「休めない職場」から完全脱却した旅館の秘策

休日を30日増やし残業を減らしても給料はそのままを実現

2017年10月30日(月)

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 休日を30日増やして、給料はそのまま。残業は週に2時間程度。それでもサービスの質は落とさず、利益率は10%にアップ──。「休めない旅館」はいかにしてそんな離れ業を実現したのか。

山口専務(前列中央)と女将(その右)を囲んで社員が集合。休みが増えて、気持ちに余裕が生まれたことで、今まで以上に明るい笑顔でお客をもてなせるようになった(写真:山岸政仁)

 「『笑顔で接客』と言われても、こんな状況でどう笑えというんですか」「忙しいときは毎日11時間も働いて、月に6日しか休みがない。もう耐えられません」

 福井県あわら市にある温泉旅館「グランディア芳泉(ほうせん)」の山口賢司専務は数年前まで、そんな社員の愚痴を聞くのが日課だった。「それでも状況を変えられず、『そう言わずに頑張って』と励ますしかなかった」と山口専務は振り返る。

 毎年夏の書き入れ時は「退職したい」と言い出す社員が必ず現れる。「とにかく社員の言い分をひたすら聞き、いかに引き止めるかが仕事だった」(山口専務)。

 そんな同社だったが、今はブツブツ言う社員がいなくなった。人手不足は解消され、完全週休二日制を実現したうえ、残業は週に2時間程度。さらには経常利益率が10%まで上がったという。

個人客向けにシフト

 グランディア芳泉のルーツは、山口専務の祖父が営んでいた小さな宿だ。父で現会長の輝望(てるたか)氏が1963年に現在のグランディア芳泉を開業。今は兄の透氏が社長、兄嫁の由紀氏が女将を務める。

 温泉旅館の多くがそうだったように、グランディア芳泉もかつては団体客が主流だった。だが、90年代以降、個人のお客が目立ち始める。この流れを先取りし、個人客を意識した宿づくりに乗り出す。2001年に当時珍しかった庭園露天風呂付き客室を設け、人気を集める。

グランディア芳泉は全113室、平均客単価は約2万1000円。客室稼働率は73%と、全国平均より20ポイント近く高い。年間11万人が宿泊する

 他の旅館に先駆け、いち早く個人客に向けてシフトチェンジし成長してきたグランディア芳泉。もっとも、その運営は社員の猛烈な働きに支えられていた。

 数年前まで、グランディア芳泉の年間休日はわずか72日。月に6日しか休みがなかった。宿泊業・飲食サービス業の年間休日の平均は95・7日と全産業中最低(厚生労働省16年就労条件総合調査)だが、それより休みが少ない。

 「今のような働き方を続けていたのでは未来はない。この状況を何とか打破しなければ」

 山口専務は大学卒業後、旧都市銀行を経て、1993年、父と兄に請われて家業に加わった。他人の飯を食った経験がある分、父や兄より客観的に自社の仕事を見ることができた。

 2015年3月、北陸新幹線が開業し、この効果で売上高は約15%アップ。山口専務はこれを好機と捉えた。業績が上向きのときなら、社員も大胆な改革に協力してくれると考えたからだ。

 何とか顧客満足度を維持しつつ、人や残業を増やさず、休みだけを多くする方法はないか──。そう思案していたとき、観光庁の無料オンライン講座「旅館経営教室」をたまたま目にした。

 講座の中の「無駄な作業を省き、その分余った力で顧客に質の高いサービスを提供すれば、労務効率と顧客満足度向上は両立する」という文章に引きつけられた。
「よし、これでやっていこう。この方法なら積年の課題が解決できるはず」。山口専務はそう確信し、改革に着手する。

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「「休めない職場」から完全脱却した旅館の秘策」の著者

荻島 央江

荻島 央江(おぎしま・ひさえ)

フリーランスライター

2002年からフリーランスライターとして活動。現在は「日経トップリーダー」や「日経メディカルオンライン」などに執筆。著名経営者へのインタビューや中小企業のルポを得意とする。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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鈴木 幸一 インターネットイニシアティブ(IIJ)会長