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2017-10-27 01:14:55

メソッドとしてのジャンル:Vaporwaveの系譜、EccojamsからHardvapourまで

テーマ:translation
[ORIGINAL]
Genre As Method: The Vaporwave Family Tree, From Eccojams to Hardvapour
—Simon Chandler
(This entry was written by Editorial, posted on November 21, 2016 at 11:06 am)
https://daily.bandcamp.com/2016/11/21/vaporwave-genres-list/



メソッドとしてのジャンル:Vaporwaveの系譜、EccojamsからHardvapourまで



vaporwaveは単なるジャンルではない。そのアプローチと考え方や姿勢は、単に音楽だけに対するものではなく、大衆文化に対するものなのである。

vaporwaveは、ある特定のサウンドスタイルで認識されることが多い――スローダウンした80年代や90年代のヒット曲やmuzakなど――、しかし、vaporwaveに欠かせないものは、高い自意識と元になる素材に対する批判的なスタンスだ。素材から曲を再構築し、新たな作品としてリリースする。そこには幾重にも重なった暗黙の社会的主張が加えられているのだ。

人気が上がったり、ほかの取って代わる者が出てくると人気が下がったりしながら、vaporwaveのアーティストはあっという間に増え、広がっていった。2000年の初頭、単なるいたずらとして始まったものは完全にジャンルとしてひとり立ちしたと認識できるところまで成長した。そして、アーティストや批評家たちの“Vaporwave is Dead”という宣言にもかかわらず、mallsoftからvaportrapまで、新しいジャンルが日々出現しているようである。拡張していくvaporwaveの世界にすぐに追いつくことができるように、vaporwaveの中枢をなす主要なサブジャンルの中から、10のサブジャンルの概要を解説しよう。


【Eccojams】



多かれ少なかれ、vaporwave自体とほぼ一致しているサブジャンルがあるとすれば、それはeccojamsである。忘れられたポップカルチャー全体を合理的な表現の様式に変化させるという、ほとんどのvaporwaveのアーティストたちが使っている、まさにテンプレートを確立したのがこのサブジャンルだ。Daniel Lopatin (aka Oneohtrix Point Never)による『Chuck Person's Eccojams vol.1』は「とてもシンプルな練習」として2010年の上旬に誕生した。「好きな音楽を選んで、(中略)一部分をループさせて、スローダウンして、そこにエコーをかける――単純に、好きじゃないものは聴かずに、好きなものを聴きたいという欲望を静めるために」とLaptin自身は言っている。

しかし、もしプランダーフォニックス(*略奪[plunder]した音[phonics]を用いた音楽)の練習として始まったものだとしても、それはすぐに確固たるメソッドやフィロソフィとして発展していった。VektroidMediafiredのようなアーティストたちは、eccojamsが提供したフレームを受け取り、それを新しい曲やサウンドスタイルに使った。そして、そのコンセプトはサイドプロジェクトというような小さなコンセプトから外に出しても使えるのだと証明してみせた。しかしながら、Darksleep회사AUTOなどのアーティストたちが古い音楽を使って新しい音楽を作るようになったことはまた別として、この音のマニピュレーションで、そういったプロデューサーたちは古いトラックを新しいライトの下に出すことになったのだ。ゆがめられたり、解体されたりしながら、まるでCyndi Lauperの“Time After Time”やMr Misterの“Broken Wings”がある種の精密な検査でも受けさせられているかのようである。それらの曲は、賞賛される、マネられる、非難される、といったことをまったく同時にされるのだ。そして、vaporwaveが大衆文化を批判する大衆文化のムーブメントとして現れたのは、まさにこういったことが行なわれていた中でのことだった。


【Utopina Virtual】



このジャンルの系譜の中央に位置するふたつのスレッドのうちのひとつとして、eccojamsと並ぶのがutopian virtualである。utopian virtualは、2011年、ランドマーク的な作品であるJames Ferraroの『Far Side Virtual』で誕生した。その時はまだvaporwaveと同義語ではなかった。eccojamsのぼんやりとした混乱とは対照的に、このサブジャンルはクリーンともいえるレベルの透明感ある音が特徴的である。より重要なのは、アイコニックなWindows 95Skypeのスタートアップ音など、商業とコンピューターの歴史の、それほど遠くない時代からもってきたサウンドをわかりやすく使用することで、何か合図を送っているということだ。

これらの要素全体で、ポスト冷戦時代である現在の理想主義、楽観主義、熱望といったものすべてを求めてやまないのである。この楽観主義は、世界的不況、テロリズム、地域の紛争によって、すぐに粉々になってしまった。そのことが、『GooglePlex Bionetwork』や『VIRTUAL UTOPIA EXPERIENCE』といったアルバムをやや活気がなく、また、わずかに不穏にさせている。これらのアルバムのかたく圧縮された演奏法やニューエイジフューチャリズムは、相変わらず荒れている世界の状況にはどうやっても合わなさそうな静けさを放っている。そして、たとえこれらのアルバムや、『Home™』、『ATMOSPHERES 第1』などのその他の目立ったLPがリスナーを獲得していたとしても、彼らのニセの至福のパーティは、歴史の終わりという約束、それ自体が終わってしまったのだという事実から、私たちに目をそらさせようとしているように思えるのである。


