AMD,ノートPC向けの新世代APU「Ryzen Processor with Radeon Vega Graphics」発表。「性能はKaby Lake-Uを上回る」
- Ryzen 7 2700U with Vega 10 Graphics(以下,Ryzen 7 2700U):
4コア8スレッド対応,定格クロック2.2GHz,ブースト最大クロック3.8GHz,デュアルチャネルDDR4,Compute Unit数 10基,TDP 15W - Ryzen 5 2500U with Vega 8 Graphics(以下,Ryzen 5 2500U):
4コア8スレッド対応,定格クロック2.0GHz,ブースト最大クロック3.6GHz,デュアルチャネルDDR4,Compute Unit数 8基,TDP 15W
AMDのGPU部門であるRadeon Technologies GroupはVegaマクロアーキテクチャ世代のCompute Unitを「Next-Generation Compute Unit」,略してNCUと呼んでいるため(関連記事),正しい略称はNCUかもしれないが,AMDはCUという略称をRyzen Mobileでは用いていた。
なお,Graphics Core Nextアーキテクチャだと,Compute Unitあたりのシェーダプロセッサ数は64基なので,シェーダプロセッサ数で言うと,Ryzen 7 2700UのVega 10は640基,Ryzen 5 2500UのVega 8は512基という計算だ。世代を無視して規模感だけで語ると,Vega 10は「Radeon HD 7700」,Vega 8は「Radeon HD 7750」相当ということになる。
GPUの動作クロックや,メインメモリのメモリクロックといった細かなスペックは執筆時点で未発表なのだが,性能比較に関する詳細情報を確認すると,少なくともデュアルチャネルおよびシングルチャネルのDDR4-2400&2133には対応しているようだ。
AMDによると,上位モデルのRyzen 7 2700Uは,前世代のモバイル向けAPUである「FX-9800P with Radeon R7 Graphics」(以下 FX-9800P,4C4T,ベースクロック2.7GHz,最大クロック3.6GHz,TDP 15W)と比較して,CPU性能は最大で+200%(最大3倍),GPU性能は+128%(最大2.28倍)という大幅な向上を実現しつつ,消費電力は最大で58%も削減できたという。
成し遂げた性能向上によほど自信があるのか,AMDは,Ryzen 7 2700UとIntelのノートPC向けCPUとの性能比較データも公開している。
それによると,CINEBENCH R15のスコアを,Ryzen 7 2700Uと,Kaby Lake-U世代のIntel製CPUでは上から2番目の性能を有するCPU「Core i7-8550U」(4C8T,定格クロック1.8GHz,最大クロック4.0GHz,TDP 15W),および「Core i7-7500U」(2C4T,定格クロック2.7GHz,最大クロック3.5GHz,TDP 15W)で比較すると,シングルスレッド性能こそIntel製CPUにやや届かないものの,マルチスレッドでは同じ4コア8スレッドのCore i7-8550Uに対して,44%も上回るスコアを叩き出すという。2コア4スレッドのCore i7-7500Uを相手にすると,ダブルスコア以上の大差を付けて圧倒している。
下に示したのは,Ryzen 7 2700Uを,競合のデスクトップPC向けCPU「Core i5-7600K」(4C4T,定格クロック3.8GHz,最大クロック4.2GHz,TDP 91W)と,CINEBENCH R15のマルチスレッドテストで比較したグラフだが,15WというTDPのCPUがデスクトップ向けの4コア4スレッド対応CPUと互角以上に立ち回っているというのは,なかなか感慨深い。
次に掲載するグラフは,オープンソースのレイトレーシングソフト「POVRay 3.7」と,Futuremarkの総合ベンチマーク「PCMark 10」の「PCMark 10 Extended」テスト,そしてディスク暗号化ツール「TrueCrypt 7.1a」※によるテスト結果だ。
