「働き方改革」の旗印のもと、プレミアムフライデーやノー残業デーなど、労働時間を短縮する動きが広がりをみせている。その一方、空いた時間を持て余して街をふらつく「フラリーマン」など、働き方の意識と働き方改革にズレが生じている事象も現れてきた。
モルガン・スタンレーやGoogleで人材開発に携わった経験を持つピョートル・フェリクス・グジバチ氏は「日本人の働き方改革は、短期的な視点しかない」と指摘する。世界で成長を続ける企業と日本企業では、働き方の意識がいかに異なるのか。ITmedia ビジネスオンラインとITmedia エンタープライズが共催するセミナーで、ピョートル氏が語った。
ピョートル氏は、民泊サービスAirbnbや配車サービスUberなど、時価総額10億ドル規模の非上場ベンチャー企業を例に出し「なぜ彼らは固定資産を持たずに、既存企業の何倍もの成果を挙げたのか、考えてみてください」と問いかける。
「彼らは新しい行動パターンを作り、マネタイズをせずにユーザーを集め、既存のマーケットに参入している。創立者の多くは参入分野の経験が無く、テクノロジーを駆使しながら業界の常識に縛られない発想で既存の市場を破壊している」(ピョートル氏)
こうした企業は指数関数的に急激な成長を遂げるため、競合他社が気付かぬうちに既存の市場を破壊し、新たに成長する破壊的イノベーションが進むという。例えば、3Dプリンタ市場は7年で400倍に、DNAシークエンシング市場は7年で1万倍にまで成長した。携帯電話が世に出たときも、マーケッターたちは現在のような普及を予測できなかった。
「予測が困難だからこそ、成長企業はPDCAを猛スピードで回し、前向きに失敗を繰り返している。0から1を生み出すためにも、自動化できる仕事は機械に任せ、人間は直感や創造性などを発揮することに集中すべき」
日本の働き方改革は「業務の効率化」「労働時間の短縮」をうたうことが多いが、この傾向についてピョートル氏は「はっきり言ってダメ」と強く否定する。
「ビジネスを見直さず『残業を減らしましょう』『早く帰りましょう』では意味がない。働き方を変えるということは、経営そのものを変えること。ビジネスモデルから考え直さないと、根本的な働き方の改革にはならない」
これからの経営の常識はどのようなものなのか――ピョートル氏は「メーカーではなくプラットフォーマーであること」「強欲でなく利他的であること」「クローズドではなくオープンであること」「計画に縛られず柔軟であること」を掲げ、日本企業の問題点を指摘する。
「よく考えてください。ピラミッドって、お墓ですよね?(笑) ピラミッド型の組織はトップダウンであり、閉鎖的。現場が自ら物事を決められず、イノベーションもつぶされてしまう。その結果、競合他社に右にならえになり、ユーザーを無視した商品が生まれる。社員に決定権を持たせ、自由に自己表現できる場作りを優先してほしい」
日本人の働きがいや生産性はG7の中で最下位。そんな日本の働き方を見直すためには「短期」「長期」「臨時」の3つの観点が必要だという。
「『今日は早く帰る』という日本人の働き方改革は、短期的なものでしかない。長期的にスキルの蓄積を行い、自分の市場価値を高めているか。変化に適応して新しいことを提案できるか。チームマネジメントにも同様の観点が求められる」
ピョートル氏は最後に、会場を埋めたビジネスマンたちに向かって「働き方は生き方である」と呼びかけた。
「好奇心を持って目の前の仕事に集中するマインドを持ってほしい。まず自分の仕事に興味を持ち、学び、楽しむこと。好奇心と集中が働き方改革において何より必要。月曜の朝にワクワクした気持ちで出社できる企業にならなければ、何も変わらない」
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