日本会議・日本青年協議会による学生オルグの実態――シリーズ【草の根保守の蠢動 第25回】

参加者の多くはお年寄りだった

 日本会議やその周辺が開催するイベントの参加者は高齢者が多い。先日お伝えした「改憲一万人集会」でも会場には白髪が目立った。参加者の平均年齢は60代後半から70代前半といったところだろう。勉強会、決起集会、訴訟報告会などなど、これまで彼らが行う多種多様なイベントを観察してきたが、どの場所でもこの傾向は変わらない。

 だが、スタッフは若い。

 中にはどう見ても大学生にしか見えない若い男女もいる。彼らは30代から40代と思しき管理者たちから指示を受け、さまざまな任務をこなしている。着慣れないスーツを着て黙々と作業をこなす彼らの姿は、「学生による社会運動」というよりも「インターン生」や「社会人体験」という言葉で言い表す方が、実態に近い。

 人数も相当数いる。先だっての「改憲一万人集会」ではどのゲートでも、7~8人前後が受付や誘導にあたっていた。ゲートの数が5つだから、受付担当だけで40人近い人員を用意していることになる。さらに、会場内外の警備やゲスト誘導などで同程度の人員がいた。スタッフの総数はざっと見積もって100人前後だろう。

 そのうちの一人を捕まえて、「やっぱり君たちは椛島さんとこの日本青年協議会の人たちなの?」と聞いてみた。目を合わせてくれない。「あなたの来歴を聞いているんじゃない。所属を聞いているだけだ。所属ぐらい名乗れるでしょう」と問い詰めると、うつむいたまま、「……はい、そうです」と答えてくれた。顔を覗き込むと泣きそうな顔をしている。どうやら他言せぬように言い含められているのかもしれない。

 やはり彼らは、日本青年協議会に属しているようだ。

 連載12回でもお伝えしたように、日本会議の本部は日本青年協議会と同じビルの同じフロアに入居している。また、日本青年協議会の会長である椛島有三氏は、日本会議の事務総長だ。これらの事実に立脚してこの連載では、「日本青年協議会こそが日本会議のコアであり推進母体である」と指摘してきたが、スタッフも日本青年協議会から出ているとなると、「運動体としての日本会議は日本青年協議会が取り仕切っている」と言い切っても良いだろう。

 だが、日本青年協議会こそが日本会議の運動を取り仕切っているとはいえ、どのようにして彼らが学生スタッフを集めているのかは不明だ。

 日本会議の機関誌『日本の息吹』にしても日本青年協議会の機関誌『祖国と青年』にしても、若者が読むような雑誌ではない。一般の書店で販売されているわけでもないので、そもそも学生が手にする機会がない。

 日本青年協議会は、「反憲学連」と「全日本学生文化会議」という学生組織を持っている。前者は日本刀や鉄パイプで武装し左翼学生運動を襲撃する武闘派路線、後者は読書会や勉強会を行う文教路線という棲み分け。このうち、武闘派路線の「反憲学連」は90年代以降その活動が確認されていない。片方の「全日本学生文化会議」は今も国学院大学などで活動を続けているようだが、それほど活発ではない。(※)

 また、日本青年協議会の濫觴が「生長の家政治運動」にあるとはいえ、もはや彼らは現在の「生長の家」教団とは一切の関係を持たぬため、宗教団体から若年層を動員することもできない。

 あらゆる方向から考えて、一般の学生が、日本会議や日本青年協議会の活動と接点を持つ機会は想定し難いのだ。

 だが、現実に、若い人は多数いる。果たして日本青年協議会はどうやって学生たちをオルグするのだろうか?

きっかけは、小林よしのり

「日本青年協議会とか全然、知らんかったんですよ」

 取材打診から半年あまり、ようやく会うことのできた人物は、開口一番、そう告げた。
 彼の名は、早瀬善彦(33歳)。現在、同志社大学で嘱託講師を務める。

 早瀬氏は、以前拙稿『「日本会議」を知るためのブックガイド』でも紹介した、西尾幹二による『保守の怒り』に、日本青年協議会のオルグの実態を告発する手記を寄せている。しかしあの手記は概略を述べるにとどまっており、核心部分がつかめない。どうしても彼に会いたかったのだ。

「僕は今も保守ですし、基本的に安倍政権を支持しています。改憲だって賛成です。しかも左翼が大嫌いですしね。でもね、それ以上に、日本会議というか、あの界隈が嫌い」

 彼の口から出た言葉は、いささか激しい。しかしここまで悪し様に日本会議を毛嫌いするにはちゃんとした理由がある。まずは、彼の話を聞いていこう。

 彼が日本青年協議会と最初に接点を持ったのは、彼が京都大学を目指し浪人生活を送っていた2001年のことだという。

「高校2年生ぐらいの時に、渡部昇一と谷沢永一の対談本みたいなのを読みましてね。感化されるというか、染まっちゃったんですよね」

 早瀬氏は1982年生まれ。彼が高校2年といえば、1998年だ。ちょうど「新しい歴史教科書をつくる会」結成の2年後に当たる。当時、「つくる会」の活動は最盛期を迎えていた。96年12月に一般書籍として出版した『教科書が教えない歴史』は大ベストセラーの記録を更新し続けていたし、2001年の教科書採択を照準にし西尾幹二、西部邁、小林よしのりなど「つくる会」所属の文化人たちが大規模な言論攻勢を加えていた時期だ。

