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バンド活動は「モテたい」がすべて 向井秀徳さんが語る“バンドマンの本音”

プロだって、僕たちと変わらない。

向井秀徳。

バンドマンなら、誰もが一度はその名前を耳にしたことがあるだろう。20年近くもの間、ロック界の第一線で活躍し、国内外に熱狂的なファンを持つ。

ロックバンド「ナンバーガール」として活躍し、数々のミュージシャンに影響を与えてきた。椎名林檎さんや星野源さん、ASIAN KANG-FU GENERATIONなど、多くのプロが彼への愛を公言している。

ナンバーガール解散後の現在も、「ZAZEN BOYS」としてバンド活動を続ける傍ら、映画作品の楽曲などを手がける。

そんな向井さんが、幼少時代から現在までの半生を振り返った著書「三栖一明」を8月に出版した。浮き沈みの激しい音楽業界で、「バンドマンとして生きていく」というのはどういうことなのか。本音で、その実情を教えてくれた。


モチベーションは「モテたい」

――著書の中には、中学の頃、好きな子に振り向いてもらうためにバンドマンを装ったというエピソードが書かれていました。

バンドをやっているというのは、ある種のポーズになるわけ。今はわからないけど、昔はそうだった。弾けもしない楽器を担いでるだけで、自分の株がちょっとだけあがる気になったんです。

――音楽活動の原点は、そこなんですか?

いや、それしかないでしょ。最初から「この音楽で文化を変えてやる」みたいな勢いがある人ってすごく少ないと思いますね。やっぱり初めは「モテたい」というところだと思います。少なくとも、私はそうだった。

――でも、本の中には「モテるやつは音楽をしなくてもモテるのだ」とも書いてありました。

そうですね。それは、原理です。

――実際どうでしたか? 音楽をはじめるとモテましたか?

モテませんよ、そんなの。それはもう、しょうがない。

――歌に対して真剣になったのも、10代の失恋がきっかけだと書いてありました。やはり、バンド活動を通して異性に振り向いてもらいたいという気持ちが常にあるのでしょうか。

そうだね。失恋したときは「チクショー!」という気持ちでした。そのダメージをどうにか回復していかないとやっていけない。それで、歌を作ることになります。「今に見ておれ」ってね。「今に見ておれ」というのは重要なことです。

――でも、もう立ち直っているわけですよね。だいぶ昔のことなので。

いや、立ち直ってないかもしれないね。いまだに10代の頃の失恋が原動力です。

――プロになっても、有名になっても、まだ、そのときの悔しい気持ちは消えないのでしょうか。

「ある程度の立場になる」とか、「セールス的に売れる」とか、それを推し量る尺度が私にはまったく理解できません。モテるようになったかというと、残念なことにモテてないですしね。だから、自己アピールをし続けるんです。

逆に、満足している人って誰なんでしょう? ITベンチャー企業の社長さんですか? それとも、あなたですか? モノや名誉で満たされるのであれば、それはそれでわかりやすいですよね。

「メジャーっぽい」の葛藤

――お金や名誉が一番ではないにしても、音楽家として食べていく以上、それなりにセールスのことは考えていらっしゃると思います。

若いときにオーディションを受けたことがありました。レコード会社のディレクターの方がいて、言われたんです。「君、売れる気ある?」って。

レコード会社としては、商売だから、そこからはじまるわけです。やっぱり、売れる気がなかったら、売れないですよね。逆に言うと、何か売るためのことをすれば、ある程度は売れるんです。ほっといて売れることはないです。

それは、メジャーの中に何年かいてよくわかりました。売ろうと思ったら、売れる以上にお金を使わなきゃいけないかもしれない。変な話やけどね。まあ、商売ってそういうものだな、と思う。

「じゃあ、その目的って何?」と、今度は思いますよね。疑問符がパパパパッと出てきます。

――そこは葛藤がありそうですね。本の中でも、「メジャーっぽくて恥ずかしい」という言葉を使っていましたが、ここでいう「メジャーっぽい」というのは、どういうことでしょうか。

「メジャーっぽい」というのは、音質の話です。音の質感に、確実に「メジャーっぽい」ものと、そうでないものがあるんです。特に「日本のメジャー」の音質というのがあります。

むっちゃいい機材で、むっちゃ丁寧にやるんですが、これが、きれいになりすぎなんです。「いろんな人たちに伝わるように、わかりやすく作りましょう」というプロダクションなんですが、それが小っ恥ずかしい。「私、そんなきれいな体じゃないですから」って。

いや、多くの人に伝えたいんですけどね。そういう「きれいに伝えること」がしたいわけじゃないんです。考え方が、こんがらがってますよね。

――「わかる人にだけわかってほしい」と思っていらっしゃるわけではなさそうですよね。地方から東京に出てきた理由は、もっと多くの人に認知されたいからだと思うんです。

そうですね。自己アピールの高まりですよね。

――だから、葛藤しながらも、多くの人に伝えるために、セールスなどの部分も考えているんですね。

そうですね。それしかないですね。金を払って「私を認めてください」で成り立つんなら5万円くらい払うかもしれないけどね(笑)。5万円くらい払って、丸の内のOLさんに「かっこいいですね!」って言ってもらうね。そういうプレイがあってもいいよね。まあ、そんなんじゃ満たされませんけど。

