THE ZERO/ONEが文春新書に!『闇ウェブ(ダークウェブ)』発売中
発刊:2016年7月21日(文藝春秋)
麻薬、児童ポルノ、偽造パスポート、偽札、個人情報、サイバー攻撃、殺人請負、武器……「秘匿通信技術」と「ビットコイン」が生みだしたサイバー空間の深海にうごめく「無法地帯」の驚愕の実態! 自分の家族や会社を守るための必読書。
October 30, 2017 08:00
by 牧野武文
ビットコインは、採掘によって常に新しい通貨が生まれている。効率的な採掘方法を発見すれば、ゴールドラッシュと同じように大儲けができる可能性がある。現在、中国では四川省、貴州省、内モンゴル自治区などに、大型のビットコイン採掘場が続々と誕生していると今日頭条が伝えた。
仮想通貨であるビットコインは、今では多くの人が知るものになった。といっても、投機や資金洗浄、違法な国外への財産持ち出しなど、ブラックなことに利用される報道が多く、「危ないもの」「近寄ってはいけないもの」というイメージもある。しかし、THE ZERO/ONE読者であれば、ビットコインに使われているブロックチェーン技術に興味をお持ちだろう。ブロックチェーン技術は、分散型の台帳として、世界を変える技術になる可能性があるからだ。
ブロックチェーンでは、取引記録をブロックにして管理をする。このブロックを実に賢い方法で接続をしていくというのが、ブロックチェーン技術のポイントだ。万が一、取引記録が改ざんされた場合、このブロックの接続ができなくなるため、改ざんされたことがすぐにわかる。取引記録のチェーンは、ミラーリングされ分散保持されているので、チェーンが切れた記録は不正なものとして破棄される。つまり、「改ざんができない」ではなく、「改ざんされてもすぐに破棄されてしまう」ことで、セキュリティを担保しているのだ。
AとBという2つのブロックを連結することを考えよう。まずAのブロックに取引記録のデータが格納される。このデータを元にハッシュ関数を使って、値が計算される。ハッシュ関数は、一定のアルゴリズムで1対1に対応する値を演算する関数だ。つまり、万が一、Aのブロックのデータが改ざんされた場合、ハッシュ関数の演算結果は違ったものになってしまう。これがAのブロックの接合部の凸部分となる。
次のブロックを接続する場合、Aの凸部分の数値に基づいてナンス値を計算する。これがBのブロックの凹部分となる。適切なナンス値であれば、凸と凹がうまく噛み合って、接続できることになる。
このナンス値の数学的な意味については、専門書などを参照していただきたいが、重要なのは、適切なナンス値を計算するには、ものすごく手間がかかるということだ。おそらく世界中の数学者やハッカーが、効率的にナンス値を計算するアルゴリズム、ハッキング手法を考案しようとしているだろうが、現在のところ、総当たり式で計算するしかないと言われている。大量のコンピューターを投入する必要がある。
この「ものすごく手間がかかる」ということが、ブロックチェーンのセキュリティを支えている。例えば、10個前のブロックのデータを改ざんしたとする。すると、10個前のブロックのハッシュ値(凸部分)が変わってしまうので、9個前のブロックのナンス値(凹)を計算し直さなければならない。これだけでも大変な労力が必要になるが、9個前のブロックのナンス値が変わると、ナンス値と格納データを元に計算される9個前のブロックのハッシュ値も自動的に変わるので、8個前のブロックのナンス値も計算し直しになる。こうして、7個前、6個前…とすべてのブロックのナンス値を計算し直さなければならなくなる。
そんなことをしている間に、ブロックチェーンには新たなブロックが付け加わっていく。アキレスと亀の話のように、どうやっても追いつかないことになってしまうのだ。
問題はこの手間のかかるナンス値の計算を、誰がやるのかということ。ビットコインでは、このプロセスをマイニング(採掘)と呼び、ナンス値を計算してブロックチェーンの維持に貢献した人に、適切な額のビットコインを進呈する仕組みになっている。無から有を生み出す、まさに採掘作業なのだ。
この採掘は世界中で行われているが、一説によると世界のビットコインの70%は中国で採掘をされているという。
