田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 2017年の衆院選は、誰がみても自民党の圧勝に終わった。台風の影響で開票作業がずれこんだが、追加公認した無所属3人を加えて284議席を獲得した。10議席の定数削減分があるので、占有率では上回った。連立を組む公明党は29議席と苦戦したが、それでも与党全体では改憲発議に必要な衆院の3分の2の議席を上回るというものだ。事前の世論調査でも序盤から最終盤にかけて与党の優勢が伝えられていたが、ほぼそのまま獲得議席となって現れた。
開票速報センターで候補者のバラ付けに臨む自民党総裁の安倍晋三首相=2017年10月22日、東京・永田町の自民党本部(松本健吾撮影)
開票速報センターで候補者のバラ付けに臨む自民党総裁の安倍晋三首相=2017年10月22日、東京・永田町の自民党本部(松本健吾撮影)
 投開票翌日の文化放送「おはよう寺ちゃん活動中」で、コメンテーターの経済評論家、上念司氏は「フェイクニュースの惨敗だ」と今回の選挙を総括した。上念氏のいうフェイクニュース(嘘のニュース)は、朝日・毎日系列に代表される新聞やテレビが、今年冒頭から連日のように流してきた森友学園・加計学園に関する一連の疑惑報道のことを指している。疑惑の矛先は、安倍晋三首相に向けられてきた。両学園に関してなんらかの不正を首相が犯したのではないかという、現段階ではまったく事実の裏付けのない「疑惑」だ。

 今回の選挙の勝利を受けて、安倍首相は今後も丁寧に説明するとしたうえで、自身への疑惑が根も葉もないことを指摘した。首相の言い分をこの場で擁護するつもりはないが、実際に森友・加計問題がマスコミで連日のように取り上げられた中で、筆者も何度もこの問題について書いてきた。結論だけ書くと、上念氏が明言したように、マスコミが首相に「悪魔の証明」(自分がしていないことを証明させる永久に立証できないもの)を求める悪質な偏向報道だということだ。

 だが、今回の選挙後でも、朝日・毎日系列を中心にして、相変わらずこの両学園の問題に繰り返し言及している。一種の「社会的ストーカー」といってもいい事態だろう。もちろんマスコミには政治を客観的に批判、監視する役割がある。それが民主主義の根幹にもなっている。また時にはマスコミ自身が間違うこともあるだろう。それは選挙にかかる金銭と同じように、民主主義のコストだといえる。だが、さすがにこれだけ長期間にわたって、なんら具体的な証拠も証言も、またそもそも何が問題かさえ明白ではない「安倍首相の疑惑」を報道することは、マスコミの政治的偏向だと指摘されてもやむをえないだろう。

 このようなマスコミによる政治的な誘導を狙っているとしか思えない偏向報道が長期化することは、今後の日本の政治・社会に暗雲をもたらす可能性が高い。世論調査をみると、まだ両学園問題について「(首相自身の)疑惑が解明されていない」という意見が多いようである。しかしそれが今回の投票に結び付いていない。これはなんでだろうか。筆者の推測でしかないが、ひとつは世論調査の仕方や対象に大きなゆがみがあることだろう。しばしば指摘されるのが、世論調査の方法が固定電話を対象にしたもので、そうなると高年齢の回答が多くなる。