元ヤクルト・宮本が「野球離れ」に投じる一石
サッカーに子どもの参加者を奪われる現状
少子化のペースを超えて進行する、野球人口の減少――。若年層になるほどに加速する「野球離れ」に対する危機感は、NPB(プロ野球)やアマ野球の現場でもじわじわと広がりつつある。もちろん、野球を愛する人が何もしないわけはない。現役選手や指導者の中にも「何とかしなければ」という人が現れている。
現役時代、2000本安打の大記録を達成した宮本慎也もその1人だ。宮本は、名門PL学園時代に甲子園で優勝、同志社大、プリンスホテルを経てヤクルトスワローズ(現・東京ヤクルトスワローズ)に入団。1995年から43歳になる2013年まで現役でプレーした。今は、解説者として多忙な日々を送る中、独自に幼稚園・保育園児を対象とした普及活動に取り組んでいる。
宮本が日本野球の現状に抱く危機感
9月、日曜のある日、品川区の公共施設「スクエア荏原」に現れた宮本慎也。開かれるのは、野球の楽しさを知ってもらうための、幼稚園・保育園児向け教室だ。
宮本は、手慣れた様子で箱から用具を取り出していく。ゴールデングラブ10回、オールスターゲームに8回出場したスター選手が、率先してここまですることにまず感銘を覚えた。
見慣れた「6」のユニホームに着替えた宮本に話を聞いた。現役時代から、野球チームの減少やチームの合併などの話も聞いていたという宮本。だが、はっきりと意識が変わったのは、引退して、息子の少年野球に携わるようになってからだという。
「少年野球をする子どもが減っているのを目の当たりにして、これは本当にやばいなと思うようになりました。一方、サッカーが地元密着で幼児に教えているというのは以前から知っていました」
そうした現場を目の当たりにした宮本は、「幼稚園の段階から(サッカーに競技人口を)取られているな」と痛感したという。そこで、野球の参加人口を増やす活動に自ら乗り出した。「幼稚園などを回って普及活動をしたいと思っていたのですが、それがようやく昨年、実現したわけです。まずは、自宅のある品川区周辺の幼稚園・保育園を回ろうということで、時間を見つけて教室を開いています」。
「でも、幼稚園・保育園の子どもには野球のルールを教えるのは難しい。小学校4年生でも、フライを打ち上げたのに走ってしまう子がいるくらいですから」。回り始めて1年余、開催は25回にもなるが、野球の普及につながっているという手応えはまだない、という。