革新機構:元本2倍の回収目指す、民間ファンドの呼び水に-志賀会長

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  • 日本に官民ファンド必要、リスクマネーの担い手として
  • 日産取締役として「心から謝罪」-無資格検査問題で

官民ファンド産業革新機構の志賀俊之会長(64)は、国内ファンド活性化の呼び水にするために機構の投資回収額を「個人的には元本の2倍にしたい」と語った。官民ファンドの存在意義が問われる中、東芝メモリ売却のような大型案件に参加できる民間ファンドが育っていないことを挙げ、リスクマネーの担い手としての官民ファンドはまだ日本に必要だと説いた。

  24日にブルームバーグのインタビューに答えた。革新機構の資料によると、2017年3月末の投資回収実績は元本の1.6倍。格安航空会社ピーチ・アビエーションの株式売却などが寄与したとみられる。志賀会長は「日本は歴史的に間接金融に依存していた」と米KKRやベインキャピタルのような大型ファンドが育っていない現状を指摘。「起業時に融資ではダイナミックなリスクが取れない。海外ではファンドがその役割を担っている」とした。

  その上で、海外のベンチャーキャピタルファンドの資金の主な出し手は国民の資産を運用する年金基金、生命保険会社などの機関投資家だと指摘。日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も柔軟な資産運用を進めているものの、プライベートエクイティ(PE)を含むオルタナティブ投資の割合はまだ0.1%。日本で民間ファンドに資金が流れ込むためには、投資家の理解を得るために「官民ファンドが成功事例を作り、投資の魅力を上げていくことが大切だ」とした。

社会的意義

  一方で、機構には、民間で負えないリスクを取る使命がある。志賀会長は特に日本では創業間もない時期の資金や、回収に時間のかかる健康・医療分野への資金の出し手が不足していると指摘。必ずしも投資リターンが見合わなくても「社会的意義があればやっていくべきだ」とした。志賀会長は、こうした投資を含めて2倍の回収を目指すためには「目利き力が大切」と考える。13年からは専門の投資チームを結成し、ベンチャー部門の収益改善に取り組んでいるという。

志賀会長
志賀会長
Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  
  産業革新機構は15年間の期限付き官民ファンドとして2009年に設立。成長性、革新性が認められることや業界再編に資することを投資基準とし、ベンチャーからルネサスエレクトロニクスなどの大企業まで16年度までに114件の投資を実行してきた。一方、投資能力2兆円の巨大ファンドとしてシャープや東芝の経営再建で存在感を発揮。東芝メモリへの出資については、国会で本来の機構の投資基準には合わず「企業救済で、法令違反ではないか」などの疑問の声が上がった。

東芝メモリ

  これに対し志賀会長は、メモリーは人工知能(AI)の性能を決めるなど技術革命に欠かせない半導体だとし、東芝救済ではなくメモリー事業への投資と見れば「成長性、革新性と日本で生産しているという点で地方創生の観点からも」投資基準に適うと述べた。一方でいわゆる再生案件については「税金を官民ファンドの一存で自由に借金の肩代わりに使うというのなら、資本主義の論理から離れていると思う」とし、救済すべきケースはその都度国が議論して決めるべきだとした。

  東芝メモリの売却で、革新機構は先月20日の正式発表直前に出資額を従来の3000億円から5500億円に引き上げ、単独で議決権の過半数を握る提案をした。志賀会長は「終わった話」と断った上で、自身が日産自動車トップとしてルノーと強い信頼感で結ばれていた経験から事業パートナーのウエスタンデジタル(WD)との訴訟を抱えていては「十分な価値創造ができない」と一貫して主張したといい、WDも東芝も受け入れられる案にしたかったと振り返った。24日の東芝臨時株主総会では、WDではなくベインキャピタル連合へのメモリー事業売却が承認された。

  公的資金が主な原資となる官民ファンドには「民業圧迫」「採算度外視」との批判が付きまとう。参議院の資料によると、15年度には主な官民ファンド14社のうち、11社が赤字だった。革新機構については経済産業省の研究会が今月、存在意義や日本のリスクマネー供給の在り方について議論を開始。この中で機構の投資基準や設置期限、組織などが見直される可能性がある。

  志賀会長は日産自動車で最高執行責任者(COO)、副会長を歴任、現在も取締役を務めている。9月に発覚した同社の無資格検査問題について「心から謝罪したい。言い訳できる話ではない」としつつ「社内的に第三者を含めた調査をしており、今月中に完了すると聞いている。その結果を見ないとコメントはできない」と述べた。

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ICOで発行されるトークン、実際の使用は1割だけ-投機目的が大半

Bitcoin Pioneer Says New Coin to Work on Multiple Blockchains
Photographer: Andrey Rudakov/Bloomberg
  • トークン・リポートは226件のICOを調査し使用状況を分析
  • ICOによる資金調達が30億ドルに達する中、使用率はなお低水準

デジタル通貨市場を巡る熱狂が広がる中、実際には新規仮想通貨公開(ICO)で発行されるトークンの約1割しか使用されていない現実がある。

  トークン発行情報データベースを手掛けるトークン・リポートによれば、226件のICOのうち、ネットワーク運営を通じて使用されているのはオーガーやテンXなどわずか20種類。残りは売買が可能なだけで、純粋に投機的な手段にすぎないとトークン・リポートのガレン・ムーア最高経営責任者(CEO)はインタビューで述べた。

  コインスケジュール・ドットコムのデータによると、投資家は今年、200件を超えるICOに30億ドル(約3400億円)以上をつぎ込んだ。9月は非常に活発で、ICO37件の規模は8億5000万ドル近くに達した。

  使用率の低さは大きな意味合いを持つ可能性がある。ムーアCEOによれば、一部の新興企業は規制当局からの調査に直面している可能性がある。米商品先物取引委員会(CFTC)は先週、仮想通貨に関する手引を公表し、トークンがCFTCの監視対象になり得るとの見解をあらためて示した。米証券取引委員会(SEC)は既に、一部のICOで発行されたトークンは有価証券として監督対象になり得ると表明している。

原題:Only One in 10 Tokens Is In Use Following Initial Coin Offerings(抜粋)

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