2017年9月26日(火)、スペース FS 汐留にて、短編アニメ『ブレードランナー ブラックアウト 2022』の世界最速上映イベントが行われました。
本作は10月27日から公開となる『ブレードランナー 2049』(以下、『2049』)の前日譚。イギーとトリクシーという2人のレプリカント(人造人間)が登場し、大停電(ブラックアウト)を引き起こすまでの過程が描かれます。
会場には渡辺信一郎監督と荒牧伸志監督が登壇。アニメ本編の見どころのほか、『ブレードランナー』に関する、様々な視点からのトークが繰り広げられました。そんな上映会の模様をレポートします。
「力がこもり過ぎなくらい、込めてしまいました」。渡辺監督が制作現場を振り返る
『カウボーイビバップ』(1998)や『アニマトリックス』(2003)、『サムライチャンプルー』(2004)など多くの人気作を手がけ、今や日本アニメ界を代表する存在となっている監督・渡辺信一郎氏。
最初に本作のオファーが来た時は、世界中にファンがいる作品なため、高いハードルを感じたと言います。それでもオファーを受けたのは、原作である『ブレードランナー』(1981)には強い影響を受けており、やりたいという気持ちの方が強かったからだとコメント。
「『ブレードランナー』愛に溢れたスタッフに恵まれたこともあって、Webで流れる15分のアニメにしては力がこもり過ぎなくらい、込めてしまいました」と、制作現場を振り返ります。
本作に登場する飛行車・スピナーのデザインを担当した荒牧監督は、渡辺氏のリクエストがとにかく細かかったことを明かします。特に印象に残っていたこととして、モニターの画面に表示されるフォントを全て、1作目に使われていたフォントと同じものにしたというエピソードを披露。「この人は(監督に)なるべくしてなったんだと思いました」と感慨深げに話しました。
渡辺監督は「(細かくて)すみません……」と謝りつつ、「ほとんど映っていない部分に、いかにこだわるかでアニメは変わってくるので。そういう所を重要視して頑張って作っています」と、本作への強い思い入れを感じさせました。
『ブレードランナー』はアニメ界にどのような影響を与えたのか
続いては、2人にとって『ブレードランナー』はどのような作品だったのかという話題に。
アニメ業界の人間にとって、特にショックが大きかったと語るのは渡辺監督。「SFをやっている人には避けて通れないような強い影響を与えました。影響を受けてない作品を探す方が早いんじゃないのっていうくらいです」。
荒牧監督は「煙った高層ビルや、汚い雨(酸性雨)が降っている未来都市といったビジュアルは今では当たり前になっているけど、これがすべての始まりだったんですよね。これが初めてビジョンとして僕らの目の前に現れたのが、一番の衝撃でした」とコメント。すかさず渡辺監督が「アニメの未来像が、汚い街になっちゃったんですよね」と続け、観客の笑いを誘いました。
本作を制作するに当たり、『2049』の脚本とコンセプトアート・ラッシュ(編集が終わっていない収録テープ)を確認させてもらったという渡辺監督。どれも完成度が高く、1カット1カットがまるで芸術品のようだったと言います。
さらに『2049』のロケ地にも足を運んだと感想として、公開日までに前作をもう一度見返した方が良いと荒牧監督は語ります。「スタッフの中に『ブレードランナー』フリークが多く、ちょっとした小物にもこだわりを見せているんです。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督(『ブレードランナー 2049』の監督)に聞いたら、(スタッフに)言わなくても勝手にやってくれると」。
また、セキュリティレベルが高く、送られてきたシナリオを読むには制限時間が設けられており、それが過ぎるとデータが消失してしまったという裏話も披露。渡辺監督はあんまりネタバレしてしまうと、「プロデューサーがやってきて、マイクを持って行っちゃうかも(笑)」とコメントし、再び会場会場からは笑い声が上がりました。
本作無しに『ブレードランナー 2049』は語れない
上映後は、来場者からの質質疑応答の時間が設けられていました。まずは本作が『2049』にどういった形で繋がっていくのかという質問。渡辺監督は「本作の大停電により、電子機器がすべてダウンしてしまって、色んな情報が消えてしまいます。誰がレプリカントか分からなくなる時代になってしまうんですね」と回答。
