「なんだこの番組…」「本当にヤバかった」「めちゃくちゃ面白くて見入っちゃう」「道徳観が揺らぐ」
10月前半、2週に渡って放送された「ハイパーハードボイルドグルメリポート 」(テレビ東京)。
グルメ系コンテンツは今やテレビでもネットでも溢れかえっていますが、この番組がフォーカスしたのは「ヤバい人たちのヤバい飯」です。
登場するのは、敵の人肉を食べたと言われるリベリアの元少年兵、台湾の黒社会を牛耳るマフィアのドン、血で血を洗う抗争を繰り広げているアメリカ・カリフォルニアの超危険地帯のギャングたち……正真正銘「ヤバい人たちのヤバい飯」!
深夜番組とはいえ、あまりにハードボイルドな攻めっぷりに、放送中からネットは話題騒然。こ、こんな破天荒な番組どうやって生まれたの……?
企画を立ち上げたのは、今作で初めてプロデューサーを務めた上出遼平さん。自らカメラを持って現地に渡った張本人です。ヤバい番組のヤバい裏側、聞いてきました。
登場人物、全員人殺し
――予想以上にヤバかったですが、この番組、どうやって生まれたんですか?
テレビ東京には、1年に1回くらい、プロデューサー経験のない20代のADやディレクターが企画を提案できる若手チャレンジ枠があるんです。普段、新番組は編成部が決めるんですが、この枠は主にバラエティを手がける制作部の現役プロデューサー陣がジャッジします。
こんなトリッキーな企画が通ったのは、現場の“刺激的”な先輩方が面白がってくれたおかげです、普通だったら絶対無理。こういうことが起こりうるから、この会社は最高ですね!
――こんなに緊迫感がある「グルメ番組」ある? と思いました。
ほぼ全員、人殺しなんですよね、この番組に出てくる人。
殺人という“最上級の悪”を犯している人たちも、世界のどこかで僕らと同じように食事をして生きている。それってすごくリアルですよね。
でも、彼らは本当に「悪人」と言い切れるんだろうか? 人殺しがダメだっていう国も戦争しているじゃないか。殺人犯にも、もっと身近な万引き犯や不良少年にも、外からは知りえない事情があるかもしれない。
ただ「悪」と捉えるだけでなく、食事を通して彼らの背景や生き方に思いを馳せるきっかけになれば、わかりやすく善悪二元論にしたがる傾向へのアンチテーゼになれば、という思いがありました。
だから、演出も最小限に抑えて、ナレーションもボイスオーバー(外国語に日本語の音声をかぶせること)も音楽もほとんどなし。……まぁ何しろテレ東深夜、お金がなかったという理由もありますが(笑)。
「墓地」に住む元少年兵たち
――リベリア、台湾、アメリカの3箇所はどう決めたんですか?
唯一考えていた条件は、死の匂いがすること。「食うことは生きること」である人たちに会いたかったので。
その上で、アフリカ、アジア、西洋系と見た目にバリエーションがあるよう決めました。リベリアと台湾は僕、アメリカは信用しているディレクターに行ってもらいました。
予算の関係で撮影クルーも用意できないので、単身取材。右手にメインのハンディカメラ、左手に自撮り用のGoPro、首に料理を撮る一眼レフカメラで取材しました。
――リベリアの元少年兵たちは数百人単位で「墓地」に集まって住んでいる、という事実がまず衝撃でした。
そういう「住処」がいくつかあるんですよ。元国営放送局、元防衛省……廃墟になった建物に、20代の元兵士たちが500〜1000人規模の集団で住み着いています。
どこも当時の政府軍と反政府軍が身を寄せ合って住んでいるんです。何年か前には殺し合ってたやつらが同じ釜の飯――正確にいうと洗面器の飯ですが――の飯を食って生きています。
リベリアの取材は5日間だったんですが、番組で使ったのはほぼ最終日の映像だけでした。
――取材が難航したんですか?
いえ、スムーズすぎたんです。本当はノンアポ突撃のつもりだったのですが、渡航前からやりとりしていた現地のジャーナリストが、事前に取材の手はずをつけてくれていまして。最初に行った「住処」がわりとウェルカムな空気で、日本人が来るぞ、もしかしたら金もらえるかも、って歓待されちゃって、これは全然違うな、と。
現地の彼に「他にないのか」と相談して「あんまり気が進まないけど」と連れていってもらった最後の場所が「墓地」だったんです。
――逆にこちらでは、近づくだけで敵意むき出しで怒鳴られて、取り囲まれて……。
ほんと怖かったです、マジで。入り口、小さな門しかないんですよ。ちゃんと出てこれんのかな、って頭よぎりましたね。
激しい内戦、悪かったのは誰?
