衆院選は改憲勢力が3分の2を大きく超える結果となった。与党の自民党、公明党に加え、改憲論議に前向きな姿勢を示す希望の党、日本維新の会を含めると議席は7割を超える。

 9条改憲は戦後、日本が貫いてきた平和主義の根幹に関わる。参院でも改憲勢力が3分の2を超えていることを考えると、もはや改憲論議は避けて通れないだろう。

 安倍晋三首相は23日の記者会見で「スケジュールありきではない」とする一方、「政治だから全ての皆さんに理解をいただけるわけではない」とも語った。

 これまで賛否が割れる法案を数の力で押し通したことを考えると、強引なやり方を警戒せざるを得ない。

 安倍首相は今年の憲法記念日に「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と日程に初めて言及。「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」と具体的内容に踏み込んだ。年内にも党の9条改憲原案を示すことが取りざたされている。

 自衛隊の根拠規定を追加するだけと安倍首相は強調するが、戦争放棄や戦力不保持を定めた1項、2項との整合性はどうなるのか。9条が大きく変質するのは間違いない。

 衆院選公約で自民は自衛隊の明記など4項目を掲げ、憲法改正を目指すとした。

 共同通信社が投票直前に実施した全国世論調査では、安倍首相の下での憲法改正に賛成は34・9%で、反対が51・3%と大きく上回った。

 衆院選の結果がそのまま改憲容認と一致しているとみることはとてもできない。

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 改憲に前向きな希望、維新も、何を改憲項目とするかなどで温度差がある。

 公明は連立合意書に「国民的議論を深め、合意形成に努める」と明記するなど9条改憲に慎重な姿勢だ。

 野党第1党に躍進した立憲民主党は「違憲の安全保障関連法を前提にした自衛隊明記は違憲の追認だ」として反対の姿勢を鮮明にしている。

 共産党、社民党も反対だ。

 立憲民主の枝野幸男代表は23日のテレビ番組で、憲法審査会が「かつては野党の意見も聞き合意形成を進めていく姿勢があった」としながら、最近は「与党が数の力で押し、建設的な議論ができていない」と危機感を表明した。

 国の形を変えかねない最重要な問題である。

 改憲は最終的には国民投票で国民が決めることになるが、そこに至るまでの過程は「改憲ありき」でなく与野党による幅広い熟議が必要だ。

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 憲法9条と日米安保条約をセットにした安全保障政策が定着しているのは確かだが、これは安保のコストを沖縄に負わせ、その利益を本土側が享受するシステムである。

 米軍基地絡みの事件・事故が頻発する現状は、憲法の精神が沖縄で体現されているとはとてもいえない。むしろ「憲法・国内法」の法体系は「安保・地位協定」によってじゅうりんされている。

 米軍基地の過重負担に手を打つことなく、9条改憲に突き進むことはとうてい認められない。