さらに、「『2049』の中でも「ブラックアウトの時は大変だったよ、お前はまだ若かっただろう」といったセリフがあり、本作を観ておくとより理解を深めることができますよ」とアピールしました。
本作のビジュアル面で一番こだわったポイントについて聞かれると、「アニメにする利点は何だろうと考えた時に、手描きのアニメーターを活かしたいというのがありました。日本の手描きのアニメーターには才能を持っている人がたくさんいて、その人たちの才能をフルに活かしたかったんです」と語り、特にアクションシーンの動きに注目して欲しいと強調しました。
また、本編が15分しかなく、カットせざるを得ないシーンがたくさんあったことも告白。「シーンの間に何があったのか、想像を膨らませながら観てもらえると嬉しいです」と話し、いつかディレクターカット版も作りたいと、今後の展望についても述べられました。
フォトセッションの後には『ブレードランナー2049』の前日譚を描くショートムービー『2036: Nexus Dawn』と『2048:NOWHERE TO RUN』も公開され、最後まで大盛り上がりだった本イベント。
『ブレードランナー 2049』は10月27日より公開となります。
[取材・文・写真/島中一郎]
作品情報
●『ブレードランナー ブラックアウト2022』
〈概要〉
「ブレードランナー2049」へ至る、空白の30年間とは――?
前作から本作の舞台“2049 年”に至るまでの空白の30年間──デッカードが姿を消した後の世界では、レプリカントは寿命を持たないよう改良された。しかし 2022 年、アメリカ西海岸で原因不明の大規模停電が発生し、食物は供給がストップ。世界中がそれを“レプリカントが原因”と非難したことで、レプリカントの製造は法令で禁止された。そんな中、この世界のピンチを救ったのが、科学者ウォレス(ジャレッド・レト)だった。彼は人工農法によって 食糧難を解決するあらたなエコシステムを開発。さらに、以前レプリカントを製造していたタイレル社を買い取り、ウォレスは新型レプリカントの製造を始め、“レプリカント禁止法”の廃止を実現させた。
2022年の大停電=“ブラックアウト2022” ――そのとき、一体何が起こったのか?
その“前奏”をひとつの作品として描くため、「ブレードランナー2049」製作チームが白羽の矢を立てたのは日本を代表するアニメーション監督、渡辺信一郎監督!!
〈メインスタッフ〉
監督・脚本:渡辺信一郎
キャラクターデザイン・作画監督:村瀬修功
音楽:Flying Lotus
制作:株式会社 CygamesPictures
〈メインキャスト〉
イギー:松田健一郎
トリクシー:青葉市子
レン:古川慎
●『ブレードランナー 2049』
10月27日(金) 全国ロート゛ショー
〈概要〉
そして、2049年――。
ロサンゼルス市警の“ブレードランナー”K は、違法レプリカント“処分”の任務にあたる最中、レプリカント開発に力を注ぐウォレスの<巨大な陰謀>を知る。そして、その陰謀を暴く重要な鍵を握るのは 30 年間行方不明だったブレードランナー“デッカード”だった。彼が命をかけて守り続けて きた〈秘密〉とはいったい何なのか?
デッカードがこつ然と姿を消してから30年、キャッチコピーである“知る覚悟はあるか――”という言葉が物語るように、本作では知られざる<封印され た真実>が明かされることになる。今なお色あせることなく、映画界と世界中のカルチャーを魅了し続けている「ブレードランナー」。『ブレードランナー 2049』で描かれる30年後の世界は、その圧倒的な映像美をよりパワフルに引き継ぎ、ベールに包まれ多くの謎を抱えながらも、新たな映画新時代の幕開けを感じずにはいられない。
〈スタッフ〉
製作総指揮:リドリー・スコット
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
〈キャスト〉
ライアン・ゴズリング、ハリソン・フォート゛、ロビン・ライト、ジャレッド・レト、アナ・デ・アルマス、シルヴィア・フークス、
カーラ・ジュリ、マッケンジー・デイヴィス、バーカッド・アブディ、デイヴ・バウティスタ