元TBSテレビ記者からの性的暴行被害を訴えたフリージャーナリストの伊藤詩織さんが10月24日、東京・日本外国特派員協会で記者会見を行った。
詩織さんは5月、2015年に受けたTBS記者(当時)の山口敬之氏からの性的暴行被害と、不起訴判断についての検察審査会への申し立てを司法記者クラブで公表。国内では性犯罪被害を「顔出し」で公表することは少ないこともあり、大きな注目を浴びた。
18日には手記「Black Box(ブラックボックス)」を文藝春秋から刊行。性的暴行被害によって目の当たりにした警察や司法の「ブラックボックス」や、公表後の社会の反応をつづった。累計発行部数は5万部、ネット書店ではランキング1位を獲得するなど、反響も大きい。
「現在、日本社会のシステムは、性犯罪の被害者に向けて機能していない。日本ではレイプ事件のタブー意識は強い。そのタブーを破りたい。公にしてからは強いバッシングを受け、前のように生活ができなくなった。しかし、隠れなければいけないのは被害者ではない。被害者を受け入れられず、信用できない社会に問題がある。話をすることでいい変化をもたらすことができる」(詩織さん)
日本外国特派員協会での会見は、5月にも希望していたが、開くことが叶わなかった。日本外国特派員協会は、日本に派遣されている外国報道機関の特派員やジャーナリストのための会員制クラブだ。しかし、会見は協会外のメディアや、国内の記者クラブに参加していないメディアも取材することができる。
会見場には国内外の多数のメディアが訪れ、席が足りずに急きょ椅子を追加するほどで、注目度の高さがうかがえる。詩織さんの会見を、一部全文書き起こしで掲載する。
先週(10月)18日に、文芸春秋社より、手記「Black Box」を出版させていただきました。
2015年に私が経験した性暴力被害とその後の病院やホットラインの体制の問題、捜査の在り方、司法のシステム。そして会見後の社会のさまざまな反応について、これまでの記録や調査、そして取材をもとに書きつづったノンフィクションです。
密室での出来事ということであり、「ブラックボックス」という表現を何度も捜査員の方や検察の方々から伺いました。しかし私は2年以上この件と向き合ってきた中で、警察や検察そのものにもたくさんの「ブラックボックス」が存在していることに気付きました。
この「ブラックボックス」にいかに光を当て、箱を開くか。少しでもそのきっかけになればと思い、今回この本を執筆させていただきました。
本の中で自分の経験をさらすことになりましたが、その結果、身近に似た経験をされ、その痛みとともに生きているたくさんの方々がいることを知りました。
これは遠い誰かの話ではないということを知っていただきたいです。どんな時代でも、どんなところでも、起こりうることですし、それについてはどう改善できるのかと考えていく必要があります。
ただ特定の誰かやシステムを非難するだけでは何も変わりません。私たち一人一人がどう改善していくかを真剣に考えていかなくてはいけないと思います。
本書では、たまたま私の身に起こったことを例にしてお話しているにすぎません。何かが必要か、と未来の話をするには、何が起こったか、という過去の話をする必要があるからです。
前回、5月29日の会見でご報告したように、検察の不起訴という判断に対し、検察審査会の不服申し立てを行いました。そして先月、9月21日に、検察審査会より不起訴相当という議決がなされました。現在の司法では、私が訴えていた準強姦の被害は、起訴ができないという結果になったのです。
検察審査会は検事が出した答えを再度見直し、精査する場です。そのため、必要な資料や証言などを集めて提出いたしました。審査会の場には、申立人が呼ばれ、事情を聴かれることもあります。承認や申立人の代理が呼ばれることもあります。
しかし今回は、私も弁護士の先生も、検察審査会に呼ばれることはなく、議決が出たあともそれに対する説明はありませんでした。また結果は、不起訴処分の裁定を覆すに足る理由がないというものでしたが、その内容の具体的な説明もありませんでした。
申し立てを行った際、特に注記をつけてお願いしたことがあります。それは私がタクシーから抱えられるように降ろされ、ホテルに引きずられていく防犯カメラの映像を、静止画ではなく動画で審査員の方々に見ていただきたいということでした。しかし実際に動画として証拠が提出されたのかどうかさえも分かりません。
議決が出たあと、こうしたことについて、検察審査会宛てに質問状を出しました。しかし検察審査会法26条を根拠に一切の回答をいただけませんでした。
検察審査会は完全に非公開であるとはいえ、これまでに情報が得られないこと、一度も説明の機会を与えられなかったことは、更に私の中に疑問を生む結果となりました。
このときに聞いた質問のうち、審査員の男女比と平均年齢については回答をいただきました。それは男性が7人、女性が4人、平均年齢は50.45歳とのことでした。このように男女で問題の捉え方が異なる可能性のある事例について、男女比半々に近づけていただけていなかったことは大変残念に思います。
この本の最後にも書きましたが、私も山口氏も認めている事実、そして確たる証拠が得られている事実は以下の通りです。
以上の9点です。これだけの事実があっても、現在の日本の司法システムでは、事件を起訴することすらできません。中村格氏には、逮捕当日になって止めた理由について伺いたいと何度も取材を申し入れていますが、今日に至るまでなんの回答も得られていません。
先日起こした民事訴訟の場では、これまでと違い、初めて法廷でお互いに事実関係を述べ合い、第三者による公平な判断が下されることになります。その場でこのブラックボックスが少しでも開かれることを願っております。
そして、外国人特派員協会というこの場所でお話しさせていただくことができました今日、一言触れさせていただきたいのは、この問題を報じるメディアの姿勢についてです。
中村氏の判断で逮捕が突然見送られて以来、2年間以上の間、さまざまなメディアに相談しました。が、この問題を正面から報じてくださるところは1社もありませんでした。逮捕見送りの問題点を報じてくださったのは週刊新潮だけでした。
今回の経験から、今後仮に国や司法の場で間違った判断が行われた可能性があるとき、それをマスメディアがどのように検証することができるのか、不起訴だから報道できないではなく、本当に正しい判断がなされたのか、どのような方法を採れば問題点を報じることができるのかという視点をぜひ持ってくださるよう、この場をお借りしてお願いを申し上げます。
それだけでたくさんの人が救われる可能性があるのです。私がこの本で一番述べたかったことは、捜査や司法のシステムの改正に加え、社会の意識を変えていくこと、そしてレイプ被害に遭った人々への救済システムの整理が必要だということです。
これについては、他国の取り組みを取材した内容も記載させていただいたので、ぜひ本書を読んでいただければと思います。7月から改正刑法が施行され、強姦罪は強制性交等罪という名称に変わりました。
まだ不十分なところはありますが、この「変化した」という事実は多くの人に希望を与えました。今回、強姦罪に大幅な改正を加えるのは、110年という長い時間がかかりましたが、性被害を受けた方々が声を上げた結果、変えることができたのです。
私たちが広く問題意識をもつことで、このように長い間待たなくてもきっと変化を起こすことができるのだと思います。今回の改正法では、暴行・脅迫要件の緩和がされませんでした。被害者が抵抗できないほどの暴力、脅迫があったと証明できなければ、罪に問われることがないという現状は変わっていません。
しかしある調査結果では、レイプ被害者の7割がフリーズ(硬直)状態に陥るという結果が出ています。この点については3年後の見直しの機会に向けて、さらなる議論が必要になることだと思います。この本が議論の助けになることを願っております。
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