――セールス的なところでいうと、音楽ストリーミングサービスなどの台頭によって、ビジネスが脅かされることはないのでしょうか。

ないですね。いずれにせよ、バンドとか金にならんから。バンドっつーのは、わがままですからね。それでお金をいただく、というのは大層なことですよ。「わがままを聞いてくださってありがとう」くらいの感じです。ギターの弦が買えればいいよ。

「逃げ」としての音楽

――昔から、自己アピールが好きだったんですか?

うん、目立ちたがり屋だった気はするね。あと、これは自覚してるんだけど、「空気が読めない」っていう言い方あるでしょ? そういうやつでしたよ、本当に。

――あえて読もうともしなかった、のではなく?

いや、「空気」というものがわからんのよ。わかってたら、そりゃあ空気読むでしょ。でも、わからない。そういう人間なんだなって思う。だから、別に読めても読めなくてもどっちでもいいよ。あと、「同調圧力」っていう言葉がけっこう嫌いだね。同調するのはいいけど、圧力ってなんだよ。

――学校って同調圧力だらけな気がするのですが、嫌じゃありませんでしたか?

とにかく、試験が最高に嫌だったね。中間と期末。あのブルーな気持ちに比べると、今はなんて幸せなんだろうと思う。中間試験の1週間前、3日前の何もやっていない感じね。やらなきゃいけないのに、やらない。もちろん、補習ですよ。わかっちゃいるんですけどね。

――勉強はしたくなかったらしなくてもいいと思いますか? 例えば、向井さんに憧れている高校生が「俺は音楽の道に進むから勉強なんてしなくてもいい!」と言っていたら、なんと声をかけますか?

勉強しろって言うね。確実に言いますね(笑)。

――それは、どうしてでしょうか。

まず、「音楽をやりたいから勉強は必要ない」っていう考え方は、音楽が逃げの言い訳になってますよね。私もそうでした。

私自身、普通に大学受験するのではなく、映画の道に進みたいとか言っていたんですけど。普通に考えたら、映画の道に進むためには、早稲田や慶應の比じゃないくらい勉強しなきゃだめですよね。何もわかっていなかったんです。逃げなんですよね。結果、そういう道にも進めませんでした。何かの言い訳でやってもうまくいかないと思います。

でも、途中から、確実に音楽に対して本気になったことは確かです。あるときハッと、音楽を通して自分の気持ちを本当に吐き出せることに気づいたんです。音楽をやるのが逃げ道ではなくなった。

逃げ道としてなんとなくやっているっていうのは、多分、続かないですよね。

――音楽は独学で学んだのですか?

そうです。楽譜は書けないです、私。

――大学受験に失敗してからデビューするまで、しばらくの間、実家暮らしでバイト生活だったと書かれていました。

はい、久留米(福岡県・久留米市)のレンタルビデオ店でバイトしてたんですけど、裏ビデオ(未修正のアダルトビデオ)を裏から貸すようなところで。えっと、1本、2泊3日で2500円やったかな。

夜中の1時までバイトして、終わったらバイクに乗って友達ん家に行って。毎日、酒屋で特売の一升瓶を買って、だいたい一晩で一本空ける。そんなことをやってたね。日曜の夜は、12時過ぎたら友達がバイトしてるコンビニに行って、ヤンマガの最新号を買った。一升瓶を飲みながら、ヤンマガをガーって読む。そういう毎日。

――同級生が進学する中、焦りはなかったのでしょうか?

ないない、ないね(笑)。なんも考えてなかったんです。

――でも、周りからいろいろ言われて悔しい思いとかはしませんでしたか?

誰かに何かを言われて「チクショー!」と思うようなことはありませんでした。それよりも、「俺はここにいるのに、誰も自分のことを知らない」という悔しさがありました。承認欲求の度合いが半端なかったと思うんです。

それをどうにもできないから、悶々としているという。その感じをすごい思い出しますね。私が住んでいるところは、むっちゃ田園地帯だったんですが、川を渡ると街になるんです。そこで、同世代くらいの女の子とかを見ると、なんか眩しいわけですよ。手を伸ばすけど届かない、みたいなね。毎日そういう気持ちに苛まれていました。

一言で言うと「痛いやつ」だね。だいぶ痛い。複雑骨折してるわ。

「ネットにアップ」はめんどくさい

――そのときの向井さんと同じように悶々としている方、きっとたくさんいらっしゃいますよね。

でも、今はなんでもできるよね。昔は、曲を作って聴いてもらいたいと思っても、私の佐賀の家なんて完全に田園地帯ですからね。そこで、歌ったとしても誰にも届かないんですよ。曲ができたら電話で聴かせてたからね。「聴け!」っつって。パーソントゥパーソンです。

今は、ネットにアップすれば、誰にでも届けられますよね。そういう繋がり方がいっぱいあって、うらやましいなと思いますよ。

――そういえば、向井さんが下北沢でゲリラライブをしているところに遭遇しました。今年だけで2回も。どうして、路上で歌っていたのでしょうか?

