10月22日の衆議院総選挙は、自由民主党が284議席を獲得し、単独で過半数を大幅に上回った。安倍自民党の圧勝だ。
本来ならば、この選挙は、安倍自民党に対する総括だったはずだ。しかし、今回の勝利は、安倍首相が国民から支持されたからではない。
安倍内閣の支持率は、一時、調査によっては30%を割り込んでいた。そこから安倍自民党が本質的に変わったと言うわけでもない。投票日直前の10月17、18日に朝日新聞が実施した世論調査でも、安倍首相の続投について「続けてほしい」が34%であったのに対し、「続けてほしいとは思わない」が51%という結果が出ていた。
風向きが変わったのは、小池百合子氏が「排除の論理」を持ち出した時だ。
小池氏が希望の党を立ち上げ、自ら代表になると表明した直後、マスメディアは小池一色と化した。安倍首相の存在は、その影に隠れてすっかり霞んでしまったのだった。
翌日、民進党の前原誠司代表は小池氏と秘密会談を行い、希望の党と民進党は事実上の合流を決めた。前原氏は、小池氏のカリスマ性に乗っかることで、反自民の受け皿となり、自民党に対抗しようとしたわけだ。
この時、前原氏は当然、民進党の議員全員が受け入れられると考えていた。小池氏も承諾していたはずだ。だから、前原氏は民進党員の前で「名を捨てて、実を取る」と発言したのだ。
ところがその直後、小池氏が「民進党を全員受け入れる気はない」と言い出した。要するに、リベラルは受け入れないということだ。
民進党は大混乱に陥った。結果的に枝野幸男氏が立憲民主党を立ち上げ、野党同士が戦うことになったのだった。
自民党が圧勝した理由は、これだけではない。以前も書いたが、自民党は基本的に保守の立場を取っているが、経済政策ではリベラルだ。一方、野党もリベラルである。共産党をはじめ立憲民主党もアベノミクスを批判していたが、対案を出せなかったのは、結局は同じリベラルだからだ。
国民の多くは、アベノミクスに満足しているわけではないが、野党が対案を出せないから、仕方なく我慢しているのが実状だ。つまり、自民党の勝利は「消極的支持」に支えられたことが大きいと言える。
北朝鮮問題も、選挙に大きな影響を与えたと思う。米朝間は緊張が高まっていて、いつ火を噴いてもおかしくない。そのような状況の中、野党はどこも、この問題を全く取りあげなかった。
その様子を見た国民の多くは、「野党では心許ない。やはり外交に強い安倍自民しかないのではないか」という気持ちを抱いたのだろう。
以上が、今回の安倍自民大勝の背景である。
余談だが、選挙が行われた22日の夜、僕はテレビ朝日系の開票速報特別番組「選挙ステーション2017」の司会を務めた。そこで視聴者から「野党が酷すぎる。安倍首相はやりたいことをしっかり形にしてほしい」という意見が寄せられた。
僕は、「野党が酷すぎるとはどういうことだ」と声を荒げたが、それは単純に、野党のどこかダメなのか具体的に聞きたかっただけであって、視聴者に向けて怒りを露わにしたわけではない。当然、野党をかばっていたわけでもない。選挙結果が気に入らなかったわけでもない。議論が白熱していたから、口調が強くなってしまっただけである。