10月17日にフランス・パリで行われたツール・ド・フランスのコースプレゼンテーションにて、2018年大会の全貌が明らかになりました。それに伴い今夏ツールで大変話題になったランス・アームストロングによるPodcast番組『STAGES』が期間限定で復活し、発表されたコースプレビューを配信していましたので、翻訳しました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ランス:
シーズンが終わり一番のイベントである来年のツール・ド・フランスのコースが発表された。チームや選手、特にエース級の選手たちにとっては気になることだろう。会場には4,000人がパリに集まり、素晴らしい映像を使ったプレゼンテーションがあった。
ーー コースプロフィールの発表に4,000人も集まるってちょっと信じられないよね。発表を観た率直な感想は?
ファンと観客として言わせてもらうと、来年のコースは A+(満点)か、限りなくそれに近い評価だ。
ーー 好きだということでいいね?
そうさ。大好きだ。
ーー それはあくまでもファンとして?
当たり前だろ!選手だったこんなコースは嫌だよ。笑
今回のコースは非常に難しい。そしてもし俺がスプリンターだったら…大人しく家にいるだろう。笑
だって、スプリンターが勝てるステージが2日間しかないんだ。…サガンでもない限りはな。あのような選手以外はこんなレースでは生き残れないだろう。
ーー なんでASOは”スプリンターの見せ場”を用意してあげないんだ?
この夏のツール評で、俺たちがどれだけ”退屈”を訴えたと思うんだよ?!
スプリント勝負は確かに盛り上がるがそんなの最後の5秒だけだ。今回のツールはとにかく”スパイス”に欠けていた。
発表された断面図を見てみろよ。まるで”ノコギリの歯”のようなレースが三週間も続くんだ。石畳に、テクニカルなパサージュ・デュ・ゴワ、ダート(未舗装路)、65kmの短い山岳コース、アルプデュエズ、チームTT、とてもとてもテクニカルなコースプロフィールだ。
ーー ここ数年のツールで最も短い第17ステージは見所だね。それに注目は石畳(パヴェ)だ。僕を含めたファンの99%は石畳や未舗装路を走ったことがない。これは何を意味しているんだ?
石畳(パヴェ)には三つのポイントがある。
1.石畳の総距離
俺が2004年のツールで優勝した時に4kmの石畳があったが、パンツまでずぶ濡れになった。引退から復帰した2010年のツールでも13kmあった。そして来年はなんと”21.7km”だ。
2.石畳からゴール地点までの距離
これが選手にとって気がかりな点だ。最後の石畳区間からゴール地点までの距離は非常に大事なんだ。だってもし60km(走行時間約1.5時間)もあったら石畳での遅れなんて取り戻せるだろう?
そして来年はそれが”8km”だ。まるでパリ〜ルーベそのものみたいだろ?
3.石畳の難易度
クラシックをよく観る人なら分かると思うが、全ての石畳区間にはカテゴリー(星)がついている。1つ星はダート(未舗装路)で、5つ星になるとかろうじてハンドルバーに手をかけれいられるほど酷い。
ーー 自転車のセッティングは特別仕様になるかい?
もちろんだ。ホイールとタイヤは必ず石畳(ルーベ)仕様にしなければならない。その他にもハンドルバーを二重巻きにしたり、厚手の手袋が必要になってくる。
ーー これで雨が降ったらすごいことになるだろうね。
それはもはや”悪夢”でしかない。笑
しかし、そのルーベ区間に入る前の第一週目がすごいんだ。こんな待ち遠しく興奮するプロフィールは…見たことがない。
また、来季のツールには”プロローグ”がない。プロローグとは簡単に言えばファンに向けたチームや選手を紹介ステージだ。選手にとっても自分の調子を見るための大事なレースなのだが、俺もこんなステージはいらないと思っている。
ーー プロローグのない第1ステージを解説してくれるかい?
パッサージュ・デュ・ゴワだ。半分は舗装されているが、ようするに”海の中”を走る。ここはめったに乾くことがない。
ーー それじゃなくても大会初日は選手が神経質になるステージだよね?