【Mallsoft】



mallsoftはutopian virtualからの派生である。古典的vaporwaveの核となる部分を、消費主義の孤立感に取り入れ、それをベースとして、ゆったりとしたアンビエントミュージック――仮想の郊外型ショッピングモールのスペース内の――に使っている。mallsoftはutopian virtualのキラキラしたmuzakをフィーチャーすることでも知られているが、その一方で、『Vacant Places』や『Yes! We’re Open』などのような典型的なレコードは、概して、完璧なクリスマスプレゼントを探し求めているうちに迷子になってしまった、そんな穏やかでとりとめのない、ぽっかり空いた空間の雰囲気をリスナーに感じさせようとしている。猫 シ Corp.の『Palm Mall』では、ショッピングモール周辺でのフィールドレコーディングとそれに付随して起こるノイズがその大部分を占めている。メロディやコード進行はそのミックスの中で加工されていないままだったり、そういった余白のあるレコードの中でさえも必要最低限だったりする。方向性のないエコーが強くかかったサンプルによって作り出される、その基本的な雰囲気は、ショッピングセンターの中を目的もなくふらふらしている時のものだ。しかし、単に的外れなウインドウショッピングのことを思い起こさせるのがmallsoftの制作者の意図ではないであろう、という疑問も明らかにある。いや、“ショッピングモール”が特定の場所というよりも、もはや私たちが経験する自分自身の生活を通しての心の状況になっている、ということを消費者主義は意味しているのだ。そういったことを思い起こさせるのが『Hologram Plaza』のようなサイケデリックなmuzakの目的なのである。


【Future Funk】



mallsoftのあてのない批評のようなサウンドスケープと並行して、future funkは快楽や過剰さにどっぷりとひたろうとしているジャンルともいえる。とはいえ、Saint Pepsiの『Hit Vibes』やbl00dwaveの『Distance』の快楽主義は、消費主義が人のすべての要求を満たす未来を描くのではなく、過去を懐かしみつつ楽しむことを基本としている。このため、“future funk”ということばはいささか皮肉でもあり、Yung Baeの『Bae』などのような作品では、ほんとうに古さを感じさせない音楽にしようとするよりも、むしろ、70年代のディスコやソウルから取ってきたサンプルであふれているのだ。よく知られている例外的な作品もいくつかある――HOMEの『Odyssey』はそのひとつだ――。それらは、純粋に前に進んだサウンドにするようになっている。しかし、その一方で、このサブジャンルのほとんどは、楽しいながらも一時停止してしまうレトロマニアというぬかるみにはまり、前に進むには後ろに戻らなければならないようになっているのである。


【Post-Internet】



一部では ‘hypnogogic drift’という名前で知られているpost-internetは、コンピューターナイズされた抽象性や未来的でほとんどディストピアのようなサウンドスケープを中心に展開しているvaporwaveの一派である。その音楽の多くは、サブリミナル的であるというところはアンビエントのようであり、mallsoftにも似ている。しかし、mallsoftと異なっているのは、消費者主義よりも私たちの生活へのデジタルテクノロジーの侵入ということにテーマの焦点が合わせられているところだ。これを一番はっきりと示しているのが、骨架的の『Holograms』とInfinity Frequenciesの『Computer Death』で、これらの冷たいシンセサイザーの音やリバーブの染み込んだSFテイストは、荒涼としているとまでは言わなくとも、一見したところほとんど人がいないような、人間味のない環境を作り出している。そういった温かみのない環境で、『A Heart Full of Love』や『油尖旺 DISTRICT』といったまた別のカギとなる例は、いかに私たちの時代が、インターネットやデジタルメディアは単に人々が使うツールであるというところから、まさに生活そのものやアイデンティティとなるところへと進んでいる時代であるか、ということを表現している。だからpost-internetはpost-internetと呼ばれている、これらの作品はそういった印象を作りだしている。


【Late-nite Lo-Fi】



post-internetの人間味のなさをいくぶん共有しつつも、late-nite lo-fiは、ホテルのバーでの独りの夜や誰でもないデジタルアバターを思い出させる、80年代のポップやスムーズジャズを使用するジャンルである。luxury eliteのうんざりするほどに甘い『moods』からMIDNIGHT TELEVISIONの『MIDNIGHT TELEVISION』まで、安っぽいギター、エレクトロベースのチョップ、大量のシンセサイザーのストリングやサックスが代名詞のように多く使われている。Local Newsの『Channel 8』やVECTOR GRAPHICSの『MIDNIGHT LOVE』は、おそらく、そういったアプローチによって、90年代初頭のテレビ番組のテーマ曲のようになっているのだろう。これらのレコードは、実際のテーマ曲以上にムーディで独特の雰囲気がある。そんなlo-fi特有の強みを持っているのである。事実、それらをあきらかになまめかしく、ロマンチックにし、また、遠く離れて、孤独で、自分に酔っていて、そして、そう、少し悲しい、そういった感覚でいっぱいにしているもの、それはまさにこのlo-fiの特性なのである。