ここでは,FX-9800Pのスコアを100%として,Ryzen 7 2700UとRyzen 5 2500U,Core i7-8550Uの相対的な性能がまとまっているが,下位モデルのRyzen 5 2500UでさえCore i7-8550Uを上回っている点に注目したい。
※TrueCryptは,2014年に開発が終了しており,現在では「すでに安全ではないので,使うべきでない」というステータスにあるツールだ。そんなソフトウェアを,なぜ今さら比較に使ったのかは謎である。
VegaベースとなったGPUコアの性能もAMDはアピールしている。
次のスライドは,おなじみの3Dグラフィックスベンチマークソフトである「3DMark」のDirectX 12対応テスト「Time Spy」による測定結果を並べたものだ。これによると,Ryzen 7 2700Uは,Core i7-8550Uの2.6倍を超えるスコアを叩き出すという。
AMDによると,MOBAやFPSなどのe-Sportsタイトルの場合,グラフィックス設定を低めにすれば,1920
下のグラフを見る限り,必ずしも快適とは言えない可能性はあるものの,単体GPUなしに実現できているフレームレートとしては十分に価値のあるスコアとは言えそうである。
なお,これらのテストで用いた機材は,比較対象が実際に製品が存在するノートPCの実機である一方で,Ryzen 7 2700UとRyzen 5 2500Uのデータは,AMDのリファレンスマザーボードを使ったテスト環境によるものとのこと。つまり,Ryzen Mobileを採用する実際のノートPC製品とは熱環境がまったく違うので,同じスコアが得られるとは限らないことには注意しておく必要はあるだろう。だが,条件さえ揃えば,Ryzen MobileはIntelのノートPC向け最新CPUを上回る性能を発揮できるかもしれない。
第7世代APUまでは,Intelのエントリー~ミドルクラスCPUを比較対象として,主に価格対性能比の優秀さをアピールしてきたAMDが,Ryzen Mobileでは,Kaby Lake-U世代のCPUと直接性能を比較するようになってきた。それだけでも,Ryzen Mobileに対するAMDの自信が窺えよう。AMDは「モバイルでナンバーワンを目指す」と言っていたが,あながち大言壮語というわけではないようである。
第2世代Ryzen相当の機能を盛り込んだRyzen Mobile
Macri氏によると,Ryzen Mobileには,第2世代Ryzenの新機能を盛り込んでいるという。Ryzenのモデルナンバーにおける4桁数字の先頭は世代を示すが,今回のRyzen Mobileが2000番台を名乗っているのは,まさに第2世代Ryzenだからだと,Macri氏は述べていた。
さて,そんな第2世代Ryzenにおけるポイントとして,Macri氏がまず説明したのは,Ryzen Mobileが採用する動作クロック制御機能「Precision Boost 2」だ。
Precision Boostは,第1世代のRyzenで導入された動作クロック制御機能で,Precision Boost 2はその第2世代ということになる。
Precision Boostでは,シングルスレッド実行時にCPUコアが1基のみ最大ブーストクロックまで上がるが,2スレッド実行になると,ややブーストクロックが落ち,3~4スレッドと同時実行すべきスレッドが増えるにつれて,ブーストクロックも落ちる実装になっていた。Intelの「Turbo Boost Technology」も,基本的な考え方は同じだ。
一方,Precision Boost 2では,クロックの制御が実行中のスレッド数に依存しない実装になっているという。Macri氏によると,「Precision Boost 2でCPUのクロックを左右するのは,CPUの発熱状況や消費電力,周囲の環境」のみとのこと。つまりPrecision Boost 2では,条件さえ揃えば,2スレッド以上がアクティブでもCPUがベースクロック以上で動作する可能性があるというわけである。