俺が1999年にツールを優勝した時は、プロローグで勝利してマイヨ・ジョーヌを着たんだ。そんな俺でも第1ステージは神経質になった。それが半分海に覆われた道なんて…。
それにここは雨の多い地域だ。99年の第1ステージでは大きな落車があって集団が分断し、優勝候補の選手も何人かタイムを失った。アレックス・ツェーレなんて7分も失ったんだ。
こんな酷いコース…大好きだ。
ーー それはファンとしてだろ?
もちろんだ。選手だったらご免だよ。笑
とにかくこの一週目は緊張を強いられるだろう。ヴァンデからブルターニュ、その後にルーベが待っている。それに一週目は2つも山岳フィニッシュがあるし、アルプデュエズの山頂ゴールもある。
サガンはこれのプロフィールを見て思っただろうな。グリーンジャージは俺のものだ、と。
ーー 出場チームの人数が9人から8人に減った。僕が最初に思ったのは「多くの選手が仕事を失った」ということだ。
そうだな。前にも言ったかもしれないが、俺はこの決断に反対だ。
プロフィールを見てみろよ。こんなテクニカルなコースで7人しかサポート選手がいないんだ。これは重労働だ。7人は十分な人数に思えるかもしれないが、1人が病気になって、もう1人が怪我をしたらどうなる?あっという間に3、4人になってしまう。選手を失う危険性をコントロールするのは難しいんだ。
ーー 今回はタイムトライアルが2回(チームTT・個人TT)ある。チームTTが復活することについてはどう思っている?
俺はチームTTが大好きなんだ。しかもそれが一週目にあるなんてホントに凄い。やっとASOは”退屈”なステージが多すぎることに気がついたんだろうな。
チームTTの後に2つの山頂フィニッシュがあり、石畳から休息日とつづき、その後にアルプスだ!
ーー 各チームはどうやって世界中に散らばっている選手たちを集めてチームTTの練習をするんだい?十分な時間なんて取れるの?
まず、ツールのチームTTが各チームが本気で取り組む唯一のレースだろう。それ以外はまともな練習がされていないはずだ。今回の復活で各チームはトレーニングキャンプなどで本気の練習をするだろう。しかし、監督は7月に走る8人をその時点で決められないから…さぞ悩むのだろうな。
ーー ツールのメンバーはいつ頃決まるものなんだい?一ヶ月前とか?
だいたい一ヶ月前に大まかな選手選考がなされるが、一週間前まで調整が可能だろう。
選手選考つながりで言うと、今回はサッカーW杯の影響で例年より大会が一週間遅れるんだ(7月7日開幕)。つまり選手には準備の期間が一週間多く与えられる。だからその一週間で500g~1kgの体重を落とす選手もいるだろう。
ーー その一週間はジロと連戦する選手にとって魅力的に映るかい?あまり多くはないだろうけど。
このプロフィールを見て、俺だったらジロは走らないだろう。それぐらい今回のツールはキツい。十分な準備と休息を得なければ難しくなる。
ーー あと注目なのがレース途中にあるタイムボーナスだ。現時点ではどこに設定されるかわかっていないんだろう?
俺がツールを見てきたこの30年でたくさん新しい試みがされてきた。
ゴールにはそれぞれ1位:10秒、2位:6秒、3位:4秒のタイムボーナスが加算される。過去にスプリントポイントには1位:3秒、2位:2秒、3位1秒というタイムボーナスがあった。
今回は最初の9日間のコースにタイムボーナスがあるが、まだそれがどこかは明らかにされていない。だから「1〜3秒」のタイムボーナスがレース後半のどこかに設定されるはずだ。ASOがこれを総合勢のアタック誘発に使いたいのだったらレース後半に持ってくるだろうな。これが総合勢に影響するかはわからないがな。
今日読んだ記事では、UCIはそれを認めない可能性もあるらしい。確かにレースにダイナミズムは生むかもしれないが…たぶん総合勢には関係ないんじゃないかな。
ーー 話が前後するが、今回はスプリント向きのツールじゃないんだよね?
