「成長し続ける人」を、組織全体でつくる意味
――書評『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか』

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ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第64回はハーバード大の発達心理学と教育学の権威ロバート・キーガンらによるなぜ弱さを見せあえる組織が強いのかを紹介する。

人の成長はいつ止まるのか

「組織内でいま成長している人」と聞かれて思い浮かぶのは、50代の部長よりも、20代の若手社員の姿かもしれない。歳を重ねると人の成長は緩やかになるという説は、多くの人が信じているだろう。

 今回紹介する『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか』の著者であるロバート・キーガン氏が研究に着手した当時、人間の知性の発達は肉体の発達と同じように考えられていた。身体的な成長が止まるのと同様に、心理面の成長は20代でほぼ止まると思われており、大人がそれ以上「伸びる」ことはないと思われていたのだ。しかし、現在の科学的な根拠に基づくと、人間の知性は大人になってからも年齢を重ねるにつれて向上していくという。そして、そのプロセスは高齢になるまで続き、20代で終わるものではないのだ。

 彼らの前著『なぜ人と組織は変われないのか』では、人が変わりたくても変われないのは意志の力ではないことを示し、個人と組織の変革の手法を提示していた。本書では、大人が多くの時間を過ごす職場を、成長するための場である「発達指向型組織(DDO)」に変えるための道筋を提示している。

 本書でキーガン氏らが述べるDDOは、多くの企業で実施される「選抜人事」のように、優秀だと思われる一部の人を選んで育てるものではない。従来の個人に対する支援策ではなく、すべての人を育成の対象にしている点に面白さがある。日々の仕事のなかで、メンバー全員が成長を目指せるように、組織そのものを能力開発の場に変えようとするのだ。すべての人に可能性があることを前提に語る温かさは、この本の原著のタイトルであるAn Everyone Culture: Becoming a Deliberately Developmental Organization にもよく現れている。

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