「1万7966」。22日夜、地元唐津市の票が台風の影響で開かない中で、希望の党の大串博志(52)に大差をつけられた自民・古川康(59)の事務所。「予想より1万票多い。かなり食われている」。開票速報を見守っていた選対本部長の大場芳博の表情はこわばっていた。翌23日、唐津市も前回より差が半減し、逆転はかなわなかった。
◆浸透
1区も岩田和親(44)が連敗を喫し、中選挙区制の時代も含めて、自民は初めて選挙区の議席を失った。とりわけ前回から区割り変更になった旧3区を含む2区は、古川にバトンを渡した保利耕輔が圧勝を続けてきた自民の金城湯池。切り崩された2区のある県議は声を落とした。「保利の神通力は、もうなくなった」
報道各社の世論調査でも一進一退の攻防だった選挙戦終盤、唐津市の自民関係者は公明側にさらなる引き締めを頼んだ。「念押しはしてある。でも、大串と手を握ったことのある人の気持ちにまで、組織は入り込めない」。連立与党の協力関係をも跳ね返す。「隠れ大串党」が浸透していた。
民主党から政権奪還後も、組織選挙のほころびは散見されてきた。陣営関係者は「地殻変動が起きている」と漏らす。規制緩和を進める安倍農政への反発や、15年の知事選のしこりも引きずった県農政協議会は、自主投票を決めた。建設業界も「従業員は減り、以前ほどは人を出せない」という状況だ。
◆信者
毎回激戦になる1区の岩田陣営は、その影響をまともに受けた。県農政協の対応に加え佐賀市議選が重なったことに苦慮。後援会も広がっておらず、原口一博(58)のような熱烈な「信者」も少ない。ふたを開けると前回より4千票以上減らし、原口に約2万6千票も水をあけられ、全7市町で敗れる完敗だった。
自民の強力な要請で、これまでにない支援に動いた公明も、比例の目標に1万票近く届かず惨敗。自民両候補の敗北との因果関係は「分析しないと何とも言えない」(地方議員)と話すが、「組織が高齢化する中で今回の選挙協力はかなり負荷が大きかった」と振り返る。
全国的には自民大勝の中で唯一「全敗」だった佐賀県連。ある県議は予算獲得や政策実現への影響を挙げ「0勝の非は認め、きちんと反省する。後は国に土下座してでも、今まで以上に汗をかかなければ、本当に存在感がなくなる」と危機感をあらわにした。
「保守王国はもう昔の話だ」。比例復活に胸をなで下ろした23日の岩田の事務所。県連会長の留守茂幸は報道陣を前に険しい表情のまま続けた。「責任はいつでも取る気持ちはあるが、県連を挙げた立て直しが先だ」。ダメージ回復への道のりは険しい。=敬称略
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電撃解散から野党再編と激動の衆院選は、佐賀県内では自民が歴史的敗北を喫し、勝利した野党2人も別々の政党となり、先行きは波乱含み。県政界の地図を塗り替えた選挙戦を振り返り、今後の課題を探る。(衆院選取材班)