彼らにとっては二日間しかない。あっ、第1ステージも勝機があるから、実質3日間かな。
ーー 当然チームの総合系エースはスプリンターではなく山岳の為のクライマーを多く連れていきたいよね?
そうだが、フルームやキンタナは一週目を乗り切る為に大柄なクラシックスタイルの選手が必要だろう。
ーー 第9ステージの石畳を越える為に、か。
そうだ。絶対に彼らの力が必要だ。俺にとってのジョージ・ヒンカピーのような選手がな。彼らに先頭を牽いてもらわなければ乗り切れないだろう。
ーー 石畳については話したけど、ダート(未舗装路)はまだだ。この第10ステージでは何がポイントとなるんだい?
これはASOによるツールの新しい要素だ。プラトー・デ・グリエール(平均勾配11.2%の6kmの登りで、頂上手前2kmが未舗装)と言って、俺はここを走ったことないが、つまりこのステージの序盤に短いダートがあるんだ。ASOはツールにいま流行っている”砂利道”を取り入れたかったんだろうな。
ーー 各チームの総合系エースは、今回のツールに対してどのような準備をしてくるんだい?フランスをひたすら試走するの?
もし俺がエースだったら確認しなければならない箇所が多すぎる。コースがテクニカルということはGoogleマップで見てもわからないという意味だ。そのため実際に現地を試走しなくてはならない。
石畳やチームTT、アルプスとピレネー、最後の個人TTと、とにかく確認が不可欠なコースがたくさんある。家でできない宿題が多すぎるよ。
ーー 移籍の話をしよう。ファビオ・アルの移籍は各チームにどのような影響をもたらす?
ファビオ・アルがアスタナからUAEに移籍した。つまりアスタナから総合エースがいなくなったんだ。フグルサングはいるがエースとは呼べない。去年アスタナはニバリを失い、今年はアルを失った。
また、UAEはクイックステップからダン・マーティンも獲得した。これでUAEはダンデム(ダブル・エース体制)ができるが、正直なところダン・マーティンはアルの加入をどう思っているんだろな。
ーー そしてツール5勝目を目指すフルームについてだ。彼はこのコースを見てどう思っただろうか?
フルームは数年前のテクニカルなツールで辛酸をなめている。今回は厳しいツールになるだろうが、フルームは一番強い選手かつ一番強いチームを持っている。だからこれまで話してきたすべての困難を上手くこなしてくるだろう。だが、フルームがどのステージでも間違いを犯してはならないことは確かだ。
また総合系のエースだと、今回のツールは”ヴィンチェンツォ・ニバリ”の為にあると言っていいだろう。
彼は技術が高いし、自転車を操るテクニックに長けている。それに先頭に残れるし、登りもいける。キンタナに比べ、遥かに注意しなければならない選手だろう。
ーー 第20ステージには31kmの個人TTがある。
これは短いが、難しいコースだ。平坦が少なくカーブが多い。何度も言うがウェット(雨)の可能性だってある。もし上位勢のタイム差が少なければ…エキサイティングな個人TTになるだろう。
あとチームTTの所で言っとくべきだったんだが、そのタイム差は個人に加算されるんだ。もし俺のチームとライバルのチームのタイム差が3分あったとしたら、俺だけでなくチームの全員が3分差を獲得するということだ。逆に言うとタイムを失ったチームはそれ以外でその三分と奪い返さなくてはならないんだ。
リッチー・ポートのBMCや、フルームのスカイというチームTTが得意なチームに、アルとダン・マーティンのUAEは挑まなければならない。少なくとも1分差はつくだろう。モビスターはそこまで離されないと思うが、とにかくチームTTの強いチームを持っている選手が受ける恩恵は計り知れない。
ーー 総合系エースを抱えるチームのメンバー構成はどのように決められるんだい?
俺の時はチームに明確な”評価指標”があった。現在のコンディションや、経験、チームプレイする選手か否かなどの指標だ。それに基づいてヨハン(当時の監督)と対話の中で決められていた。
ーー もちろんそれに加え、来季以降の契約状況も関係するだろ?
その通りだ。今年のフルームが、チームにランダ(来季もビスターに移籍)を入れたくなかったのは明らかだが、彼の意見は却下されたのだろう。
ーー アシスト選手が直接エースや監督の元に行き「俺を出してくれ!」とお願いすることはあるのか?
