像では視認できないかできないかくらいの極小サイズだが、2005年のカッシーニの接近観測によって直径84kmの楕円体だと判明している。
2017年9月に任務を終えた[日本語版記事]カッシーニはミッション中、この土星から放出される強烈な電波も記録していた。この電波は、土星の極域で観測されるオーロラに深く関係しているという。画像から漂う静寂さとは裏腹に、容赦なく襲いかかる吹雪を思わせる音色は、映画『インターステラー』に登場するマン博士が待つ氷の惑星も連想させる。
ギャラリー画像2枚目に映るのは、NASAの木星探査機「ジュノー」によって撮影された木星の姿だ。衛星のひとつである「アマルテア」が、表面に影を落としているのが見える。この細長い影は、木星との位置関係と、アマルテアのいびつな形が原因とみられる。この画像は、2017年9月1日にジュノーが木星に9回目の近傍通過(フライバイ)を行った際に、3,853km離れた位置から撮影した。
2016年7月に木星に到達したジュノーが、木星の磁気圏に突入したときに記録した電波が音波に変換されたファイルがある。木星の表面には、主に水素とヘリウムガスからなる雲がたなびいているが、木星の「声」を聴いていると、まるでその巨大なガスの球体に吸い込まれそうな感覚に陥る。
電波を放出するのは、惑星だけではない。10月7日に紹介した[日本語版記事]、土星の衛星「エンケラドス」も電波を発している。ギャラリー3枚目は、カッシーニが14時間かけて撮影した画像をつなぎ合わせてGIF動画にしたものだ。
エンケラドスの南極付近からは、間欠泉から噴出される蒸気が、土星が反射する太陽光によってぼんやりと照らされている。まるで暗闇を浮遊する生物のような姿のエンケラドスの「声」は、遠く離れた星で鳴り響く、壊れかけのラジオのようだ。
NASAは、今回紹介した3つの「声」以外にも複数の音源を公開している。
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