全国の学校が2016年度に把握したいじめが32万件を超えた。いじめを幅広く捉えるよう国が促した結果だが、それにしても膨大な数である。掘り起こされた問題の「芽」を、「重大事態」を防ぐ対策へとつなげてもらいたい。

 文部科学省が公表した問題行動・不登校調査によると、全国の小中高校と特別支援学校で認知されたいじめは32万3808件。前年度から約10万件増え過去最多を更新した。中でも小学校が23万7921件と多く、増加が顕著だった。

 県内も同様の傾向である。小中高校などでのいじめ認知件数は1万2482件で、前年度から1万件以上の大幅増だ。

 いじめの存在は、学校や教員の評価を下げるとの意識から、その発見に消極的な時期が長らくあった。

 大津市の中2男子がいじめを苦に自殺したのをきっかけに、2013年に成立したいじめ防止対策推進法は、いじめを「一定の人間関係にある児童生徒による行為で、相手が心身の苦痛を感じている状態」と広く定義する。

 法の考え方の浸透に加え、今回の調査ではささいなけんかやふざけ合いも一方的であればいじめに含むとしたことから、認知件数が大幅に増えたとみられる。

 埋もれていたいじめの掘り起こしは、肯定的に捉えるべきだろう。ただこれだけ膨大な数のいじめが発見されているのだから、教員の負担は増えている。

 件数把握を優先するあまり子どもと触れ合う時間が減っては本末転倒だ。

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 いじめ調査では以前から都道府県による認知件数のばらつきが指摘されている。

 千人当たりの件数は、最多の京都が96・8件、最少の香川が5・0件で19倍以上の差があった。沖縄は61・1件と前年度の11・5件から大きく増えた。

 子どもたちの置かれた環境にそれほど差があるとは思えない。件数の多い自治体の方が丁寧に調査し、対応しているケースもあり、地域格差は見逃されたいじめがあるというシグナルではないか。

 いじめの内容では「冷やかしや悪口」が最多。会員制交流サイト(SNS)など「パソコンや携帯電話での中傷、嫌がらせ」は、高校に限れば2番目に多かった。

 大人の目が届きにくい「ネットいじめ」が広がりつつある現状を考えると、見逃されているいじめはまだある。

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 調査では、子どもが心身に大きな被害を受けるなど、いじめ防止対策推進法で規定されている「重大事態」が400件に上った。

 いじめを掘り起こす動きと、深刻化を防ぐ取り組みは必ずしも連動していない。

 どうすれば解決に導けるのか。

 参考にしたいのは、クラスを持たずにいじめ対策に専念する教員を置く大津市の取り組みだ。

 教員が一人で問題を抱え込まず、スクールカウンセラーなど専門家と協力して学校全体で対応することも重要である。