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「IS"首都"陥落 今後の課題」(キャッチ!ワールドアイ)

出川 展恒  解説委員

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【リード】
過激派組織IS・イスラミックステートが「首都」と位置づけていたシリア北部のラッカが、今月17日、陥落しました。これによって、ISは崩壊に向かうのか、そして、ISの過激な思想とテロが世界に拡散する問題について考えます。

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Q1:
シリアのラッカが陥落しました。ISにとっては、「イスラム国家の首都」としてきた場所だけに大きな打撃ですね。

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A1:
はい。ISが自らを「国家」と称する根拠が失われたと思います。シリアとイラクにまたがる支配地域は、相当小さくなりました。

現在残っているのは、シリア東部のデリゾールからイラクとの国境にかけてのわずかな地域です。このあたりは砂漠地帯で、最高指導者のバグダディ容疑者など、ISの幹部らが身を隠していると見られています。また油田もあり、ここからの原油の密輸がISにとって重要な資金源となっていました。
アサド政権軍は、デリゾールの85%以上をすでに支配下に置き、主要な油田も奪還しました。多いときには数万人いたISの戦闘員らも、殺害されたり、逃亡したりして、6500人程度にまで減ったと見られています。

Q2:
ISは支配地域を失っているだけでなく、資金源を絶たれ、戦闘員も減って、いよいよ追い詰められた格好と言えるでしょうか。

A2:
そう思います。ISが、それまでのイスラム過激派組織と大きく異なるのは、領土を獲得し支配することで、「国家」の体裁をとったことです。

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一時は、イラクとシリアのそれぞれ3分の1程度の領土を支配し、略奪や住民からの税金徴収で莫大な資金を得て、世界中から戦闘員を集めました。

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しかし、今年7月には、ISにとって最も重要な拠点だったイラク北部のモスルが陥落し、今回、「首都」と位置づけてきたシリアのラッカが陥落したことで、「疑似国家」としてのISは、事実上、終わりを迎えつつあります。

Q3:
しかしこれでISの問題がすべて解決したとは言える状況ではありませんね。

A3:
その通りです。まず、シリアとイラクの秩序を回復し、政治的な安定を確保することが絶対に不可欠です。中央政府が統治できない「無法地帯」が残れば、そこにISと同じような過激派組織が勢力を拡げる原因となるからです。

Q4:
そのためにはシリアでのアサド政権と反政府勢力の内戦も終わらせなければなりませんね。

A4:
そうです。こちらは、シリア内戦の勢力図です。

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現在、「紫」で示したアサド政権が、「黄色」で示した反政府勢力との戦いで、圧倒的優位に立っています。

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内戦を終わらせるには、まず、アサド政権と反政府勢力の間で、「停戦」を実現することが重要です。そのうえで、両者の話し合いで「暫定政権」をつくり、「新しい憲法」を制定したうえで、「選挙」を実施し、「正式な政権」を発足させるという、国連安保理決議で定められた和平の道筋を軌道に乗せなければなりません。

ところが国連が仲介する和平協議は、今まで、アサド政権と反政府勢力の代表が直接対話する機会が1度もありませんでした。互いの根深い不信感が原因で、アサド政権の存続を認めるかどうかが最大の対立点です。

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今後、アサド政権を強力に支援するロシアと、反政府勢力を支援してきたアメリカが歩み寄り、直接対話を実現させなければ、和平の実現は不可能です。

Q5:
一方、イラクでは、ISが支配地域のほとんどを失ったものの、異なる宗派や異なる民族の対立を克服する必要がありますね。

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A5:
その通りです。まず、宗派対立ですが、人口が最も多いシーア派のアラブ人が政治の主導権を握り、少数派のスンニ派を蔑ろにするという構図から脱却しない限り、再び同じことが起きてしまいます。スンニ派の勢力に政府のポストや予算をもっと多く配分して、不満を解消し、「挙国一致」の国づくりを進めて行かなければなりません。

次に、民族対立ですが、ISとの戦いに大きく貢献したクルド人の自治政府が、先月、イラクからの独立の賛否を問う住民投票を強行した結果、イラク中央政府との激しい対立を招きました。この問題を解決することも重要です。

加えて、シリアとイラクで家を失い、難民や国内避難民となって、避難生活を余儀なくされていた人々を帰還させ、戦闘で徹底的に破壊された街を再建することが必要で、それには膨大な費用と時間がかかります。

もうひとつの難問は、ISの過激思想とテロが世界に拡がるのをどう防ぐかです。

Q6:
アメリカのシンクタンクは24日、世界からシリアとイラクに集まったISの戦闘員のうち、すでに5000人以上が出身国に戻ったとの推計を発表しました。こういった戦闘員が今後、各地でテロを起こすことも心配されますね。

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A6:
それが心配です。「疑似国家」としてのISが崩壊しても、「過激思想」としてのISが今後、世界に拡散して行くという問題があります。ISの戦闘員らが、自らの出身国や敵と見なす国に移動して、テロを起こす恐れが、これまで以上に高まると考えられます。

今年8月、スペインのバルセロナで、ISの関連組織のメンバーらが、車を使って大勢の観光客などを殺傷したテロは記憶に新しいところです。北アフリカのリビア、エジプトのシナイ半島、イエメン、アフガニスタンなどで、ISの関連組織が拠点を築く動きがあります。

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ISの過激思想とテロの拡散を防ぐためには、ISがインターネットを使って、宣伝や情報交換を行っている現実を踏まえ、各国がサイバー空間を監視し、戦闘員らの動きを追跡して、テロの計画を未然に防ぐ対策を立てることが重要です。その際、各国が連携し、情報を共有しなければ、効果は期待できません。

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また、ISの戦闘員らが出身国に戻った場合、過激な思想を取り除き、社会復帰させることが重要です。精神面のケアから、教育、職業訓練、就職の斡旋まで、長期にわたるプログラムを整える必要があります。

Q7:
ISの問題はイラクやシリアだけにとどまりません。国際社会はどう対応すれば良いでしょうか。

A7:
ISに代表される宗教的な過激主義は、名前や形を変えて広がります。ISはイラクとシリアの混乱の中、「アルカイダ」から派生する形で生まれました。ISを壊滅させても、その過激思想は世界に拡散し、「第2、第3のIS」が生まれる恐れがあります。

この問題は軍事作戦だけでは決して解決しません。過激な思想や組織が支持を拡げる原因を取り除いてゆかなければなりません。たとえば、宗教による差別の問題を解消することや、若者たちの雇用の場を確保することが、極めて重要だと指摘されています。こうした地道な努力を国際社会が一致協力し、推し進めてゆくことが求められます。

(出川 展恒 解説委員)

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