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2017-10-27

十字静『図書迷宮』Add Star

図書迷宮 (MF文庫J)

図書迷宮 (MF文庫J)

【未読者向け感想】

あのMF文庫Jが規格外の問題作と言い切った作品。

520ページ。780円。

MF文庫として、ライトノベルとして、明らかに異形な風貌のそれはともすれば「最近のラノベとは違って~」「ありきたりな軟派な作品とは違って~」と言われそうな内容だが、愛と勇気といちゃいちゃが詰まった最近のラノベなので読んでください。

ゴシックファンタジーとしても、SFとしても、ミステリとしても、一読の価値はあります。

特に『幻想再帰のアリュージョニスト』『姑獲鳥の夏』『戦う司書』が好きな人は絶対チェックしてください。

とりあえず350ページまで頑張って読んでください。

話はそれからです。























【既読者向け感想】

これはすごい。日本のファンタジーとSFミステリに、瞠目すべき新人が現れた。

わざわざ「問題作」と言い張るとはどんなものか、と思って読んだらガツンと頭を殴られたような感覚。

雑に言ってしまうけど、350ページまではちょっと変わった普通のファンタジー。

世界観を把握するのが大変なので、読み進めるのに苦労するかもしれない。

でもそれはすべて、後半への布石だった。

350ページ以降のニトロブーストしまくった展開が物凄くて、一気に読んでしまった。

何重にも折り重なったメタフィクション

明かされる二人称の真の意味。

登場人物に過酷な試練が与えられる、壮絶熾烈なストーリー。

520ページのラブストーリー、あっという間に読み届けました。

何故これが『幻想再帰のアリュージョニスト』っぽいと思ったかというと、物語の構造概念そのものに迫ったギミックの数々がアリュージョニストと共通しているからです。

まず基本的な設定として、「魔道書に持ち主の定義を記載すると『ページを消費する』コストと引き換えにその定義が付与される」というものがあります。

例えばいくらバカでも、「学校で習うべき知識は全部知っている」と書けば、その通りになります。

図書迷宮』の戦闘はこの「こちらが有利になるような主人公の定義を書き込んでいき、状況を切り抜ける」という独特なものになっています。

さらに物語が進むと、突然あとがきやらジャンル言及やらこの小説を書いた筆者までも登場してきます。

こういう物語の概念そのものに話が及ぶ内容が最近作品っぽいと思いました。

さらに、「この物語を描いた筆者は誰か」という犯人当てのような要素もあります。

二転三転していき、叙述トリックも交えながら真相に辿り着いていく様は推理小説としての側面も併せ持っている。

容赦なくネタばれしますが、現実と空想がすり替わる展開や主人公の視点にトリックが仕組まれているのは京極夏彦のデビュー作たる『姑獲鳥の夏』を彷彿とさせます。

どちらも主人公が心的外傷持ちであることが重要な鍵になっているのも共通しています。

3年前の新人賞に送られてきた作品とのことですが、今年になって同時多発的に「本として出る」ことがギミックになっている新人作品が出現したのは偶然でしょうか。

……そう、『NO推理、NO探偵?』です。

あれとはアプローチが違いますが、ここまで確信に満ち満ちた作品が新人賞に送り込まれてくることは、単純にうれしい。

それであっても本質は、筆者が言う通りラブストーリーです。

500ページを越えるボリュームに詰め込まれた、異形の愛と勇気のおとぎばなし。

物語としてのフレームはおろか、書物としての形にすら意味を持たせたその発想は、衝撃そのもの。

間違いなく、今年最強の新人の一人でしょう。

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