――取材が許されて、中に入ってからはかなり積極的に話しかけられていましたよね。あれ? いきなり友好的に? と思いました。
みんな、本当はすっごく話したいんですよ。映像見ていただければわかるんですが、誰かが喋っているあいだ、人差し指を立ててるやつらがチラチラ後ろに映っていると思います。これは挙手、つまり「次は俺に喋らせろ」ですね。
幼い頃に無理やり兵隊にさせられて、たくさん人を殺して、戦争が終わって放り出されて、明日どうなるかわからないまま、盗みや薬物売買を繰り返して生きている――辛くて苦しくて、誰にもわかってもらえなくて、だから聞いてほしいんだと思います。
結局、誰が悪かったの? 誰か恨んでないの? と聞くと「今の政府だ」ってみんな言うんです。「武器を奪い取って身ぐるみ剥がしてバラバラに引き離しただけで、何の保証もしてくれなかった」って。過去のどんな不幸より、今目の前の不幸に憤っているように見えました。
――「内戦が終わった」とだけ聞くと、平和が戻ったようですが、現実は。
エボラ出血熱で死の淵をさまよって、生還した女性の言葉も壮絶でしたね。「今、幸せですか?」と質問した時、僕は心のどこかで「生活は辛いけど、生きてるだけで幸せ」みたいな答えを予想していたんです。
でも「ずっと不幸だよ」って、淡々と。「病気になって家族もみんな死んで、今は毎日ごはんも食べられない。ずっと不幸」って。そういうポロッとこぼれる言葉のリアリティが。
「あ、殺されるかも」
台湾ではマフィアの組長の宴会に1時間くらい同席しました。番組での尺は短いですが「あ、殺されるかも」はリベリアより台湾の方が思いましたね、強く。
――画面で見ると、むしろ思ったより友好的、とさえ感じました。
いや〜やっぱり密室の圧迫感は……。いざとなった時、絶対に逃げようがないし……。
本当に怖い人たちですからね。なんとかできる相手じゃない。カメラに映ってないところにも、どう見てもカタギじゃない人たちがずらっと並んでるんですよ。
そんな人たちに囲まれて、一見優しげな顔をしたおじいちゃまが一番「ヤバい」人なんですけどね。
――その組長に直球の質問をするからこっちがビビりましたよ!
「人殺したことあるんですか?」に「ネットで調べてよ」って返ってきたのはしびれましたね。「なるほど……」としか言えなかった。
マフィアのドンにも、元少年兵たちも、ギャングたちにも、取材してるとどうしても肩入れしちゃいそうになっちゃうんですよ。「かわいそうだな」「辛いことあったよな」「社会が悪かったよな」って思っちゃう。
でも、殺した相手や傷つけた相手がいることも、殺したいほど憎まれていることも事実です。「悪人だと思ったらいい人でした」じゃない。
単純な善悪二元論にしないこと、こちらが勝手に物語を加えて「いい話」っぽくしないことは、ずっと意識してましたね。
「人食い少年兵」の真実
――放送に入れられなかった印象的なエピソードはありますか。
「元人食い少年兵」の言葉の背景はもう少し説明したかったです。
リベリアでは、内戦時に兵士が敵の人肉や心臓を食べたという話はわりに有名です。現実と思えないような話がたくさん伝わっています。
でも、いざ彼らに「みんな人を食べたことあるの?」と聞くと「俺はない」「人間の肉を食べると腹がふくれてそのまま死ぬんだ」ってあっさり否定するんですよ。でも、2人きりになった時に「マジで知りたいんだけど」と聞くと、少し黙り込んでからうなずくんです。「俺も嫌だったんだけど」。
彼らにとって人を殺すのはもはや日常だったと思うのですが、「人食い」は越えたくない一線というか、どこか後ろめたいんでしょうね。その感覚は、直接話して初めて理解しました。
西アフリカは呪術の文化が強く、軍にも“ドクター”として呪術医が同行していたんです。「今から子どもの目玉を3人分とってこい、飲めばあの壁の向こうが見える」「敵の少年兵の心臓を食え、そしたら相手の弾は当たらない」……少年だった彼らはコカインを吸って、大人に言われるがままに“一線”を越えていくわけですよ。
そんなことをさせた呪術医を怒ったり恨んだりしているのかと思うじゃないですか。本人たちは「なんであんなこととは思うよ。でも、だから生きてるんだぜ、今」って言うんです。
なんか……どう捉えるか難しいなって。「だから、壁の向こうが見えた」「だから、弾が当たらなかった」は彼らにとって真実なわけです。実際に、周りがことごとく死んでいく中で生き残ったのですから。
――壮絶……。
僕らの感覚とは、かけ離れていますよね。時間的にうまくまとめきれずにカットしてしまったのですが、こういう背景があったと思って見てもらえるとまた見方が変わるかもしれません。
視聴者に“間違えて”ほしかった
――真剣なドキュメンタリーにもできる題材を、あえてグルメ番組やバラエティのように見せていますよね。
そうですね。いつもバラエティを見てる人たちに“間違えて”見てほしかった。なので、ロゴもポップにしたし、画面のテロップもバラエティっぽい大きさや速さで出しています。
「軽い気持ちで見たら偉いもの見ちゃったな……」ともやもやしてもらえていたら。
――「続編見たいけど、このまま続けたらスタッフ死んじゃう」という感想もありました。
それはね、思わないでもらっていいです、スタッフのことは忘れてほしい(笑)。
今回は刺激的な潜入が際立ってますけど、この番組のメインは「危険なところに行くこと」じゃないんです。主役は行った僕らじゃなくて、100%そこで生きている現地の人たちです。
危険じゃない「ヤバい」飯もたくさんありますし、もし続編が叶うなら「そっちのヤバいもあったか!」と思ってもらえるものを投げたいですね。行きたいところは、いくらでもあります。
――続編、楽しみにしています。
僕もやりたいんですが、何しろ初めてなんで、どうやったら続編にたどりつけるかのノウハウもないんですよ。誰にお願いしたらいいんだろう?(笑)
とりあえずネット配信が決まったのでこれで反応がよければどうにかなるんですかね……? 皆さんご視聴、どうぞよろしくお願いします!
というわけで、ネット配信が始まります!
今日27日17時から2週分まとめて「ネットもテレ東」「TVer」「GYAO!」「niconico」で視聴できます。11月30日23時59分まで。