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第九話 シールストーン
「――――祠?」
帰って来たアヴォロスたちに話を聞いた日色。
日本ではありきたりな鳥居や祠のことを聞いて、思わず低く唸ってしまった。
「祠……か」
「何か心当たりでもありそうですけど、ヒイロさん?」
日色の表情に感じ取れるものがあったようで、ミュアが尋ねてきた。
「ああ、実は前に一度この世界で鳥居と祠を見たことがあった。あれは魔界を旅している時だったな」
「あ、わたしたちと離れ離れになった時ですね?」
日本からこの異世界に飛ばされた時、日色は一人で旅をしていてミュアとアノールドに会った。そしてそのままずっと旅をともにしてきたのだが、人間界から獣人界へ入り【獣王国・パシオン】で別れることになったのである。
その後は一人で旅をまた再会して、魔界に入って今度はリリィンたちと出会い、一緒に放浪することになった。
その時の旅路でした経験の中に、鳥居と祠を発見したということである。
「どういったものだったのだ?」
アヴォロスの問いに対し、日色は腕を組みながら淡々と答える。
「初代魔王――アダムスが関わっていた」
「「「っ!?」」」
その場にいたアヴォロス、ミュア、レッカがそれぞれアダムスという言葉に反応を返した。だがアヴォロスだけは小さな声で「やはりな」と呟いている。彼は気づいていたということだろう。
「祠の中に石があったって言ってたな?」
「あ、はい。石というか塊みたいなものが」
「それは恐らく《シールストーン》という代物だろう」
「! ……《シールストーン》か。やはりあの塊から感じた封印の力はアダムスのものだったのか」
「せ、先生はお気づきだったのですか?」
レッカの質問に対し、アヴォロスが「ああ」と言うと、続けて答える。
「余は世界に蔓延るありとあらゆる力について研鑽しておったからな。『神族』を討つために。その際にもちろん超常の力を持つアダムスのソレにも目をつけるのは当然だった。アダムスはその実力は皆も知るところだと思うが、奴には物作りの才能もあった。かのヴァルキリアシリーズ然り、ヒイロが持つ《強欲の腕輪》も然り……な」
確かにアダムスの才はマルチに長け、特に誰もが思いつかないアイデアを駆使し、様々な魔具などもまた作っていたのだ。
まさに真に万能の天才と呼べる人物は、かの者だけであろう。
「余は《シールストーン》がアダムスの作った封印を施す魔具だと仮定すると、あの状況も納得がいった」
「? ……もしかして街がなくなったっていうことでしょうか?」
「そうだ、レッカ。恐らくあそこにいたはずの白髪の男が、その《シールストーン》を使って街ごと封印したのであろうな」
「と、ということはまだあそこにはわたしたちが見つけられなかっただけで、街があったってことですか!?」
ミュアの驚きの言葉にアヴォロスが「その可能性が高い」とだけ答えた。
そしてレッカが当然のように「何のために封印を……?」と疑問を呟く。
「無論何かをするための時間稼ぎ、であろうな。その前に余たちに邪魔されぬように」
「では再度今すぐ向かって、《シールストーン》を破壊すればいいのでは?」
「それはダメだ、レッカ」
「ち、父上……」
「《シールストーン》を下手に動かしたり、壊したりすると、逆に危険なんだよ」
「そ、そうなんですか?」
「ああ、少なくとも前にオレが見たやつは、動かしただけで辺り一面をマグマに包まれそうになった」
「マ、マグマ……!」
レッカもあんぐりと口を開けて固まる。自然災害の恐ろしさは、彼も知っているのだ。
「とにかく、そうなっては下手に《シールストーン》を刺激するわけにはいかないな。その白髪の男のことだ。何かしら仕掛けは打っているはずだからな」
「だろうな。わざわざ島程度の規模を浮上させたのは、もしかするとこちらが手を出す可能性を考えて逆に誘導しようとしていたのやもしれぬ」
「だとしたらその思惑にあっさり乗るわけにはいかない。……やはりオレが直接行って、封印ごと何とかする他ないかもな」
「それはダメですよ、ヒイロさん。王が国を離れるのはあまりオススメできません!」
「とは言うがな、ミュア。このまま放置することもできないだろ?」
「それはそうですが……とにかく、もう少し情報を集めてからにした方が良いと思います」
「むぅ……」
「――ミュアの言う通りだぞ、ヒイロ」
と、そこへやって来たのはリリィンとシウバの二人だった。
「貴様が直々に動かざる事態になった時にのみ動け」
「リリィン……」
「それまではもう少し周りを信頼したらどうだ? いつまでも貴様の力におんぶに抱っこでは、成長するものもしまい」
確かに日色の力は万能であり、どのようなことにも対処しやすい。しかし何かあればその都度日色が解決していたのでは、後進が育ってくれないだろう。
もし日色がいなければ瓦解してしまう。そんな柔な国では、意味がないのだ。
「……分かった。だがオレの判断で、動くべきだと思ったら動くからな」
「それでいい。あと、イヴェアムには連絡しておいた。奴も四つ目の大陸についての情報を洗うとのことだ。それと近々アクウィナスも顔を見せるらしい。例の白髪の男の能力に関して奴も気になっているのだろうな」
アヴォロス曰く、白髪の男が使用した《創剣の魔眼》の力。それを解明するためにも、彼から情報を聞き出すことは必要だろう。
「分かった。なら引き続き連絡を密に。あとは……」
「――こちらもジュドム殿に連絡をしておきましたよ」
ジュドムに連絡を頼んでいたクゼルがこの場に表れる。
その隣にはアノールドもいて、
「うおぉぉぉ! ミュア~! 心配したぜ~!」
「も、もうおじさん……抱きつかないでよ、恥ずかしい……!」
「だってよぉ、お前が俺から離れて行動するなんてそうそうねえじゃんかぁ! お前のことを考えて仕事が手につかなかったんだしよぉ!」
やはり親バカは健在のようだ。
「おいオッサン、ちゃんとレッグルスには伝えてくれたんだろうな?」
「ああ、レッグルス様も何か分かればすぐに情報を伝えてくれるらしいぜ」
「ジュドム殿についても同様ですね」
「分かった、オッサンにクゼルもご苦労だった」
そしてリリィンたちにも鳥居と祠について説明した。
リリィンとシウバは、日色と同じく一度見たことがあるので少し驚きを見せていたが、アノールドはサッパリという感じで「へ~」とだけ口にしている。
しかしクゼルだけは難しい表情のまま床に視線を落としていた
「どうかしたんですか、クゼルさん?」
質問をしたのはミュアである。
「ええ。実は鳥居というか、祠ならば幾つか私も確認したことがあります」
その言葉が全員の注目を引きつける。
「それはホントか、クゼル?」
「はい、ヒイロくん。私が見たことがあるものも、例外なく何かを封印する力を備えていました。ですからミュアさんたちが見た祠もまた、同様のものである可能性は高いかと」
ということはやはり《シールストーン》が使用されているのかもしれない。
「……まだ分からないことは多いが、今は四つ目の大陸、それと《シールストーン》に関する詳しい情報を探るぞ」
日色の言葉に全員が頷き行動を開始した。
次回更新は11月2日です。
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