ロビイングなんて全員がしていることだろう。一番評価され、お金になるレースの出場がかかっているのだから、それぐらいはして当然だ。
ーー そろそろ2018年のツールをまとめてくれ。
色々と話してきたが、とにかく待ち遠しくて仕方がない。コンテンツとしてもダイナミズムの視点から言ってこれは . . . 凄い大会になる。
ーー 確かにスプリントステージは最後の20kmしか観ていられない。しかし今回は石畳に山頂フィニッシュと見所がたくさんあるので、視聴者がチャンネルを合わせて観たくなるポイントの多いレースになっている。
去年のツールには休息日明けに”中だるみするステージ”というか、選手の身体を目覚めさせる為に設定されたような退屈なステージがあった。しかし今回のツールは、まるで一昔前のキツくて激しいツールに逆行したかのように、石畳ステージの後にアルプスに飛んで(移動し)、休息日の後すぐにアルプスを登るんだ。
アルプスとピレネーを繋ぐステージ(第10〜17ステージ)を見てみろよ!意地が悪いほどこの上ない。笑
特に第14ステージのゴール地点であるメンダだ。ここはツールで毎回通るのだど、狭くてパンチがあり、3〜4kmの平均勾配が10%ある坂を上がるのだけど、ここは何より…暑いんだ。
image:ASO
ーー 暑いと言えば、今回の特徴はレースのほとんどがフランス国内で行われる。途中15kmほどスペイン(正確にはフランス・バスク地方)に入るが、暑さという点では大分マシな大会になるだろうね。
そうだな。フランスの方が涼しいからな。
ーー スペイン(バスク)でステージはどうせもの凄く暑くなるんだろう?
もちろんだ。でも個人TTだから選手にはあまり気にならないだろう。ツールは毎回のように近隣の国でのレースを組み込むが、選手にとってはとても目まぐるしく忙しくなるからクソなんだよ。…いや別にクソではないが、まぁなんというか…ね。
(咳払い)
最後にASOのディレクターであるクリスチャン・プルードムの言葉を引用したい。
“Let us not miss out on the past. It is only with the past that we build the future”.
「過去のツールを無視してはならない。過去からしか素晴らしい未来は築けないのだから。」
これはすごく心が暖かくなる言葉だ。彼には言葉のセンスがあるよ。
まぁこの引用を無視したとしても、今回のコースレイアウトを作ったASOには、いち自転車ロードレースファンとして敬意を表するよ。
ーー いい感じに締まったところで、ちょっとだけ”この番組の未来”についても話したい。なんと、来年の7月のツールが始まるまで、いくつかの放送を予定しているんだ。まだ詳細は決まっていないが…ランス、来春のクラシックとかはどうだい?オススメとかある?
クラシックをやるんだったら『ツール・ド・フランドル』しかない。巷ではパリ・ルーベがクラシックの王様と呼ばれているらしいが、「リエージュ~バストーニュ~リエージュの」山岳と、「パリ・ルーベ」の石畳が合わさった『ツール・ド・フランドル』こそがクラシックの王様だ。異論は認めない。
ーー『ジロ・デ・イタリア』の放送をやってほしいという視聴者からのメールもあるが?
俺に何人の子どもがいると思っているんだ!五人だぞ!五人!それに時差があるレースを三週間もやってられるか!
あと、ジロで言えば今年の覇者であるトム・デュムランのことを話さなければいけない。この大きくてTTが強くて登りもいけるオランダ人が、フルームを倒せる唯一の選手と言われているが、来季のツールは…出ないほうがいいな。
ーー 本当かい?!勝てるチャンスはない?
ないな。だって獲得標高が3000mもある65kmの山岳ステージがあるんだぜ?ここで生き残ることは難しいだろう。
オランダ人やファンには悪いが、デュムランは家でカクテルでも飲んでいた方が懸命だな。
ーー それは残念だなぁ…。
もうそろそろいいか??
身体が疼いてきたからジムに行きたいんだ!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
参考記事