ノーベル文学賞に選ばれた英国の小説家、カズオ・イシグロさん。著書に注目が集まる一方、全国の書店スタッフの間で、「ハヤカワカバー」なるつぶやきがSNS上で拡散中です。そこには、ささやかながらも作品への出版社の強い矜持が-。(ネクスト編集部)
著書8冊を翻訳・出版している早川書房(東京都)。累計発行部数は約203万部に達し、受賞後の増刷は105万部を超えています。
〈手がすいた時に作り置きを〉〈大量入荷に備えたくさん折っておいて〉〈アルバイトさんがカズオカバーと呼び始めた〉-。受賞の翌週から、SNS上ではこうした声が見受けられます。
カズオカバー…とは?
文庫サイズはA6判と呼ばれ、縦150ミリ、横105ミリが一般的ですが、同社刊行のハヤカワ文庫は縦157、横106ミリ。2009年に文字を大きくしたのに伴い、標準よりも7ミリ背が高い「トールサイズ」に切り替えました。
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サイズの違いは文庫カバーにも影響します。
通常、本のカバーは文庫、新書、コミックス、B6(単行本など)、A5(学術書、文芸雑誌など)の5種類があり、上下が折り込まれて店に納品されます。
ジュンク堂書店三宮店は、同社の文庫カバーよりワンサイズ大きい新書用カバーをさらに折り、ハヤカワ用に。ハヤカワ文庫のサイズが他の文庫より大きいことは、書店スタッフとしては基本中の基本。新人アルバイトが入社すると、まずはじめに覚えてもらう項目のひとつだそうです。
「発表翌日から、ハヤカワ文庫用のカバーを折り続けています」(文庫・新書担当水本真友美さん)
これまでは、毎週数十枚程度、ハヤカワ用カバーを補充していましたが、最近は連日のミッションに。「ハヤカワカバーよろしく」を合言葉に、手のすいたスタッフが取りかかっているそうです。
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人気の長編シリーズなどで熱心なファンが多いハヤカワ文庫。トールサイズの出現に当時、少なからぬファンが衝撃を受けました。「他社と並べると書棚の本の高さがそろわない」などの意見が寄せられ、書店側からは「売り場の棚に並べると指を差し込む隙間がない」といった指摘もありました。
一方、人気の長編シリーズ「宇宙英雄ローダン」や「グイン・サーガ」などは、長年のファンのため、あえてサイズを変えていません。「シリーズ途中からサイズが変わるのは見栄えが良くないため、特定の作品はショートサイズのままです」(プロモーション課)
受賞をきっかけに、〈(キャンペーン時の)トールサイズ用カバーを市販して〉といったツイートもありますが、「まずは注文の本をお届けせねばという状況です」(同課)。多忙な中、やぼなお願いかもしれませんが、ご検討いただけませんか。本好きの一人として。