ここ1ヶ月ぐらいは、海外のメンバーと仕事をしているが、Serverless Hackfest というイベントと、Serverless Conf やワークショップに関わっているので仕事量が増えていった。日本にいることだし、久々に「日本流」のハードワークをしてしまったのだが、一つ気づいたことがあった。それは、ここしばらくの謎だった、日本人のIT エンジニアはなぜイノベーティブな感じがしないのか?ということに対する問いだった。
Microsoft Hack week
日本人はイノベーティブ
Rochelle Kopp さんとの仕事で知ったことで、一つとても意外だったことは、アメリカ人から見ると日本人は相当にイノベーティブに感じるらしい。
自分的には、少なくともIT 分野に関しては、向こうの真似ばかりしていて、後追いのイメージがある。私たちも向こうで生まれたツールやサービスばかり使っていて、全然日本から出ていかない。もちろん例外はあるがとても少ない。実際に、米国で働いて見ると、彼らと比べて「人」としての能力に違いはない。日本人のエンジニアでイケてる人にたくさん出会って来たし、向こうは基本コンピュータサイエンスは出ているからベースラインは高いけど、日本のエンジニアでもイケてる人はたくさん現場にも溢れている。むしろ極めているような人は日本の方が多いのではないかとも感じる。ではなぜイノベーティブにならないのだろう。
日本流ハードワークと米国流ハードワーク
自分が日本に帰って来て、久々に、人に言われたからではなく、ついつい仕事をたくさん受けて日本流のハードワークをしてしまった。米国にもハードワークな人も沢山いるが、例えば、「忙しい」というイメージが彼らと違うことに気がついた。日本では忙しいというと、残業は当たり前で、そろそろ休出しないと回らないぐらいのイメージが「忙しい」だが、向こうにいるときは、残業はおろか、定時内にできる仕事量で、しかもそれがだいたい埋まっていたら「Busy」という感じだ。
定時だけを使って、新しい仕事を始められない状態が「Busy」だから、ハードワークな人も、朝も昼も夜もなく働いている人ではなくて、バリューを出すために、たまに日曜とかでも仕事したりするけど、5時に帰るときは帰るし、みたいな感じで、日本みたいな仕事量に追われてパツパツという感じでもない。そもそも仕事量を沢山こなすことが求められないし、誰も喜んでくれない。求められるのはインパクトだ。
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余裕があるからイノベーティブになれる
そういう日本流のハードワークを久々にしてみて気づいたのだが、米国にいて仕事をしているときは、毎日5時で終わりで、大量の仕事をこなすのを求められないので、5時の時点で会社の仕事をしなくてよくなる。私は、3流プログラマなので、家に帰ったら、その日に学んだことを自分のためにブログに書いたり、オープンソースのプロジェクトにプロバイダを書いて貢献したりとかしていた。
ところが、日本流ハードワークをやってしまうとどうなるかというと、そんな余裕は全くない。仕事で新しい技術を使ったら、学んだことをブログにしないと身につかない性格なのに、それをしている暇がない、オープンソースに貢献する時間も圧倒的に減った。米国にいるときみたいに、仕事の中で疑問に思ったことを調べて、コードを書いてブログを書くみたいなことをする暇が全くなくなった。つまり、「仕事をこなす」ことをやっているだけだ。
Bruno と David と会社帰りにウェイクボーディング
私の仮説だが、米国でも Moon lighting と言って、会社の仕事とは別に夜にソフトウェアのプロジェクトをやるという話があるが、前者だと、十分できそうだが、後者の環境だとそんなことしている体力も気力も相当なものが必要だろう。また、日本のハードワークだと仕事をこなしているだけなので、仕事で学んだことをより深く学んだり、全然違うことを学んだり、プロジェクトをしてみたりという時間が取れない。だから、折角イノベーティブな性質を持った私たちが、仕事を沢山こなすことを求められる日本のIT 業界ではイノベーティブになれようがないのではないだろうか?
よりイノベーティブになるための方策は?
つまり、エンジニアに余裕がないから、イノベーティブになりようがないので、「余裕」ができるようにすればいいということになる。
この問題の対策としては、日本に止まるなら、Rochelle さんと作った8つの習慣みたいなものがもっと広まって、多くの人が違いを「認識」し始めることじゃないだろうか。
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それよりさらに良いのは、働き方改革とかの成果を待つより、どんどん転職して海外の企業を体験するのはどうだろう。今まで、「常識」で「無理」と思っていたことが平気で実現されている世界に触れると、「あー、あれって不可能じゃなかったんだ」と思えるようになる。日本では35歳定年説と言われるのに、46歳の私が、今年からSoftware Development Engineer としてコードと再び格闘している。私が得意だった政治的なことは一切していないが、過去最高の給料をもらっている。我慢とか勿体無い。もし、あなたがプロフェッショナルであろうと思うエンジニアであれば、海外の企業とかを一回でもいいので体験するのは本当におすすめだ。
Microsoft のオフィスでの風景
良いエンジニアを確保したい会社さんはチャンスだ。他の会社さんが、低賃金で、仕事量をエンジニアに求めている間に、米国みたいな労働環境を提供してみると、エンジニアにとっては日本にいながらそうなれるのは、超魅力的だろう。しかも、そうなると、エンジニアの成長も早く、イノベーティブになるので、海外進出とかではなく、普通に、世界の一員として活躍できるだろう。ソフトウェアは頭脳労働の権化で、早くタイプできる人が必要なわけではない。成果は数や量ではない。コードで如何にインパクトを出すかだ。そのためには、「こなす」ではなく、本当に「理解し、出来るようになる」ことのほうが重要だ。
海外の企業を体験してみよう
日本では我慢しなければならないものが、全くなく、政治より技術が求められる世界は本当に楽しく、もっとエンジニアリングができるので成長も早い、給料もいい、無理に忙しくないからイノベーティブになれる。
こんな話を聞いたことがある。ある地域のレストランがまずいのは、お客さんが「まずい」と認識していないからで、お客さんが本当に「美味しい」ものを見分けられるようになると、「まずい」ところには誰も寄り付かなくなるので、相対的にレストランの味のレベルが向上するという話だ。それと同じかもしれない。
どんどんそういう人が会社をやめて海外に流れていけば、日本企業でもITの良い人材を確保するために待遇を上げざるを得なくなるかもしれない。プログラマを出来るだけたくさん働かせたいと思うような、労働条件の悪いところで働かなくなるかもしれない。少なくとも、世界が変わるのを待ってるより自分が幸せな方がいいし、もしかするとそっちの方がより日本のためかもしれない。