INTERVIEW:

BAD HOP

「このタイミングでリスナーは判断すると思うんですよね。今って、『BAD HOPはカッコ良い』『BAD HOPはダサイ』という意見の間で揺れてると思うんです。多分、リスナー個人の心の中でもそこは揺れてると思う。このアルバムで決定的な評価を決めさせるというか、『あ、コイツらは絶対カッコ良いな』って言わせるために説得力を持たせる作品を作ろうと思いましたね」

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 オフィシャル作としては初となるアルバム「Mobb Life」を発表したBAD HOP。話題作が連発されている2017年の国産HIP HOPだが、「Mobb Life」もまた、クオリティの高さはもちろんのこと、世界基準で見た現行HIP HOPの流れを貪欲に取り込もうとする意識の高さや、ハードコア・ラップならではのスリルなど、聴きドコロ多数の快作だ。
 
 筆者が本インタビューを終えた後の感想は、「BAD HOPは最早“新世代”“若手”という括りだけで語られるべき集団ではない」ということだった。ついこの間、成人を迎えたとは思えない音楽面での向上心、ヴィジョンの確かさや大きくも現実味のある野心 — ハードコア・ラップらしいストリート性やラフなライフスタイルを押し出しているとは言え、それをパッケージングしてアウトプットする上での理論/哲学はかなりしっかりしたモノで、そういった部分に非常に感銘を受けた。サウスサイド川崎という限定されたエリアで育ってきた彼らだが、そのヴィジョンの先は川崎どころか、日本を飛び越えて海外に向かっているのが分かるし、無根拠なモノではないと感じさせる説得力もある。
 
 今回のインタビューは、BAD HOPを代表して、「Mobb Life」のエグゼクティヴ・プロデュースやクルーの活動全体の監督的役割を果たしてきたYZERRが単独で登場。また、彼の生い立ちやハードなバックグラウンドなどは既出の記事や動画などで明らかになっているので、ここではBAD HOPの音楽面やそれに付随する事柄を中心に話を伺った。結果、よりヴィヴィッドにBAD HOPの戦略や志の高さが露わになった、濃密なインタビューになったと思う。
 

 
■BAD HOPは、子供の頃からの友達グループが基盤となっているので、具体的にいつ頃ラップ・グループとして形成されたのかが曖昧だとは思うのですが、「ラップ・グループとしてのBAD HOP」を意識し始めたタイミングはいつ、どのようなタイミングだったのか振り返ってもらえますか?
「確かに、それをちゃんと考えたことはなかったけど、(タイミングは)ありますね。BAD HOPという名前は、元々地元でやってたイヴェントの名前なんですよね。で、確か池袋bedでライヴがあって、そのときに『そういえばグループ名、ないな』ってなって。その前から、『いつかみんなでレーベルやりたいな』って話をしてたんですけど、そのときに『名前、何がいい?』ってなったときに『BAD HOPじゃね?』っていうことは話してたんです。4〜5年前、T-Pablowが『高校生ラップ選手権』(以下『高ラ選』)に出始めたたぐらいの時期だったと思います。最初は、BAD BOY ENTERTAINMENTを意識してたんですよ。それぐらい簡単な感じで、そういう響きの言葉が俺たちの身近にあるかな?と思って。BAD HOPは、野球用語の“イレギュラー・バウンド”っていう意味だったし、『それ、良いな』って。Pablowが4回目の『高ラ選』で優勝した時期、USではA$AP MOBが出て来て、クルー的な感じが流行ったじゃないですか。そこからBAD HOPという名前を思いついて、『じゃあ何する?』『Instagramのアカウント作ってみるか』みたいなところから始まったんです。で、Pablowが優勝した後、一回目のイヴェントがあったときにBAD HOP名義でライヴに出たのが始まりですね」
 
■今となってはすごく絶妙なグループ名に感じますけど、それぐらいラフな感じで決まったんですね。
「最初は、『BAD HOP=バッドなHIP HOP』みたいに勘違いされるかな?って思ったんですよね。だけど、イレギュラー・バウンドの『どこに(ボールが)跳ねるか分からない』っていう意味は良いな、って思ってて。それと、イヴェントの『BAD HOP』をやってたのが自分のお兄ちゃん的な人だったし、『その名前を全国に持って行きたいな』っていう熱い気持ちはみんな持ってますね」
 
■その時点では、YZERR君とT-Pablow君以外のメンバーってまだラップをそんなにやってなかった時期でしたっけ?
「今考えると、まだみんな全然やってなかったですね。僕とPablowが(一回目の『高ラ選』後)一年間離れていた時期だったというのがあって、他のメンバーもラップしてなかったというのもありますね。ラップはやってたんですけど、みんなメチャクチャ下手だったし、完全に遊びでした。ライヴをやっても、無理やりやらされてたようなメンバーもいたし。僕らの周りはオトナになるのが早いというか、若いときに子供が出来たりするようなヤツがいっぱいいるし、そうなるとオトナになっても友達と一緒にいれる“口実”が必要で、それが単にラップだったというか。ラップを通して、子供のままでいたい自分たちが繋がれてたな、っていうのは思いますね」
 
■ANARCHYのドキュメンタリー映画『DANCHI NO YUME』でも彼の仲間が同じようなことを言ってましたね。「仲間と一緒にいれるなら極論、HIP HOPじゃなくてもよかった」みたいな。
「ラップの前は、それがヤンチャなことだったんですよ。チームみたいなのを組んで。で、そういったヤンチャなことから手を引こうとなったら普通の人になっちゃうというか、本当に何も繋がりがなくなると思ったんですよね」
 
■YZERR君とT-Pablow君は、他のメンバーより先に台頭したから、他のメンバーもそこに追随する形でスキルを上げていったと思うのですが、彼らの意識がアーティスト的な意味で高まってきたと感じたタイミングは?
「それは、今作からですね」
 
■あ、今作でやっとそうなった、という感じ?
「はい。今作を制作してるときにそれを感じました。前はやっぱり遊びだったんですよ。『BAD HOP 1 DAY』を出した頃も。僕たちが遊んでる感じをみんなに聴いてもらってたというか。もちろん、やり方とか出し方は考えてたんですけど、僕たちが遊んでる感覚をみんなと共有したかったというか。だから、あの頃は『作品を作ろう』ってなって作ってた感じじゃないんです。でも、今作は『作ろう』ってなった。以前は、細かいリズムとかが気になったとしても、あまりダメ出しやボツにしたりはしなかったけど、『Mobb Life』はより“仕事”というか、『ちゃんと作った上でみんなに聴いて欲しい』という気持ちが高まった。作ってたとき、『今回はちゃんとやらないとな』っていうことはみんな言ってましたね。全国流通の作品が出せるって決まった時点で……小さく聞こえちゃうかもしれないけど、発売すると売り上げ枚数とかが出るじゃないですか?『BAD HOPが最近勢いがある』って言われてるのに、全然売れなかったら恥ずかしいな、って。でも、今回は『やっちゃっていいんじゃないのか?』って思ったんです」
 

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