【Vaportrap】



hardvapour(後述)は最も新しいvaporwaveのスピンオフだが、ほぼ間違いなく、hardvapourにいいところを完全に持っていかれてしまった派生ジャンルがvaportrapだ。2012年、『Blank Banshee 0』で最初に注目を集めたこのサブジャンルは、vaporwaveのサンプリングとトリッキーなビートやトラップのシンセのレイヤーを組み合わせているという特徴でそれとわかる。もちろん、Vaperrorの『Mana Pool』やサイバー ’98の『Computer Dreams』の素早く軽快な808サウンドがほんとうにvaporwaveといえるのかどうか、といったことに関しては、疑問視する声もある。しかし、これらのレコードの現実味のない雰囲気や、デジタルイメージへの病的なまでの執着から、これらがこのジャンルの範囲内であることははっきりとわかる。その雲の上にいるような浮遊感のあるサウンドや、ポップ(コンピューター)カルチャーのカンニバル的なリサイクルは、人間の文明は自分たちのテクノロジーによって作られたシュミレーションの世界の中で迷走している、そして、この世界では、人間の行動や思考、感情さえもが今シュミレーションそのものなのではないかといった不安をくり返し言っているのだ。


【Broken Transmission】



‘signalwave’とも呼ばれるbroken transmissionは、最も加工されてない、最も強硬なvaporwaveだ。これは『Fuji Grid TV EX』や『OASYS✓✓✓☞❐計算 ソフトウェア & Hi-Fi』といった人気のレコードが、ハードで、アグレッシブで、エクストリームだからではなく、単純に、長い間忘れ去られていたラジオやテレビ番組のカットを次から次へと重ねていくのがこのジャンルでよく使われる手法だからである。そのようにして古い日本の番組や時にアメリカの放送からの音声を扱うことで、 『▣世界から解放され▣』や『Dream Sequins®』のようなLPでは、必然的にザッピングの体験をシュミレーションすることになり、サウンドコラージュとなっているのである。ポップカルチャーの歴史の一片からまた別の一片へとパラパラとチャンネルを変えるようにしていき、リスナーを情報過多の状態にし、そして、方向感覚を失った、あてのない印象を作り出す。また、mallsoftともよく似ており、この印象は消費主義への批判を意図していることも多い。あれこれと物を消費するように私たちに働きかけることが単なる消費というものを超えて、間違いなく私たちから目的や意図を奪っている、それが消費主義なのである。


【Vapornoise】



broken transmissionとオーバーラップするが、vapoinoiseは主に、元となる素材を扱う手荒な手法が特徴的である。『Y. 2089』や『Virtual Paradise』のような、そういった特徴がはっきりと現れた作品では、その素材はbroken transmission以上に、あるいは、vaporwave全体の中でもかなりの度合いでチョップされ、マニピュレーションされている。そこでは、ノイズや雑音の爆発が、バースやコーラス、サウンドカットの間でばらまかれていることも多い。例えば、Employee#6817の『Eulogy』では、タイトにループするサンプルが、あらゆる種類の工業的、機械的な効果音とともに重ねられている。一方で、不可解な『私はライトゼロを感じている』では、無害なポップヒットが音響的に崩壊といえるところまでねじ曲げられている。ほとんどすべてのケースで、そういった音楽の虐待は、とても多くのvaporwaveが消極的ながら認めている文化の妨害と物質主義の激しい崩壊であり、気づかないうちに物質主義が私たちに与えているダメージの率直な描写であると考えることができる。


【Hardvapour】



そして、vaporwaveに対するリアクションに関しては、hardvapourほどかなり辛口なジャンルはない。Sandtimerの『Vaporwave is Dead』などのhardvapourを形づくるアルバムとともに、hardvapourがその親であるvaporwaveから派生してわずか1年ほどしか経っていないが、hardvapourはあえてvaporwaveのおとなしい柔らかさと自己破壊的なアイロニーを非難した。連続するビートをふりかざし、古典的なvaporwaveよりも、むしろgabberやtechnoのようなサウンドで、そういったレコードは、『MANIAX』(ふさわしいタイトルがつけられている)のDJ ALINAや『WELCOME TO PRIPYAT, PART 2』のKLOUKLOUNのようなアーティストたちが、すぐに後に続く基盤を作った。

クラブ風で、さらに暴力的でもある、そういったレコードはほんとうのvaporwaveではない、といった議論も起こっているが、hardvapourの大部分が東欧文化のイメージを使用しており、それは、vaporwaveの不敬で皮肉という特徴の影響下にあり、似通った美学や哲学を共有していることへの疑いはほとんどない、といえるのである。





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(* )の説明は追加しています。『私はライトゼロを感じている』のリンク切れていたので、アドブロック+のBandCampページのリンクを貼っています。リンク先、英文のものもあります。
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