元ヤクルト・宮本が「野球離れ」に投じる一石

サッカーに子どもの参加者を奪われる現状

この日は24組の親子が体育館に集まった。宮本は、約2時間、1人で教室を進行し、声を張り上げ続けた。子どもがボールを投げて得点を競う競技では、24人の子供一人ひとりが投げ終わるまで丁寧に見届け、一人ひとりに得点をつけた。約30分ごとに給水タイムを設けたが、その間の父母を交えた記念撮影にも気軽に応じていた。

またティーに載せたボールを打つ競技では、父母にも挑戦する機会を設けた。母親から先に打たせたのは、今、子どもの習い事を決めるうえで、母親の意向の方が、父親よりもより強く影響すると言われていることを考慮したのではないかと感じた。お母さんたちは幾分上気した顔でボールを打ち、宮本はその都度、手を叩いたり、丁寧にアドバイスしたりした。ティーボールの試合も、1人で審判をした。有名な野球人が顔見せ的に参加するのとは、まったく違う、いろいろな意味で汗をかいての本腰を入れた取り組みだった。

有名な野球人が普及活動に乗り出す意義

筆者はこうした教室をいくつも見ているが、宮本の教室はその中ではややハードな部類だと感じた。一人ひとりの子どもが体を動かす頻度が多いし、密度も濃い。しかし、宮本がぐいぐいとイベントを引っ張っていくので、子どもたちはだれることなくついていく。大人も集中力を途切れさせなかった。こうした様子から、宮本のように求心力を持つ著名な野球人が普及活動をすることのメリットをはっきり感じることができた。

サポートしていた品川区の職員は「昨年、宮本さんからボランティアでこういうことをやりたいというご提案があったんです。そこで、私どものほうで区立、私立を問わず幼稚園・保育園に声をかけて、応募があった園で教室を開いていただきました」と宮本から呼びかけがあった経緯を話した。

プロ野球のテレビ放送が減り、野球というスポーツ自体が今の子どもにとって縁遠くなっている実態がある(撮影:今井康一)

「投げたり打ったりするのは初めてのお子さんばかりですが、宮本さんがこのような形で楽しく教えてくださるので、最後に『野球が好きになった子!』というと、何人かが手を上げるようになりました。私どもは日程調整させていただくだけで、実施はすべて宮本さんにお任せしています。子どもたちが体を動かす機会にもなりますので、ぜひ、継続的にやっていただきたいと思っています」(品川区職員)

行政や企業の支援はあるにしても、宮本慎也自身の「気持ち」がなければ続かない取り組みだ。「野球離れ」を食い止めるためには、一人ひとりの野球人が、今できることから始めることしかない。その思いを改めて強くした。

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  • NO NAME81aafd22bda1
    野球人がサッカーや他の競技に子供を取られてるという被害者意識を持ちづづけている限り上向くことはないだろう。それこそサッカー帰りの子供がふらっと参加したりしなかったり出来るぐらいのカジュアルさが必要。野球のために子供がいるわけではないし、野球以外からも大切なことは学べるのだから。
    up73
    down8
    2017/10/9 17:22
  • NO NAME5deccdb13a1e
    野球って他競技と違って「野球だけの普及活動」しかしないよね
    しかもメディアや信者がそれを賛美するから本当に煩わしい
    常に自分達の利益になる事しか考えていない

    他競技は「夢先生」など子供に様々なスポーツを楽しんでほしいために教えるのにね
    up59
    down6
    2017/10/9 13:49
  • NO NAMEad7201252f90
    ゲーム(試合)中の運動量は、他の競技に比べると極端に少ない。攻撃側にいるときは、打者以外はベンチで休憩できるので、汗をかくスポーツが好きな子どもやサッカーのように動的な判断力や運動能力を面白いと思う子どもは、他のスポーツを好むのか。
    up54
    down6
    2017/10/9 10:03
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