“認知症運転”で男児死亡…父親が思い語る

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 横浜市で去年10月、登校中の小学生の列に認知症の男性が運転する軽トラックが突っ込み、小学1年生の男の子が死亡した。悲劇を繰り返さないために何が求められているのか。事故から間もなく1年。男の子の父親が、初めてカメラの前で思いを語った。

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■小学生9人の列に認知症男性が運転の車…

 今から4年前に撮影された動画で、生まれたばかりの妹を優しくなでるお兄ちゃんは、横浜市の小学1年生・田代優くん(6)。去年の運動会では、母親のカメラに気づいて手を振る姿も撮影されていた。そのわずか6日後のことだった―。

 優くんの父親(35)「玄関先で掃除をしていたら、同じ登校班のお母さんが駆け込んできて『事故があったのですぐに来てほしい』と。本当に何も持たずに駆けつけたような感じですね」

 去年10月28日、横浜市港南区で、軽トラックが集団登校中の小学生9人の列に突っ込んだ。優くんは頭の骨を折るなどして命を奪われた。

■事故から1年…父親の思いとは?

 突然の事故から間もなく1年―。父親が初めてカメラの前で思いを明かしてくれた。

 優くんの父親「まだ体も温かかったんです、脈も呼吸も意識もないような状況でした。事故直後は本当に悲しくて、寂しくて、どうしたものかと思っていたけど。(優くんの)妹が、僕の娘がよく言ってくれる言葉で、『優は死んじゃったけど、そばにいるから大丈夫だよ』と」

 自宅に今もあるランドセルには事故の時の傷痕が─。最後に履いていた靴は、運動会で一等が取れるようにと、おばあちゃんがくれたものだった。

 優くんの父親「普通であれば憎しみや怒りがわくと思うけど、なぜか最初からそういう気持ちにはなれなくて」

 優しい気持ちで優くんを天国に送ってやりたかったという父親。事故直後、現場で運転手と話した時のことを覚えていた。

 優くんの父親「もうろうとして目もうつろで、言葉にならないような、『あ~あ~う~う~』と」

 運転手は当時87歳の男性。過失運転致死傷の疑いで逮捕されたが、その後、不起訴になった。理由の一つは男性が認知症だったことにあった。

■平仮名ばかり…認知症男性から謝罪の手紙

 実は事故から5か月たった今年4月、男性から父親に手紙が送られていた。「田代優くんのご両親様、本当にごめんなさい。心よりおわび申し上げます。これからは運転はしません」-実際の文面は平仮名ばかりで、震える文字でつづられた謝罪文だった。

 優くんの父親「字もすごく子どもというか、大人のものには見えない。漢字もないですし、内容も推測しながらじゃないと分からないような手紙だったので、すごく認知症の症状に対して感じるものがありました」

■近所の人は認知症と気づかなかった?

 “認知症ドライバー”による事故は後を絶たない。警察庁によると、去年、死亡事故を起こした75歳以上のドライバーの半数が「認知症のおそれ」などと判定されていたという。

 優くんの事故を起こした男性は事故の前、神奈川県や都内を24時間にわたり車で徘徊(はいかい)。認知症の影響とみられている。ところが、周囲の人たちは認知症であることに気づいていなかったという。

 運転手を知る人「町内会の仕事、庭みたいなものがあって、その手入れを一生懸命されてた印象」「(Q:危ない運転だと思ったことは?)いや、そんなのはだって、普通にこの辺りで乗ってましたからね」

■事故防止への取り組みと課題は?

 優くんの事故などを受け、今年3月に改正道路交通法が施行され、75歳以上のドライバーが免許を更新する時に、「認知症のおそれ」と判定された場合は、医師の診断が義務づけられた。もし「認知症」と診断されれば、免許の停止や取り消しの処分を受けることになる。

 優くんの父親「いかに認知症で免許証を(本人から)取っても、鍵さえあれば運転はできてしまうので。できる限りことはすべてやってもらえればいいかなと思います」