「保育園落ちた、日本死ね」「待機児童ゼロは嘘だった」

待機児童や保育園の問題がクローズアップされる中「保育士の給料が低いのは誰にでもできる仕事だから」という発言が最近話題になりました。

本当に保育士は誰にでもできる仕事でしょうか?

現役の保育士の立場から、保育士の仕事が誰にでもできるものなのか考えてみました。

細かく保育士の仕事内容についても書いているので、保育士以外の方は議論の参考のためにもぜひ見て貰えたら幸いです。

誤解されがち、子供と遊ぶのが保育士の仕事ではない

保育士の仕事は子どもと遊ぶだけ、一緒にお昼寝ができる、取引先に頭を下げたりしないから楽でいいわね、なんてイメージを保育士に対してもっていませんか?

保育士の仕事は一見すると確かに子どもと遊んでいるだけのように見えるかも知れません。

しかし、よく考えてみてください。

子どもと遊んでいるということはその子どもの命を預かっているという事です。

走って転べば怪我をする、階段から落ちれば命に係わる、プールだって散歩だって危険であふれている。

保護者の方に代わってお迎えまで安全に過ごし、子ども一人一人の成長を手助けをする。

それも1人で1人を見るわけではなく、1人で複数人を見ています。

『複数の命を預かる』それが保育士の仕事です。

それでも誰にでもできると言い切れるでしょうか?

保育士の仕事はこんなに激務

待機児童や保育所不足が叫ばれる中、保育士の資格を持ちながら保育所で働いていない潜在保育士の存在が大きく取り上げられるようになりました。

なぜ保育士にならないのか。

その理由に保育士の仕事が激務だという事があげられます。

保育士の仕事は子どもと関わる以外にも多岐にわたります。

  • 年間カリキュラムから始まり、月案、週案、日案、個別指導案といった書類
  • 保護者との連絡を円滑に行うための連絡帳の記入
  • 運動会や発表会といった行事の計画と準備(大きな行事以外にも、毎月の誕生会や季節の行事が事細かにあります)
  • 避難訓練の計画と実施(プール前には救命救急の講習も受けに行きます)
  • 教室を飾るための壁面装飾や子どもの製作物の準備
  • 園庭や保育室の整理整頓、整備、点検

細かいことを言えばキリがなく、幼児クラスに至っては1人担任も多いので、1人でこれをすべてこなします

他の仕事も似たようなものよと思うかもしれませんが、この作業を子どもと関わりながら毎日こなしていかなければなりません。

子どもの行動は予測できないことが多く、時間を守ってはくれません。

そのため仕事が終わらず家に持ち帰り、結果、激務に耐えられずやめていく保育士が後を絶ちません。

保育士の一日の流れ。早番の場合(7時~16時)

保育士の仕事はいったいどのようなものなのか、簡単に説明したいと思います。

6:30

7時に保育園を開くため開園準備のために30分は早く出勤します。

空気清浄器をセットしたり前日の引き継ぎを確認したり、保育室を清掃し子どもの登園をまちます。

7:00

保護者に家庭での様子を聞き子どもを受け入れます。

この時、怪我はないか、いつもと違うことはないか目視で確認します。

9:00

朝の合同保育から各クラス単位での活動に移ります。

乳児は補食の準備をし、幼児は朝の支度が自分でできるよう見守ります。

10:00

散歩に出かけたり製作をしたりといった日中の保育活動を行います。

活動も子どもの成長を考えて散歩先を設定したり製作の内容を考えたりします。

11:30

年齢により時間にばらつきはありますが給食の時間です。

保育士も一緒に食べますが、一緒に食べることは給食の指導にもあたるので、子どもにスプーンの持ち方を伝えたり配膳をしたりと忙しなく動いています。

食べこぼしも多いので、あっちでお茶をこぼした、こっちでご飯を落としたなんていう事はしょっちゅうおこります。

13:00

給食の後片付けを終えて、お昼寝の時間です。

ようやくひと段落と思いきや、寝ている間も乳児は10分(年齢によっては5分)に1回のブレスチェック。

連絡帳や書類を書き、日によっては会議を行い、起きるまでに休憩を回します。

仕事の残っている日は、15分もクラスを離れられれば良い方です。

15:00

子どもを起こし、おやつの準備をしておやつの配膳を行います。

おやつが終われば帰りの会をし、保護者への引き渡しの連絡事項を確認しているうちに終業時間がきます。

16:00

終業時間ではあるものの、明日の保育の準備や、行事前は行事の作り物等があるので閉園時間いっぱいまで残業をすることもあります。

保育園は開園時間にあわせてシフトで動いているので、遅番で20時に帰った翌日7時から早番という日もよくあります。

子育て=保育?

この一日の流れを見てもらうと分かると思いますが、子育てと保育は本当に同じものでしょうか?

