07年6球団1位指名の大場翔太さん、ドラフトの目玉から競輪界の目玉に

2017年10月28日16時0分  スポーツ報知
  • 師匠の馬渕紀明さん(左)の指導を受けながらエアロバイクを懸命にこぐ大場翔太さん
  • 08年、ソフトバンクに入団
  • 競輪選手としてプロスポーツ選手としての再スタートを目指す大場翔太さん

 プロ野球ドラフト会議が26日に開かれた。今年の目玉だった高校通算111本塁打の怪物スラッガー、早実・清宮幸太郎内野手は7球団が1位指名。日本ハムが交渉権を獲得した。かつて東洋大のエースとして6球団から1位指名され、抽選の末、ソフトバンクに入団した大場翔太さん(32)も行方に注目していた1人。昨年現役を引退し、競輪選手を目指して猛特訓中の元ドラ1右腕がドラフトにまつわる思い出や野球人生、新たな挑戦について語った。

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 大場さんは、11月29、30日に行われる「日本競輪学校第115回入学試験(適性2次)」に向け、中日時代から住む愛知県でトレーニングを続けている。プロスポーツ経験を考慮され、背筋力と跳躍力の1次試験は免除。昨年引退した元競輪選手・馬渕紀明さん(46)=パーソナルトレーニングスタジオTRP代表=の指導を受けながら、追い込みをかける日々だ。なぜ、競輪の世界に飛び込もうと考えたのだろうか。

 「引退した後、会社員やスポーツに全く関係ない仕事も考えました。でも体も元気だし、何かにチャレンジしたかった。競輪界には他のスポーツから転向した人もいると聞いていたし、実力次第で稼げるというのも魅力でした。会社員なら1、2年遅れても…ですが、スポーツの1年は厳しい。少し遅いとも思いましたが、やるなら今しかない、挑戦してみよう、と」

 2次試験の内容は、簡単にいえば高い負荷が掛けられた固定自転車を一定時間内にどれだけこげるか。瞬発力が要求され、元プロ野球選手でも30秒間の測定後には倒れ込むほど。8月からは自転車での登坂トレ、スクワットなどのウェートトレで徹底した下半身強化に努めた。

 「もちろん練習も大事なんですが、気持ちが入っていないといい数値は出ない。今は自転車に乗る以外の時間も大切にして、試験に向けてモチベーションを上げることを考えています。頑張っている友人と話して刺激を受けたり、“気持ちを整えるトレーニング”に重点を置いていますね」

 140キロ台後半の直球とスライダーを武器に、東洋大4年春に9勝、秋も8勝。同大初のリーグ戦、春秋連覇に貢献した通算33勝右腕をプロ球団が放っておくはずはなかった。07年の大学・社会人ドラフト会議でオリックス、横浜、ソフトバンク、阪神、日本ハム、巨人が1巡目指名。6球団以上の重複指名は史上6人目(当時)のことだった。当日のことは、今でも鮮明に覚えている。

 「ラジオで名前が呼ばれるのを聞いていましたが、気持ち良かったですね。1位指名の確約は数球団からあったので、安心感と嬉しさがありました。夢に見たプロ野球選手の扉が開ける日ですから」

 抽選を待つ間の心境とは。

 「ドキドキでした。僕は巨人ファンでしたが、弱い球団に行きたいと思っていたんです。その方がチャンスがあると。自分の力を疑っていた所もあるんじゃないですかね。強い所だと(1軍枠に)割って入れない可能性がある。(同年最下位の)オリックスに行きたかった。メンバーも揃っていたし、絶対に強くなると思ってましたから。でも実際、入れるならどこでもよかったです」

 当たりクジを引いたソフトバンクに契約金1億円、年俸1500万円(推定)で入団。開幕3戦目の先発に抜てきされ、初登板をパ・リーグ初の無四球完封勝利で飾る。デビュー3戦目も球団新の16奪三振で無四球完封勝利を挙げたが、徐々に成績を落としてシーズン中盤に2軍落ち。結局3勝に終わった。

