新潮社さんから、事務所宛に質問をいただいた。
僕が全国の図書館(5500館)に新刊『革命のファンファーレ ~現代のお金と広告~』を受けて、納得のいかない部分があったらしく、「弊社の雑誌インタビューに答えて欲しい」というオファー付きだった。

雑誌掲載となると、新潮社さんの都合でいかようにでも僕の言葉を編集できてしまうので、「お答えするのは構いませんが、やるならば、お互いの言葉を全文掲載できる僕のブログでお答えします」と、事務所を通して、お返しした。

ただ、新潮社さんからの質問を全文公開すると、新潮社さんにとって本当に1ミリも得がないと思うので、個人的には伏せさせていただこうと思っている。
もちろん、先方のご希望があれば、いただいた質問を一文字残らず全文公開して、一つずつ丁寧にお返しするが、あまりオススメはしない。

「本が売れないのは図書館のせい」という声がある。

たしかに、書籍全体の売り上げは1996年をピークに、そこから以降、右肩下がりだ。
一方、公共図書館の貸し出し冊数は1997年以降も増え続けている。

ここだけ切り取って見ると、「本を貸し出すから、売れなくなった」という言い分も、まぁ分からなくもないが、ところが1996年以前の数字を見てみると、公共図書館の貸し出し冊数が増えるのと同時に、書籍全体の売り上げも伸びている。

このことから、「図書館が貸し出したせいで」とは言い切れない。

ちなみに、音楽CDの売り上げは1998年をピークに、以降、右肩下がり。
これを受けて、音楽業界は2002年あたりに、コピーコントールCD…つまり、「CDは買わないとダメでーす」という施策を打ったが、売り上げ向上には繋がっていない。
若者からすると、「コピーできねぇCDなんて、誰が買うんだよ。常にCDを持ち歩かなきゃいけねぇのかよ!」であった。

『本が売れないのは、図書館のせい』
『CDが売れないのは、CDをコピーする人のせい』

時々こういった「移り行く時代と共存するのではなく、移り行く時代を力で抑制する」という悪手が見られる。

普通に考えると、「そりゃ、おめぇ、『携帯電話』や『インターネット』、その他もろもろの「これまで無かったモノ」が出てきたのだから、単純に、可処分時間&可処分所得の奪い合いに負けただけの話でしょ」となるが、その結論に至らない人がいる。

作り手として『1990年代』を経験した人達だ。

中には、秋元康さんのように、2000年代、2010年代…と、時代に合わせて、広告戦略をアップデートされている人もいるが、一部、「俺たちは間違っていない。これで結果を出してきたのだから。今、上手くいっていないのは、誰かのせいだ」と、1990年代で広告戦略が止まっている人がいる。
1990年代は、それほど圧倒的な結果が出たのだ。

僕かデビューしたのは2000年で、作り手として「飛ぶようにモノが売れた時代」というものを一度も経験していない。
テレビの視聴率も右肩下がりが始まっていて、「昔は良かった」と皆が言っていた。
インターネットを目の敵にしているテレビマンもいた。

基本的に僕ら世代は(下の世代は更に)、「作品は買われないのが前提で、それをいかに売るか?」という話から始まる。
本屋さんに本を置いておくだけで、CDショップにCDを置いておくだけで、ある程度売れた1990年代を見ると、「よく、そんな売り方で売れたね」と腰を抜かす。
「今が普通で、手放しでモノが売れた1990年代が異常だ」というのが僕ら以降の世代の認識だ。

それゆえ、「出版不況」だとも思っていないし、「CD不況」だとも思っていない。

出版業界に対する本音を話すと、書籍の売り上げを書籍だけで出そうとしているところが、もう、クソ味噌に古臭いと思っている。

もはや書籍なんて『無料』でも良くて、書籍をパブ(広告の場)にして、その書籍から始まるイベント収益や、グッズ収益や、広告収益や、ファンクラブ収益で、マネタイズすればいい。
テレビがそうであるように。
こんなことを、1990年代を経験した人に話すと、「書籍を無料? は? 何言ってんの? 業界を壊す気?」と、ほぼ10割の人から非難を浴びる。

1990年代の病は確実に存在する。

作り手として、1990年代の恩恵を受けた人間は、その「異常」ともいえる成功体験からの脱却を図らねばならない。
この病気を治すのは大変な苦労だ。
まずもって、病気の自覚がない。
そこから治療を始めなければならない。

「老害」と斬り捨てるのは簡単だ。
ただ、同業者を斬り捨てたところで、気持ちの整理がつくだけで、マーケットが縮小して、最終的に自分が損をする。

「手放しでモノが売れた」と書いたが、そんなわけはなく(少しポジショントークをしてしまいました。すみません)、当時は当時で、彼らは身を粉にして働いた。一生懸命働いた。
そして、そこで基盤を築いてくださったおかげで、僕ら世代は今の活動を始めることができたわけだ。

ゆえに、僕らには、理解していただくまで、何度も何度も説明する義務があると思う。

「傲慢」と言われるかな?
まあ、言われても構わない。
目的は同じなのだから、話して分かってもらえるのであれば、何度でも話したいな。

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