私の勤務先にも子育てをしながら保育士の仕事を続けている人は何人もいますが、全員が「子育てと保育は=ではない」と口をそろえて言います

私も娘がいますが、子どもを産んでみて保育士の経験が役立ったことといえば、オムツ替えの仕方を知っていたこととミルクの作り方を知っていたことくらいです。

子育ての方が大変だとか保育の方がつらいとか、そんなことは思ったことがありません。

保育と子育てでは大変だと思う事の種類がそもそも違うのです。

保育の仕事はアナログだらけ

保育の仕事では前記した月案などの書類をはじめ、毎日書いている連絡帳や保護者配布物などほとんどの書類がいまだに手書きなのが現状です。

そしてパソコンやネットといった現代の機器を利用しないからこそ、園によっては考えが閉鎖的で、長く続いている園では一昔前の風潮(たとえば子どもの写真を親の許可なく勝手に使うパソコンが共有で個別のパスワードなどがなく、園内の人間であれば誰でも閲覧できる状況)がいまだに可と思われている所もあります。

閉鎖的で外からの意見を取り入れることがあまりない職場だからこそ、このような発言があったこと自体知らない人も多いのです。

子供はかわいいし好きだけど、給料が安いなら続けられない

保育士資格を持っていてもなろうとしない理由で最も多いのが給料面の問題です。

保育士の給料は激務にもかかわらず、安月給でほとんど昇給しないのが現状です。

子どもはかわいいし仕事も毎日が充実している。

それでも給料が安くては自分の生活が危うく、転職を決断する保育士も多いのです。

保育士の家庭のお金事情

保育士が安月給な理由を駒崎弘樹さんも述べていましたが、園で個別に徴収する金額はほぼなく徴収することも制限されているので補助金をあげてもらう以外に方法はありません。

現在の園に勤めて5年程度ですが、昇給した額は微々たるもので、昇給のない年度もありました。

現在の手取りは約18万円

基本給189,000円+手当29,000円の218,000円から税金45,000円がひかれています。

初年度の基本給は180,000円でしたから、5年間で9,000円上がっただけでした。

そこから家賃7万、食費をきりつめても月3~4万、光熱費や携帯代を支払うと手元に残る額はほとんどありません。

現在は娘の保育料も払っているので、貯金できる額は皆無に等しい状況です。

保育士の求人をみるとそこまで他と変わらない印象を受けるかもしれませんが、昇給を見込めないためほとんどの保育士が結婚や出産で辞めていきます

勤務時間も固定ではない上に持ち帰りの仕事も多いので、家族の理解がないと続けていくのは困難です。

現役保育士として思うこと

保育士に憧れてなった新卒が1年も経たずに辞めて行く…

保育の仕事はとてもやりがいがあり、子どもの成長を間近で感じられるとても素敵な仕事だと思っています。

子どもの頃保育園や幼稚園の先生にあこがれて「なりたい!」と思った人も多いのではないでしょうか?

今でも小学生がなりたい職業の10位以内に必ずランクインする人気の職業です。

しかし現実は給料が安く仕事は激務。

プライベートも仕事に追われる毎日です。

人件費や教材費に回すことのできるはずの補助金も、保護者からの要望に応えるべく英語や体操教室といった外部講師を雇うことに使われ、保育士は酷使されるばかりです。

保育士になりたいとあこがれて入社した新卒の先生が、現実を知り1年とたたないうちに辞めていく人を何人も見てきました

ひとりでも多くの人がやりがいをもってこの仕事を続けていけるよう、子どもたちのためにも制度の改善を期待しています。

誰でもできるのになり手がいないのはなぜなのか

なぜ「誰でもできる」と言われた職業なのになり手がいないのか?

誰にでもできるなら保育の仕事は人員が飽和状態になったっていいでしょう。

しかしふたをあけてみると保育士の人数は不足しており、有給や代休もとれず、ぎりぎりの人数でまわしている保育園もたくさんあります。

このことからも、保育士が「誰でもできる職業ではない」ことを表しているのではないでしょうか。

保育士のなり手がいない理由

なり手がいないのは保育士の仕事が激務であり給料が安いこと、そして結婚し子どもが生まれたときに復帰が難しい職業であるからだと思います。

自分の子どもを預けて他人の子をみるという事に対し、周りの人から「かわいそう」と言われることがあります。

「預けて他人の子を見るなら自分の子を見ればいいのに」そう思う方もいるかもしれません。

そういった周りの視線も、保育士や幼稚園教諭に寿退社が多い事につながっていると思います。

保育士にとって子育て経験はプラスになります。

だからこそ子どもを産んでからも続けてほしい。

誰に対してもあたたかく見守ってくれる、そんな世の中であってほしいと願っています。

今後、国や自治体に保育士としてお願いしたいこと

保育士の仕事は誰にでも「できる」仕事ではありません。

ですが、保育士の仕事は誰にでも「なれる」仕事だと思っています。

実際に潜在保育士がたくさんいるように、薬剤師や医師と違い、専門の学校に入学し指定の単位と実習をこなせば卒業だけで資格を取得することができます。

保育士はたくさんいるのにやろうとする人がいないという現実を受け止め、保育士資格がない人でも保育の業務をやってもいいという発想ではなく今働いている保育士の待遇をよくし、辞めさせない、辞めなくても良い制度を整え、保育士として働こうと思えるような社会を築いていってほしい

そして待機児童の話題がのぼる中で、保育園の数は徐々に増えてきたものの、保育園で働く保育士は少なく、現場は少ない人数でぎりぎりの中、保育をしています。

机上での議論だけではなく、実際の現場の声を聞いてほしい。

本当に必要な政策は何なのかをきちんと見定めてほしい。

保育料の無償化ではなく全入化を先にし、保育の現場の質を高め、子どもたちの未来のためにも少しでも変化が訪れることを祈っています。