「自分をアピールしたい」という気持ちが高まって、抑えが効かなくなったんです。常に高まってるんですよ。

――それこそ、今だったらネットにアップすれば済みそうですが……。

それ、めんどくさいよね。道端に行けば、手っ取り早いんですよ。インターネットで、YouTubeにアップロードして……って時間がかかるからね。そういうことじゃないです。

――今は、Twitterなどで意見を発信するミュージシャンも多いですが、そういうことには興味はないのでしょうか。

自分の考えをアピールすることに、興味はないですね。別に何も考えてないから(笑)。だから、そういう欲求はないですね。ただ、自分の演奏で自分をアピールしたいっていうだけなんです。

「さらにモテたい」から曲を作る

――意見はないとなると、歌詞は何がもとになって出てくるのでしょうか。

渦巻いてる脳内言語じゃないですかね。あんまり、ギターのコードを弾くのと歌詞を作るのは変わらない。渦巻いているものを出すという点で。

――向井さんの作る曲には度々同じフレーズが出て来ます。例えば、「冷凍都市の暮らし」など。よほど思い入れのある言葉なのでしょうか。

繰り返し言い続けるっていうのは、ありますね。言いたいことってあんまり変わってないから。みんなも、何回も同じことを言えばいいのにって思うんだけど。

「この曲ではこういうこといいたいです」とかはないんです。全部同じなんですよ。極端にいったら、ある曲の歌詞を別の曲に乗っけても成り立つんです。それはもう、そうなんです。

ちなみに、「冷凍都市の暮らし」というのは、東京に出てきてからできたフレーズですね。東京に対してのある種の先入観みたいなものがあったかもしれません。東京暮らしも長くなり、描いてたイメージが大分変わってきました。

――同じことを繰り返し言うだけだったら、ずっと同じ曲を歌っていても成り立つと思います。それでも、どうして新しい曲を作り続けるのでしょうか。

それは、さらにモテたい、からじゃないかなあ。さらにモテたいから、新しい曲を作る。そうとしか言いようがないですよ。

「モテたい」の先にあるもの

――過去のインタビューで、「上の世代の人たちが持っていた意志を、自分たちが引き継いでいかなきゃいけない」というようなことをおっしゃっていました。そういうことをだんだんと考えるようになったのでしょうか?

いやーちょっとね、正直ね、あんまりないと思う。

――ないんですね!

実を言うと、責任感みたいなやつは、勘弁してくださいっていうね。「そんな責任を押し付けないでください、すみません」みたいな。あくまで自分のわがままなんで。

ただ、「向井さんの音楽に影響を受けてこんなバンドをつくりました!」って言ってくれる人はたくさんいます。それは、すごくうれしいことです。確実に「届いた!」「繋がった!」と思いますよね。

――そういえば、東日本大震災の直後、多くのアーティストがメッセージを寄せる中、向井さんは無言で「ふるさと」の弾き語りをYouTubeアップされてました。あれは、なぜですか。

切なかったからだよ、そんなもん。切ない、ですよ。だいたいが、常に。この「切なかー」っちゅうのをね、どうにかこうにか解消していきたいっていうのがありまして。ゆえに、バンドやったりしてますんでね。

――だれかに何かを伝えたい、というよりは、その切ない気持ちをどうにかしたかったんですね。

順番としては、私のわがままの方が先だね。「こういう人に何かを伝えたい」というよりは、ただ吐き出したいっていうとこからはじまってますよね。

その次にくるのが、誰かに聞いてもらいたいっていうことですね。自分を確認してもらいたいということです。「切ない気分になっているおっさんがここにいますよ」っていうのを、ただ知ってもらいたい。で、もっと言えば、その先には、きれいどころのお姉さんとかに「かっこいい」と言ってもらいたい。最終目標はそこです。

――やっぱりモテたいんですね。

はいはい、そうです。当たり前です。


三栖一明」には、他にも向井さんの赤裸々な青春のエピソードが書かれている。数々の失敗談から、あなたもほんのちょっと勇気をもらえるかもしれない。

2017年10月31日(火) - 2017年11月16日(木) 代官山蔦屋書店で、本にちなんだイベントも開催中。

【向井 秀徳 (むかい・しゅうとく)】

1973年・佐賀県出身。1995年よりナンバーガールとして本格的なバンド活動をスタート。2002年に「MATSURI STUDIO」を開設。2003年よりZAZEN BOYS を本格始動。2010年からはLEO今井とともにKIMONOSのメンバーとして、また、ソロとして向井秀徳アコースティック&エレクトリックといった活動も行っている。

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