青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

「ハライチ岩井 フリートーク集」の凄味

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突然ですが、2017年にリリースされた音源のベスト1が決定いたしました。「ハライチ岩井 フリートーク集」である。「ハライチのラジオがおもしろい」というのは何度も目にする文言でしたが、すでに放送が開始されているラジオ番組を新規で聞き始めるというのは、かなりのリテラシーが求められる。ラジオ番組の特有のグルーヴというか、ルールのようなものを飲みこまねばならないからだ。その点において、この「ハライチ岩井 フリートーク集」は、導入にうってつけである。番組内の岩井フリートークのみが編集され、トークをトラックで区切りタイトルで管理、更にはトップ画にタイムスケジュールまで記載してくれている。まるで1枚のアルバムを聞くようにして楽しめる。


1曲目の「電車」を試聴さえすれば、それ以降のトラックに耳をふさぐのは難しいだろう。岩井の淀みのない流暢な喋りとその声質の良さ、巧みな情景描写とオチに向けての緻密な構成力(無駄な言葉が一つもない)、そして忘れてはならない相方・澤部の聞き手としての優れた力量・・・その他もろもろが組み合わさって、思わず声を上げて笑ってしまった。この岩井勇気が『人志松本のすべらない話』に出演していないなんて嘘みたいだ。その後、待ち受けているのは夢のような3時間46分。お気に入りのトラックを繰り返し聞いて楽しみ(繰り返しの視聴に耐え得るトークなのだ)、今ではリアルタイム視聴と並行して、『ハライチのターン』の過去のアーカイブスを第1回放送から聞き漁っている。移動中のこの上ない楽しみである。「ハライチ岩井 フリートーク集」の音源をアップして下さったtalk.ht954様に心より御礼申し上げたい。


「ハライチ岩井 フリートーク集」はもう全トラックが好きなのだが、あえてオススメを挙げていってみよう。1番は12曲目の「隙あらば実家に帰る」になるだろうか。そのままハライチの漫才として披露されても、震えるほど感動するに違いない。「せっかく1人暮らしを始めたというのに、暇を見つけては実家に帰る」という30歳過ぎの男の情けなくも愛おしい人間性だけでもすでにおもしろいのに、「隙あらば実家帰りたい」というワードが繰り替えされる面白さに旨味を見つけ、話がどんどん悪ふざけの方向に転がっていく。思いついたままに喋っているようで、隙あらばの“隙”の時間が的確に短くなっているのが凄い。「居酒屋で釜飯の炊きあがりまでに40分ほど頂きますって言われたら、待ってる間に実家帰りたい」「紙コップの自販機を待っている間に実家帰りたい」に痺れまくった。


そして、代表曲に数えたいのが11曲目「死の庭」と19曲目「裏の世界」である。これぞ、イリュージョン話芸である。ここまで堂々と、ホラ話をエンターテインメントとして成立させてしまう話し手が、現在何人いようか。繊細な手つきで、嘘のディテールを積み上げていき、日常のすぐ裏側に虚構の世界を作り上げるバランス感覚が絶妙。「裏の世界」は奇しくも現在話題沸騰中のドラマ『ストレンジャー・シングス』と共鳴している。シーズン2を観ていて、「ペットボトルの水と塩さえあれば、裏から元の世界に戻れるぞ!」とウィルに伝えたくなったハライチファンは少なくないことだろう。こういう事を書くと、一部の反感を買いそうですが、「死の庭」や「裏の世界」での岩井のトーク力は、脂が乗り切っている頃の『ダウンタウンガキの使いやあらへんで!』のフリートークに匹敵するのでは。と、同時にポップカルチャーの教養がほぼないと思われる松本人志がああいった質感のトークを量産していたことにも改めて恐れ入る。


サウナ・風呂好きとしては2曲目「スーパー銭湯」もたまらないものがある。あのヌメっとした”子ども”の連呼が、病みつきに。来るとわかっていてもおもしろい。ミニマルな繰り返しが転がっていくハライチの漫才の旨味が凝縮されている。10曲目の「パンサー向井」のメドレーもうれしい。聞いた誰もが、”かわいいかよ”というフレーズが言いたくてたまらなくなるに違いあるまい。「俺、ピザ好きなんだよね」って言って食い出すも、すぐにお腹いっぱいになっちゃう向井の描写がとりわけ好きだ。こちらを3本メドレーに仕立てあげたtalk.ht954さんのセンスも最高。16曲目「アンパンマン考察」の鋭い着眼点とドライブ感のある論理展開は、正直こういったブログを書いている人間として嫉妬しかない。ゼロからイチを作れるだけでなく、ああいった批評性まで持ち合わされてしまったら、お手上げだ。そんなこんなで、永遠に褒め称えてしまいそうになるので、ここらでやめにしておきたい。ぜひ、この「ハライチ岩井 フリートーク集」をきっかけにして、ハライチのラジオの世界に埋没して頂きたい。