テレビ朝日の報道ステーションは10月18日の放送で、総選挙に関する報道で安倍政権の経済政策(アベノミクス)に対する各党の評価を取り上げた。その際、有効求人倍率が上がったという安倍晋三首相(自民党総裁)の主張について、コメンテーターの後藤謙次氏が「有効求人倍率が上がったと言っても、日本全体の労働人口が減っているわけですから、当然数字は上がってるわけですね」とコメントする場面があった。
後藤氏が言及した「労働人口」の意味は必ずしも明確でないが、視聴者が受け取る意味は、通常「働いている人の数」または「働ける人の数」と考えられる。統計上は「就業者(数)」(収入を伴う仕事に従事している人)または「労働力人口」(働く能力と意思をもっている人)がある。政府の統計調査をまとめている総務省に確認したが、「労働人口」の統計はない。
そこで、就業者数と労働力人口の統計を調べたところ、2012年以降は上昇していることがわかった。したがって、「労働人口」を就業者数または労働力人口と理解する限り、「日本全体の労働人口が減っている」という発言は事実に反する。
ただ、生産年齢人口(15歳以上64歳以下の人口)は1997年以降、減少し続けている。後藤氏のいう「労働人口」を生産年齢人口と読み替えれば、その限りで「減っている」というのは正しいことになる。だが、生産年齢人口を「労働人口」というのは正確さを欠き、誤解を与える。
富川アナ:どちらも間違ったことを言ってないんですが、土俵が違うだけに判断が難しいですね。
後藤氏:そうですよね。どちらも良い数字だけ、あるいは良い漢字だけを言っているということで非常に重要な政策問題なんでけども、議論がかみ合ってないっていうのが実態だと思うんですね。確かに安部総理が言うようにですね、経済の指標というのはすべて良いわけですね。雇用情勢、あるいは賃金の問題。しかしそこで何かが足りないんだと、というのが上野さんが仰ったように、実感が伴わない、このギャップはなかなか埋められないんですね。
ただ実際に見ていきますと、例えば有効求人倍率が上がったと言ってもこれ、日本全体の労働人口が減っているわけですから、当然数字は上がってるわけですね。で、株も大変な値上げをした、これだけの大型の金融緩和をやったわけですから、それは当然の帰結なんですね。ただし、多くの株主は大都市に住んでいる、そして大企業も業績回復してるけども円安の恩恵を受けている大企業だけだと、結局、地方の中小企業、或いは地方に住んでいる方々には景気回復の実感が来てない、というのが今のアベノミクスに対する物足りなさだと思うんですね。…(以下、略)
有効求人倍率が「当然上がる」も間違い
後藤氏の有効求人倍率が労働人口減少で「当然上がる」と説明した点も間違いである。
有効求人倍率とは、「公共職業安定所で取り扱う求職者数に対する求人数の割合」(有効求人者数÷有効求職者数)。就業人口や労働力人口の増減とは関係がない。生産年齢人口の増減とも関係がない。
過去に就業者数や労働力人口が減少した時期を調べたところ、有効求人倍率が低下したこともあった。過去20年でみると、就業者数・労働力人口が前年より減少し、有効求人倍率も低下していたのは、1999年、2002年、08年、09年だった。
生産年齢人口は1997年以降、減少し続けているが、この間、有効求人倍率が低下したことは何度もある。
いずれにせよ、後藤氏の有効求人倍率に関する発言は、事実に基づかないものだったと言える。
- 労働力人口と就業者数のデータ (総務省統計局)※【表2】年平均結果―全国参照
- 有効求人倍率の定義とデータ (総務省統計局)
- 生産年齢人口の推移等 (首相官邸・PDF資料)
【楊井人文、松本日菜子、保科俊】
(GoHooはFIJの総選挙ファクトチェックプロジェクトに参加しています。)
- (初稿:2017年10月25日 17:42)