「だから僕も、『サピオ』とか『正論』とか読んでね。どんどん、小林よしのりの『新・ゴーマニズム宣言』とかにハマって行きました」

 保守論壇にはまったためか、彼は大学受験に失敗し浪人の道を選ぶ。彼が浪人生活をスタートさせた2001年4月は、ちょうど、「小泉旋風」が吹き荒れ、小泉純一郎総理が誕生した時期に重なる。

「で、生まれたばかりの小泉内閣に関して、保守論壇が一番こだわったんが、靖国参拝やったんです。小泉さん、靖国に行くって言い出したんで」

 確かにそうだ。小泉は、敗戦記念日の8月15日に公式参拝することを公約としていた。

「だから、僕もずっとそのことを気にかけていました。小泉首相は8月15日に靖国に行くべきやと。で、その議論が白熱する中、いつものように月刊誌『正論』を読んでたら、広告があったんです。『小泉首相と一緒に靖国神社に参拝しよう』『青年で参拝しよう』と。その広告に日本青年協議会だとかの名前があったかどうか記憶してないです。で、その広告見て、『そんな心ある学生が東京にはやっぱりいるんだ』と思ってすぐ申し込んだんです」

 取材後、『正論』のバックナンバーを調べてみた。あった。この広告だ。

『正論』2001年9月号のP203より


 掲載されていたのは、2001年9月号のP203。確かに日本青年協議会の名前は一切ない。広告下段は「小泉首相と石原都知事の靖国神社公式参拝を支援する都民集会」なる別イベントの告知だが、こちらにも日本青年協議会の名前はない。わずかに後援団体として「日本会議東京都議会議員懇談会」の名称が見えるのみだ。これでは記憶になぞ残るまい。確かに、イベント事務局として掲載されている目黒区青葉台の住所は、日本青年協議会及び日本会議の本部事務所の所在地ではある。しかし当時18歳だった早瀬氏にそんなことがわかるはずもない。

「でもね、小泉さん、結局、13日に参拝しちゃうんです。だから15日に行く意味なくなった。しかし親から金は出してもろてるし、同世代の友達も欲しかったし、結局行くことにしました。」

 純粋な愛国心と少年らしい動機で、早瀬少年は上京する。

「行ったらですね、学生、2~3人しかおらんのですよ。あとは大人ばっかり。で、どんな団体なんですか?って聞いたら『自主的に集まった団体です』って答える。しつこく聞いたら、ようやくそこで、『日本青年協議会』を名乗りました」

 しかしこの名前を聞いても、当時の早瀬少年は何も感じなかった。その後、皆で昇殿参拝。愛国心に目覚め初めて靖国神社昇殿参拝した少年は素直に感動する。

「参拝が終わった後、直会(注:なおらい。祭事の後の打ち上げのこと)がありました。靖国神社近くの、彼らがいつも使うセミナーハウスで。でも、最初は僕を誘うかどうか、だいぶこそこそ相談してましたね。僕が根ほり葉ほりいろいろ聞くからでしょうね。でも結局、直会には呼ばれました。で、帰る時、『関西にいるんだったら、僕たちの仲間は関西でもサークル活動してるから、大学受かったら探して参加すればいいよ。』と、サークル主催者の名前とサークル名を教えてもらいました。それが『学生文化会議』だったんです」

 靖国を後にし、帰郷した早瀬少年はその後受験勉強に埋没する。。。と書きたいところだが、そうではなかった。

「浪人なのにいろんな活動してね。『中国と韓国はダメだー』『リベラルはダメだー』『つくる会は間違っていない』みたいな話しばっかりしてました。予備校の先生は左翼がかかった人が多いんで、先生にも喧嘩売ってました。先生からは『君の言いたいことはわかったが、大学受かってからにしろ』と言われました。今から思えば正論ですね」

 一刻も早く「国のための活動がしたい」という希望を持つ早瀬少年は結局、2002年4月、同志社大学文学部に進むこととした。

 入学後、彼は早速、靖国で教えられたサークルを探し、その門を叩いた。

 かくて、『正論』に掲載された広告の呼びかけに純粋な愛国心から応じた少年は、日本青年協議会の学生組織に吸収されたのだ。

 おそらく今も、日本青年協議会はこの手法で学生を集めているのだろう。こうして集められた学生が、冒頭で振り返った「改憲一万人集会」のスタッフたちのように、「国民運動」の現場にかり出されるのだ。

 次回は、このようにして日本会議/日本青年協議会と出会った学生たちが、実際にどのようなサークル活動を行っているのか、早瀬氏の証言をもとに振り返る。

<取材・文/菅野完(Twitter ID:@noiehoie)>

※この稿を執筆中の12月15日にも、全日本学生文化会議は國學院大学において伊藤哲夫の講演会を実施していることを確認している。しかしながら学内に掲出されたポスターを見ると、連絡先がなぜか専修大の学生となっている。拠点校たる國學院大学でも自前の事務方を用意できぬほどの勢力のようだ。なお、学内サークルでありながら学外学生を窓口にしたイベントを開催するのは規定違反であること申し添えておく。


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