大きな理由は2つある。ひとつは安価なコンピューターが豊富に手に入れられ、電力も安く手に入るということだ。ふたつ目は、中国では各地に大学ができ入学者数が増えているが、その急増ぶりに追いつくだけの仕事がない。工学系の優秀な人材が、無職のまま放置をされている。このような事情があるため、中国ではデジタル系の詐欺犯罪が横行している。ビットコイン採掘場は、違法でもなんでもない正当なビジネスだが、このような人材が低賃金で確保できることも大きい。つまり、低コストの採掘場ができるのだ。
中国の中でも、続々と採掘場が誕生しているのが四川省、貴州省、内モンゴル自治区といった内陸の農村地帯だ。高地で気候が寒冷なため、廃熱の問題がない。また、人家のない土地がふんだんにあり、騒音問題も気遣う必要がない。さらに、川も多く、ここに小さな水力発電施設を設置してしまえば、電力もきわめて低コストで手に入れることができる。
四川省の康定にある採掘場は、深?市のあるIT企業が運営するもので、独自に水力発電施設を建設し、24時間稼働をしている。4つの建物があり、各建物の中には約7000台のコンピューターが動いているという。規模はさほど大きくはないものの、それでも運営者によると、世界の5%のビットコインをここで算出しているのだという。
また同様の条件が揃う貴州にも採掘場が増えている。その中のひとつでは、まさに採掘場の準備をしている最中だった。コンピューターをラックに並べるとともに、排熱ファンが必須で、スタッフはその準備に忙しい。この採掘場は、倒産した工場を安く買い取ったものだという。
採掘場の一棟。完全密閉ではなく半開式の建物であることに注意。雨量が少ない場所なので、この方法が廃熱がうまくいくのだという。ファンの稼動音はかなりの騒音となるが、人家のない場所なので騒音問題も心配ない(今日頭条より)
写真左岸に並ぶ小さな建物群が採掘場。自力で水力発電装置を設置し、低コストで電力を調達している。四川省の川沿いにはこのような採掘場が続々誕生している(今日頭条より)
いかにも中国クオリティの内部。ケーブルは接続さえしてあればいいとはいうものの、日本人の感覚では、ないか落ち着かないものを感じる(今日頭条より)
しかし、最近では、かなり本格的な採掘場もでき始めている。内モンゴル自治区に建設されたこの工場は、150m×20mの建物で、広さは3000平米、サッカー場2つ分に近い。これが4棟ある。経営者によると、建物の建設は15日間、中の設備に10日間で可能で、今後、必要に応じて増設していく予定だという。
外壁には謎の金属がぶら下がっている。これは熱交換器で、エアコンの廃熱を効率的に外に逃がすための装置だという。内部は清潔で、整然としており、常に室温25度に保たれているという。
外壁にかけられている謎の装置。内部のエアコンの廃熱を効率的に放出する装置だという(今日頭条より)
内部は整然と装置が並べられている。室温は常に25度に保たれている(今日頭条より)
ビットコインの採掘が事業として成立するかどうか。それはビットコインの相場しだいだ。中国政府は、人民元とビットコインの交換に強い規制をかけているが、これは中国国内の人民元をビットコインに変えて、海外で換金をする、つまり、合法的に人民元を海外移転させられることを恐れているのであって、ビットコインの取り扱いそのものを禁じているわけではない。むしろ、最初からビットコインを採掘すれば、その分、中国の富を増やすことになるので、政府は奨励まではしていないものの、採掘に規制をかけることはないと見られている。
現在は、中国資本が採掘場建設に乗り出しているが、今後は、人件費、電気代、土地代などの安い中国に、海外資本が採掘場を建設することも考えられる。中国は、ビットコインの主要産出国になろうとしている。
比特幣(bitebi):ビットコイン。比特(bite)は「ビット」の音を取ったもの。幣は通貨のこと。中国の新語には、音そのまま+中国語の組み合わせのものが多い。有名なのは迷儞裙(miniqun)=ミニスカート。迷儞は「ミーニー」という音。裙は「もすそ」(古代中国のロングスカートのような衣装)。
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