-ΔV に依存しないNiMH充電回路
2008/07/10 Nishimura Hiromi
市販の充電器は安価で便利なのだが稀に加熱したり充電不良になる。何らかの原因で-ΔVの検出 に失敗するのではないだろうか。そこで-ΔVに依存しない充電器を作ろうと思った。ヒントになったのは「ニッケル水素充電池充電器の製作」。この充電回路 は-ΔVを検出するのではなく間欠充電で充電前にバッテリーの電圧を計測し1.42V以下であれば充電を行う。1.42Vを超えたら充電を終了する。この ような方式のようだ。この原理はテクノコアインターナショナル(株)が 開発した I.C&C 方式というものらしい。実際に製品を販売ようだが4000台の限定販売で現在は販売を終了しているとの事。売っていないのなら作るしか無い。そんな訳で同 じ方式の充電回路を作ってみた。
充電時のバッテリー数 に依存しないようバッテリー個別に充電する方法を採用している。最近この考えが揺らいでいる。放電はバッテリー個別に充電は直列に。そうすると-ΔVの検 出には失敗する可能性はあるが一本だけの充電不良が無くなるのではないだろうか。そんな訳で今回の充電器は実験用。
● 充電方法
詳しい充電方法に関しては「きじとらPC工房」さんの「ニッケル水素充電池充電器の製作」が参考になる。簡単に説 明するとNiMH充電池に抵抗(0.1Ω)を介して1.8Vの電圧を一定時間 (1分)加え充電する。充電休止後(3分)後に充電池の電圧が 1.42Vになったら充電を停止する。非常に簡単な方法である。まったくΔVに関係しないだけに誤検知の可能性が無い方法だろう。ただ何で 1.42Vなのかちょっと疑問。
● NiMH充電用1.8V電源
充電には1.8V数Aの電源が必要。電源には12V1AのスイッチングACアダプタを使いた かったので12Vから1.8Vを作ることにした。この電源に関して「NiMH充電用1.8V電源」 に詳しく書いているので参照のこと。
NiMH充電用1.8V電源
● 充電回路
充電制御にはADコンバータを内蔵するPIC16F88を使用。充電の切替はN-MOS FETを使用。バッテリーの電圧はLM324の差動増幅を用いPIC16F88のADコンバータで計測。結果はLCDに表示。回路を下記に示す。
この回路で、充電時の電流は約2.5A程度であった。前に書いた回路ではバッテリー毎に電流制 限抵抗を付けていたが、考えてみるに、一度に1つのバッテリーしか充電しないので共通化した。そうそう前に書いた回路、PIC16F88のアナログ入力。 全部RAポートにあると勘違い、RBの方にあるよう。基本的な点は同じだがポートを若干変更している。
もう2つ0.1Ωの抵抗を並列に接続しても4A程度であった。FET(SUP85N15)のオ ン抵抗が 0.05Ω程あるためであろう。できるだけ多くの電流を流し充電した方が充電に時間がかからない。そんな訳で電流制限抵抗を100mΩと33mΩに切換え スイッチを付けた。バッテリーの種類で切り替えて使うようにしている。まあ充電はPICのプログラム次第なので色々と試し最適なモードを選んだ方が良いだ ろう。
更に充電電流を増加させるためFETを並列に二個接続しオン抵抗を下げてみた。この方法は有効 である。ただ12V電源の電流が1Aを超えてしまう。また1.8Vの充電用電源、この出力トランジスタの発熱が多くなる。
● 制御プログラム
まだ完成品ではないので参考程度です。
● 実機
完成した実機。バッテリー周りはφ1.6mmの線を使っている。この線の太さによって充電電流 は大きく異なるのでできるだけ太い線を使った方が良いと思う。回路およびバッテリーの発熱は殆ど無いので冷却ファンは不要(充電電流を増やした場合には必 要かも。私は使っていないが)。
● 結果
まず6年程使ってきた実験用の 2300mAhr のNiMH充電池を「変わった放電器」を使い 1.00Vになるまで放電。その後、リファレンスとしてこれまで使っていた充電器 NC-60FC にて充電し再度放電する時の放電特性を計測。結果を下記に示す。
NC-60FCで充電 したバッテリーの平均の放電量は 1531±91mAhr であった。
横軸が時間(分)で縦軸が電圧(V)である。この放電器はバッテリー電圧が 1.00Vになるまで 1.6Ωの負荷で放電させる。今回使用したバッテリーは公称容量2300mAhrなので70%弱までへたっている。
次に本充電器で30sec充電90sec休止モードで 1.42Vになるまで充電し、「変わった放電器」で放電する時 の放電特性を計測した。結果を下記に示す。
平均の放電量は 1496±102mAhr であった。
この2つを重ねたグラフ(ほとんど差がない)
その差は2%程で今回制作した充電器の方が若干容量が少ない。しかし、NC-60FCを使って 充電した場合にはバッテリーの発熱があるのに対し新しく制作した充電器では殆ど発熱が無くほんの少し暖かくなる 程度であった。
備考
1分充電3分休止 モードでは未充電のバッテリーでは 1.42Vを検知できる。でも充電済のバッテリーを再度充電しようとすると 1.42Vに到達しない事があり、その時、バッテリーは発熱する。そこで一回の充電時間を短くすると充電量が低下し、充電量のバラツキも大きくなるよう だ。一回の充電時間は 15秒〜30秒程度が充電量にバラツキが少なく充電停止の 1.42Vを安定して検知できるようである。まだ試験回数が10回未満、バッテリーの種類も3種類なので何とも言えない。
● 感想
充電量はNC-60FCと殆ど差がないことが判った。ただ充電量のバラツキが標準偏差で 10mAhr 程大きかった。充電モードは30秒充電90秒休止が良さそう。これより長いと1.42Vの終了電位を検知できなくなる事があった。これより短いと充電量が 足りず、また充電量にバラツキが多くなるようだ。
従来(私の場合NC-60FCだが)の充電器との充電量の差が殆ど無く、バッテリーが発熱しない点を考えると -ΔVで充電終了を検知する方法よりバッテリーに優しい充電方法ではないかと思う。特に充電量を満充電前に検知できるのは応用の可能性がある充電方法だと 思う。残念ながら何故に充電終了電圧が 1.42V で良いのか不明。不思議な事に本機で何回か充電していると満充電のバッテリーを再度充電しても 1.42Vの充電終了電位を検知できるようになった。特にプログラムも変更していないのだが、不思議である。大電流のパルス充電でバッテリーの内部に何ら かの影響を及ぼしているのか。残念ながら本充電器を使用しても特にバッテリーの性能が上がるとかの感触はいまのところ見られない、普通にいつもの充電器と 同じように使えている。
たかが充電器、何故にここまで時間をかけて作るのか。