ところで,先に掲載したCINEBENCH R15のマルチスレッドテストでは,Intel製CPUのスコアがあまり高くなかったことを覚えているだろうか。あくまでも推測だが,バラック状態のRyzen Mobileと違って薄型ノートPCの実機上でのテストということもあり,おそらくはCINEBENCH R15で実行中のスレッド数が多いため,IntelのTurbo Boost Technologyでは動作クロックがあまり,あるいはほとんど上がらなかったのが,その原因だと筆者は考えている。言い換えると,Ryzen Mobileがより高いスコアを示した背景には,Precision Boost 2によって,CINEBENCH R15実行中でも定格より高いクロックで動作したことがあるだろう,というわけだ。
Macri氏が紹介した「動作クロックに関わるもう1つの新要素」が,「Mobile XFR」(略称はmXFR)だ。
デスクトップPC向けのRyzenに実装されている「Extended Frequency Range」(以下,XFR)は,CPUクーラーの冷却能力が高く,TDP上の余裕がある場合には,仕様上のブースト最大クロックを超えたクロックでCPUが動作するという機能だった。一方,Ryzen Mobileで実装されたmXFRは「少し方向性が異なる機能だ」と,Macri氏は言う。
Macri氏によると,mXFRは,「冷却能力が高く,Precision Boost 2が機能しやすいノートPCならば,長時間のブーストクロック動作を期待できる」ことを指すそうだ。つまりは機能というよりも,マーケティングキーワード的なものということになる。
mXFRは,XFRのように最大クロックを超える動作を可能にするわけではないそうなので,別物と理解しておいたほうがいい。
消費電力と性能のバランスを取る新機能を多数盛り込む
Ryzen Mobileには,性能を上げる機能だけでなく,ノートPCでとくに重要となる,低い消費電力と高い性能を両立するための機能も多数盛り込んであるという。その1つとしてMacri氏が最初に取り上げたのが,「Synergistic Power Rail Sharing」だ。
現在,一般的なPC用プロセッサは,CPUコアとGPUコアで独立した電源ラインを持っている。それに対して,Ryzen Mobileでは,プロセッサ各所に「Low-Dropout Regulator」(LDO,低損失レギュレータ)を配することで電源ラインを統合。このレギュレータが,必要に応じて1本の電源ラインから各部に電流を供給する仕組みを採用することで,高い効率を実現したという。
加えて,マザーボード上に置く電圧レギュレータが1つで済むという利点もあるため,電源ラインの統合は,マザーボードの小型化や筐体の薄型化実現にも寄与するだろうと,Macri氏は強調していた。
氏によると,Synergistic Power Rail Sharingの導入によって,Ryzen Mobileは第7世代APUと比べて,「トータルの最大消費電力を36%削減し,CPUコアが使用できる最大のアンペア数は28%も向上した」とのことだが,ここは少し分かりにくいかもしれないので,簡単に補足しておこう。
上で紹介したとおり,Ryzen Mobileでは,1本の電源ラインからプロセッサ内部のレギュレータを経由してCPUとGPUに電力を供給する仕様となっている。ここで,たとえば「CPUコア側の負荷が高い一方,GPUコア側の負荷は低い」状況を考えてみると,Synergistic Power Rail Sharingでは,この状況でより多くの電力をCPUコアへ供給し,高いブーストクロックを維持しながら,GPUコア側の電力を抑制できる。そのため,必要な性能を維持しつつ,トータルの消費電力は削減できるという理屈である。
内蔵するレギュレータと密接に関連しているのが,プロセッサ各部の電圧および動作クロックを決定するアルゴリズムだ。以下に掲載したスライドは,その概要を示したものだが,Ryzen Mobileでは4基のCPUコア(CORE0~3)とGPU(GFX)それぞれの電圧と動作クロックを,負荷に応じて独立制御しているという。
この電圧と動作クロックの決定アルゴリズムは「1ミリ秒以下の単位で行われており,(変動を)人間は認識することができない」(Macri氏)とのことだ。
Macri氏は,この仕組みを説明するに当たって,3DMarkの「Fire Strike」テスト実行時におけるCPUコアとGPUコアの動作クロック変動を記録したグラフという,興味深い情報を提示した。
それによると,テスト前半のGraphics testでは,GPUコア側の負荷が高いためGPUクロックが上がる一方で,CPUコア側のクロックはやや低めに推移する。それが,CPU負荷が高いPhysics testに進むと逆転して,GPUクロックが下がるとともにCPUクロックが上昇している様子が分かる。
