ある日、夫が「俺、よいことしたんだよ」と言わんばかりの顔つきで「これに代えたから」と私の前に差し出した電動歯ブラシのようなモノ。何コレと思ったら、火を使わず煙が出ない加熱式のたばこだとか。確かに家で吸っている時は臭わなくなったけど、職場から帰ってくるといつもの臭い。職場では結局、紫煙立ちこめる喫煙所内で吸っているから。最近ニュースでも加熱式のたばこの話を見かけるようになったけど、そもそも普通のたばこと何が違うのだろう? オリンピックに向けて、喫煙場所の制限を強化する動きがあるけど、どこでも吸っていいの? そんな疑問が湧いてきました。
(ネットワーク報道部記者 戸田有紀 牧本真由美 大窪奈緒子)
加熱式たばこって何?
加熱式たばことは専用器具にカートリッジに入ったたばこを入れて加熱して、ニコチンなどが含まれる蒸気を吸うものです。
たばこ特有の煙やにおいも少なく、火を使わず、加熱しても温度はそれほど高くはないため、触れてもやけどしにくく、火事のおそれもないといった特徴があります。
吐き出す空気の中の有害物資も大幅に減らせるとして急速に需要が高まっていて、大手たばこ会社が次々に市場に参入、販売エリアも拡大しています。
3社の販売競争が激化
そもそも加熱式たばこを去年春に先駆けて全国で売り出したのは「フィリップ モリス ジャパン」。「IQOS(アイコス)」という製品でシェアを伸ばしていて、商品が手に入りにくい状況が続きました。
その後、「JT=日本たばこ産業」が「Ploom TECH(プルーム・テック)」という製品を、外資系のたばこ販売会社「ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン」が「glo(グロー)」という製品を市場に投入。次第に販売エリアを拡大しています。3社の販売競争が激化しているのです。
どこでも吸えるの? 名古屋はどこでもOK
人気を集めているのはわかりましたが、東京オリンピックを控えて、喫煙場所の制限を強化する動きがある中、吸ってよい場所が紙巻きたばことは違うのでしょうか?
答えは違う自治体もあれば、同じという自治体も。全国でも加熱式たばこがいち早く販売された名古屋市では、路上喫煙禁止のエリアでも加熱式たばこはOKです。市では販売開始に合わせて会議を開いて対応を検討したそうです。
議論されたのは条例で規制する「喫煙」とは何か、ということ。条例を定めた際の議論を調べたところ、「喫煙」とは「たばこの火を他者に触れる状態で保持すること」と定義されていました。
子どもなどへの安全を配慮してもらおうと作られた条例だったので、火を使わない加熱式は危険性が無く「規制の対象外」という結論になったのだそうです。
千代田区では「路上は禁止」
一方、全国で初めて路上喫煙禁止条例を制定した東京・千代田区では、加熱式たばこも規制の対象としています。その理由は、規制対象が葉たばこを由来とする「製造たばこ」になっているからです。加熱式たばこは当てはまるのです。
千代田区では、皇居を除く区内全域で路上喫煙が禁止されていて、指導員が移動しながら監視しています。路上でたばこを吸っている人を見つけたら、その場で2000円の過料を徴収します。
ただ今のところ、加熱式たばこを吸っている人を見つけても、やめるよう注意するだけで、過料は取っていないそうです。指導員と喫煙者とのトラブルを防ぐためで、加熱式たばこのほか「製造たばこ」に含まれず、煙を出さない「電子式たばこ」なども存在する中で、見た目だけで判断するのが難しいからだと言います。
東京都が制定を目指している建物の中を原則として禁煙にする条例では、加熱式たばこも普通のたばこと同じように規制の対象に含めることが検討されていて、自治体によって対応はまちまちです。
紙たばこと規制は「同じ」という場所が多い
それでは、路上以外の人が多く集まる場所ではどうなのか。飲食店や鉄道会社など、いくつかの事業者に聞いてみました。
JR東日本では、加熱式たばこも通常の紙たばこと同じように駅の喫煙スペースのみで利用できるということで、禁煙エリアやほとんどの列車内で利用できないということです。
東京の帝国ホテルでも通常の紙たばこと運用は同じで「加熱式たばこを吸いたい方は喫煙可能な部屋を予約してほしい」とのことでした。
大手コーヒーチェーンのスターバックスはたばこの種類を問わず店内は全面禁煙ですが、加熱式たばこも吸えないそうです。
対応を変えたところも
一方、紙たばこと対応を変えたところも。東京・渋谷区のカフェでは昼間は店内を全面禁煙としましたが、加熱式たばこなら利用できるようにしました。オーナーの松野充さんは「禁煙ブームの流れがある一方、加熱式たばこの利用者も増えている世の中の流れに合わせました。加熱式たばこは臭いがないのでたばこの臭いを気にする女性客からも苦情はありません」と話しています。
こんなサービスも。レンタカー大手のオリックス自動車は、カーシェアリングで使う車をこれまで禁煙車のみとしていましたが、新たに「加熱式たばこ専用」という車両を60台導入しました。法人の利用が多い都内の事業所で運用していますが、利用者も増えていて評判は上々だそうです。
たばこ販売各社は
たばこの販売会社はどう取り組んでいるのか? 加熱式たばこを販売している3社は飲食店などが加熱式たばこのみ喫煙可能としているケースでは、それがわかるよう共同でステッカーを作って配布して店に貼ってもらっていると言います。
また使用済みの加熱式たばこを捨てるための持ち歩き用の袋を配ったり、子どもの手の届かないところに置くよう、注意を呼びかけているということです。
一方で、周囲の人から見ると、形状や吸い方、さらに口や鼻から出る水蒸気が煙に見えるといったことから、加熱式たばこと紙巻きたばこの区別がつきにくいとして、使用する人に対しては「加熱式たばこを吸っていいスペースかどうか確認して、周囲の人たちに誤解や不快感を与えないように使用してほしい」と呼びかけています。
忘れないで“気配りの心”
加熱式たばこのルールは、まだ場所によってまちまちのため、自分がいる場所で吸っていいのか、きちんと確かめる必要がありそうです。
そして「喫煙・禁煙の2択から第3の選択肢ができた!」とうれしそうに話す夫に言いたいのは、大切なのは紙たばこを吸う時と同じで、「周りに気を配る心」だということ。町の中でも家庭内でも嫌な思いをする人が出ないように、加熱式たばこのルールについても、もっと議論することが必要だと思いました。