10月28日から11月5日まで「第45回 東京モーターショー」が開催されている。「今回の一番の見物は何ですか?」と既に10回やそこらは聞かれた。何せ出品者である自動車メーカーの広報まで聞いてくるのだ。
今回はその説明が一番面倒だった。どこそこの自動運転車とか、どこそこの固体電池のクルマとかなら「ああそうですか」で終わるのだが、今回はタクシーなのだ。クルマの出来も良いけれど、正直そんなことはどうでも良い。トヨタはついにコネクティッドカーの使い方でIT連合をぶっ飛ばす最終兵器を開発したのだ。このおだやかでコロンとした風情のタクシーはおとなしいを顔しているが、グーグルやUberを吹き飛ばす決戦兵器である。
まずはこのクルマ「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」の成り立ちから話をしよう。このクルマ、実はシャシーはシエンタと共通である。というより、シエンタの開発と同時に企画された双子製品となっている。
ロンドンタクシーを模したようなデザインは、室内高1370mm、前後席間距離1065mmと広々とした客室を実現し、丈の高いキャビンを利して座面に対して高い位置まで広げられたサイドウインドーは窓からの景色の見え方を劇的に変えた。海外から来た観光客が高層ビル群や東京タワー、あるいはスカイツリーを眺めるとき、従来と比べて圧倒的に上方視界が開けている。
ショー開幕の数日前に運転手付きで乗せてもらったので乗り心地も味わった。ストラットのフロントと、トーションビームアクスル(TBA)のリヤサスという、これ以下はほぼない単純な仕掛けなのに、乗り心地も良い。さすがに鋭い突き上げは通してしまうが、これまでのタクシーを基準に置けばはるかに高級な乗り味だ。
欠点はリヤシートのトルソアングル、つまり背もたれの倒れ具合が明らかに倒しすぎなこと。かかとの置かれる床から高い座面位置で骨盤を立てて座ろうとすると、背もたれが倒れすぎのせいで骨盤に上体の体重が乗らないから腹筋で支える姿勢になる。特にお年寄りには辛い姿勢だ。トヨタがこんな見識なのかと思って聞けば、タクシー会社にヒヤリングした結果、シートバックを倒せと言われたらしい。「それがお客さまのお好みです」。
バカを言ってはいけない。その座り方は危ない。人体構造は背中を倒そうと思えば、尻が前に出る仕組みになっているし、かかとも前方に投げ出されるようになっている。床屋の椅子だって倒れる時はオットマンで脚を持ち上げる。床面と座面の位置関係をあのようにした以上、背もたれを倒してはいけない。人間の上半身と下半身は1つながりなのだ。トルソアングルの狂った椅子に座ろうとすれば、尻をだらしなく前へズラして座ることになる。ということは、シートベルトが正しく機能しなくなるではないか。
飛行機の機長は乗客の安全のためなら乗客の行動を当たり前に制約する。客のご機嫌を取ることが客の安全より大事と言わんばかりのこのタクシー側の言い分はプロ意識に欠けていると筆者は思う。
一方で、運転席と助手席は、腰の後ろ――いわゆるランバーサポートがしっかりしていて、骨盤がちゃんと立っている。タクシードライバーの職業病である腰痛はこのおかげでだいぶ緩和されるだろう。それが分かっているなら客のシートも同じ考え方にしろと言いたい。
さて、この上背のある独特のボディを走らせるのは液化石油ガス(LPG)ハイブリッドシステムだ。プリウスはガソリン内燃機関とモーターの組み合わせだが、こちらはLPG内燃機関とモーターの組み合わせ。タクシーのような都市内交通の担い手は発進と停止が多いので、エネルギー回生率はかなり高くなるはず、常識的に考えて従来比15%程度は実用燃費が抑えられるだろう。と、ここまで書いた話はまったくもって本質ではない。JPN TAXIの本質はクラウドとAI(人工知能)だ。
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