 「オープン戦でボコボコにやられたので、初登板は大胆に攻めました。ただ、ストライクゾーンの狭さに苦しみましたね。審判だけでなく打者のゾーンも狭く、ボール球を振ってくれない。球威を求めると制球が悪くなる。制球を意識すると球威が出なくなる。悪循環でした」

 入団後の8年間でリーグ優勝4度。厚い選手層に焦りだけが募った。安定して成績を残せず、15年オフ、中日に金銭トレードも1軍登板なく戦力外通告を受ける。アマNO1投手がプロで挙げた勝ち星は、わずかに15勝だった。

 「結果が出ないと、考えることも多くなる。納得いく年はなかったですね。でも、ソフトバンクに入れたのは本当に良かった。あの中で見ることができた高い技術、話せたこと…。あの経験は宝物です。みんなすごかったし、どんどんすごいのが入ってくる。もう無理かもしれないな、と感じたのは、おととしぐらいに岩崎(翔)、千賀(滉大)の球を見た時。これぐらいじゃないと通用しないな、と。だから、結構スパッと辞められました。その2人が今年タイトルを取って。俺、見る目あるな、と思いました(笑い)」

 自転車に真剣に取り組むまでは、漠然と「S級へのスピード昇格」「五輪出場」を目標にしていた。だが、その世界を知るごとに考えは変わっていったという。

 「もちろん先も見ていますが、今は一受験生の身。何も言える立場にありません。32歳の僕には時間がない。競輪の練習もしなきゃと思いますが、まず受からないことには。簡単なことではないと思っています」

 入試を突破すれば、来年4月に入学。順調なら19年7月デビューとなる。競輪がアスリートのセカンドキャリアの場になれば、との思いも持って走るつもりだ。

 「日本では途中でスポーツを辞めたら“根性なし”と思われがちですが、どうしてもうまく力が発揮できないとなれば別の競技に移ってもいいと思うんです。補欠だった人でも、高い身体能力を持つ人はいる。自転車競技の存在を知っていれば、移った人もいたかもしれない。前例を作りたいという気持ちで始めたんですが、とにかく試験に受からないと(苦笑)」

 最も注目されてプロに入った先輩として、清宮にアドバイスを。

 「僕がコメントするのは、おこがましいですが、あれだけ1年生の頃から期待され、プレッシャーのかかる中で成績を残してきたわけですから、持っている物は間違いない。ケガだけ気をつけてやってほしいですね。ケガさえなければ結果は出ると思う。陰ながら応援しています」

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 ◆大場 翔太(おおば・しょうた)1985年6月27日生まれ、32歳。東京・足立区出身。八千代松陰高から東洋大に進み、1年秋からリーグ戦に登板。東洋大4年春にリーグ新の115奪三振。春~秋14連勝は歴代1位。春秋2季連続MVP、最優秀投手、ベストナイン。大学通算33勝11敗、防御率2・13、歴代2位の410奪三振。07年大学・社会人ドラフトで1巡目指名され、ソフトバンクに入団。11年8月に4勝(1完封)防御率1・71で月間MVPを初受賞し、この年自身最多の7勝。15年、中日に金銭トレードで移籍。16年限りで現役引退。通算85試合15勝21敗、防御率4・39。

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 ★大場さんを指導する馬渕紀明さん(98年バンコク・アジア大会自転車男子スプリント銀メダル)「練習に対してもメリハリがあり、集中力、爆発力が素晴らしい。プロ野球を経験した競輪選手は何人かいますが、間違いなく上を行く。選手になれば、絶対に活躍すると思います。知名度もあるし、競輪界も盛り上がる。受かってほしいですね」

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 ◆プロスポーツから転身した競輪選手 プロ野球では、北野良栄(ソフトバンク・95期)、松谷秀幸(ヤクルト・96期)兵動秀治(広島・97期)、宮崎一彰(西武・99期)、伊代野貴照(阪神・101期)ら、サッカーでは河野淳吾(Jリーグ広島・99期)がいる。

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