Ryzen Mobileにおける消費電力低減の鍵として,Macri氏は,ノートPCのアイドル時における消費電力をいかにして削減したかも紹介している。
Ryzen Mobileでは,前出の低損失レギュレータ(LDO)に加えて,各部の電源をオン/オフするパワーゲートを活用して,アイドル時の電力を制御している。下のスライドは,その概要を示したものだ。
CPUのアイドル時には,コアごとにパワーゲートで電源を遮断する「CC6」ステートに移行する。GPUのアイドル時も同様で,「Graphics Power Gating」というステートに移行する。いずれのステートからも,アクティブ状態への復帰は100μs以下の遅延で行えるそうだ。
さらに深いアイドル状態になると,各部のレギュレータで電源を遮断する「CPUOFF」「GFXOFF」というステートに移行する。この状態からアクティブへの復帰には,1.5ms以下の遅延が生じるという。そして,アイドル状態がさらに続くと,電源ラインそのものを遮断する「VDDOFF」というステートに移行するそうだ。
これらに加えて,Ryzen Mobileでは,パワーゲートの制御を,「Type A」と「Type B」,2つの区画(リージョン)に分けて制御する「Dual Region Power Gating」を行っていることも,Macri氏は紹介している。
「Type A」というリージョンは,CPUやGPU,I/O(※おそらくPCI Expressインタフェースなどのこと)を含み,「Type B」というリージョンは,メモリコントローラやマルチメディア機能へのインタフェース,およびディスプレイインタフェースなどを含むそうだ。
Macri氏は,「たとえば動画再生だと,再生スタート時こそType AとType Bの両リージョンが機能するものの,その後,Type Aのリージョンはパワーゲートで休止状態に入る」と述べ,負荷状況に応じてリージョンごとにパワーゲートを制御することで,Ryzen Mobileの電力効率を高めていると説明していた。
この仕組みでは,パワーゲートの速度も極めて重要だが,Ryzen Mobileでは,前世代のAPUと比べて,CPUコアとGPUコア以外の部位も,低消費電力状態からの復帰が極めて高速になったという。各部が低消費電力状態に入っていても,必要になれば即座に復帰して反応するというわけである。
というわけで,Ryzen Mobileでは高性能を支えるPrecision Boost 2というキーテクノロジに加えて,第7世代APUまでに培ってきた電力制御に磨きをかけて,IntelのノートPC向けCPUを上回る性能を実現した,というのがAMDの主張するところと理解しておけばいいだろう。
海外では3機種のRyzen Mobile搭載ノートPCが登場。はたして国内投入は?
AMDでクライアント製品担当ディレクターを務めるDavid McAfee(デヴィッド・マカフィー)氏は,今後登場する予定のRyzen Mobile採用PCについて,簡単な紹介を行った。
氏によると,まず登場予定なのは,本稿の序盤で名前とメインメモリ仕様のみ紹介した,HPのENVY x360とAcerのSwift 3,Lenovoのideapad 720Sの3シリーズ。今のところ日本市場に登場するかどうか未定ではあるが,ENVYとideapadは第7世代APUモデルが日本でも販売されていたので,後継製品が出てくる可能性はあるだろう。
AcerのSwift 3はいまのところCoreプロセッサ搭載モデルしかないが,Swift 3自体は日本でも売られているので,こちらも後継が出てくる可能性はある。
いずれにしても,Ryzen Mobileの成功は,いかに多くの製品に採用されるかにかかっている。McAfee氏は,「この3機種は第1弾にすぎない。より多くのRyzen Mobile搭載PCが,2018年1月のCES 2018で発表される予定なので,ぜひ来場してほしい」と呼びかけて説明を締めくくった。どのようなRyzen Mobile搭載ノートPCが出てくるのか,今から楽しみである。
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