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【暮らし】ハンディある有権者の投票 「代筆」めぐり葛藤も
高齢や障害などのため、投票する意思があるのに投票できない人たち。これまでの連載「消えた有権者」(四月五、六日、五月十八、十九日)、「届かぬ声」(十月四~六日)で登場した人たちは、今回の衆院選ではどうしたのか。 (三浦耕喜) 二十二日の投票日。ニュースから党首たちの声が流れてくる。ある党首の話にはうんうんとうなずきながら、別の党首には文句を飛ばす。そんな母・克江さん(77)の声を背中で聞きながら、名古屋市中川区でパン店を営む佐藤奈美さん(53)は心で泣いていた。克江さんを投票に連れ出すことを、ついにあきらめたからだ。 克江さんの認知症が進み、要介護度は4に。「なのに、今回は突然の衆院選。投票所では小選挙区、比例代表、最高裁裁判官と、見知らぬ選管職員に連れ回されて、母が混乱に陥るのは明らか。投票所内では家族の付き添いもできず、母に怖い思いをさせることになる」。考え抜いた末の結論だが、政治家の声に一喜一憂する母を見て思う。「本当は選挙に行きたかったんだろうな…」と。 大阪府豊中市の中田泰博さん(45)も投票を断念した。脳性まひで枠内に候補者名を書くのが困難。代筆投票を利用したいが、手伝えるのは公選法上、選管職員のみ。それでは憲法で保障する「投票の秘密」が侵されるので、せめて信用できる身近なヘルパーに頼みたいと願っている。 だが、期日前投票に行っても、当日投票に行っても対応は同じ。中田さんは投票の秘密を定める憲法一五条に基づいてヘルパーの代筆を求めたが、選管職員は公選法の規定を繰り返し述べるだけ。中田さんは投票を断念した。 公選法の規定は違憲だと大阪地裁に訴えている中田さん。「大阪以外にも、高齢者の中にも私と同じように悩んでいる人たちがいる。これからはそういう人たちともつながっていきたい」と話している。 一方、サッカーJ2のFC岐阜元社長で筋萎縮性側索硬化症(ALS)と闘う恩田聖敬(さとし)さん(39)は選管職員による代筆を受け入れ、期日前投票で一票を投じた。車いすでの入場はスムーズだが、投票の仕方は選管職員と協議することとなった。「選管職員が候補者や政党の書かれた紙を指さし、私がうなずく方法になったのですが、私の車いすは大きく、投票台の下に入りません」と恩田さん。 「やむを得ず、指さしは、投票所の真ん中で行った」。隠そうにも、見ようと思えば、見られる状況。「のぞかれないかヒヤヒヤでした」と振り返る。 嫌な思いもした。「最後の裁判官の審査ですが、職員が『分かるかなあ』とボソッと言ったのを聞き逃しませんでした」と恩田さん。「車いすでガーゼをくわえ、手も動かせず、一言もしゃべれない私の姿を見たら、理解力に疑問を持つのも無理もありませんが、悲しかった」と振り返る。 一方、私事で恐縮だが、私の母(81)は認知症で要介護5の寝たきりながら投票できた。入院している病院が地元選管が施設内での投票を認める「指定施設」だった事情もあるが、病院のスタッフが丁寧に母の意思を読み取ってくれた。 投票の意思があるかどうかを聞く当初のヒアリングでは「意思なし」とされていたが、私が面談した際に地元の選挙の話になって、だれかれと地元政治家の話題をふると、母は「今度はだれを選ぼうかね」と。私は病院事務室に飛び込み、居合わせた担当スタッフに報告。スタッフも本人の意思を確認した。 具体的にどこに投票したかは家族に対しても明かさない守秘義務があるが、投票日の翌日に聞くと、スタッフから「お母さん、投票できましたよ」との知らせを頂いた。「今回は急な選挙で準備の時間が足らず、急いでやってしまったのかもしれません」とむしろ恐縮するスタッフ。丁寧に意思を読み取る姿勢と仕組みが重要と感じた。 関連記事ピックアップ Recommended by
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