「死にそうになると姿を消す」など猫にまつわる通説の真偽
「猫は死にそうになると姿を消す」という話をはじめ、猫にまつわる通説は数知れない。だが実は科学的に立証されているものは少なく、今回紹介する6つの説の中でも証明されているのはニャンと1説だけ。20年前から東京大学などで猫の研究を行う猫研究者の齋藤慈子さんは言う。
「犬に比べて、猫の実験は本当に大変。それが論文の少ない大きな理由でしょう。例えば私は1つの実験につき30匹程度の猫を対象にしますが、全然ノッてくれない猫もいます。まず私が部屋に入ると多くの猫はサッと隠れます。実験の準備をしながら1~2時間待ちますが、結局出てくれないこともザラですから(笑い)」
それだけではニャい。猫の心理を究めても、それ1本で食べていくのが難しい。そんな現実も、研究者を悩ませるのだ。
「私自身、今は人間の発達心理学が専門ですが、猫をメーンに研究していたら続いていなかったと思います(笑い)。『猫は飼い主の声を聴き分けられた』という論文を発表したときも、猫を飼っている人から『そんなわかりきったことを研究する必要はない』と批判もありました。
ただ、データとして証明しないと科学の世界では『猫はバカ』と思われたまま。それって悔しくないですか? 当然とされていることでも地道にデータを採ることが必要だと思っています」(齋藤さん、以下同)
では、猫にまつわる通説の真偽を見ていこう。
◆猫は、人間の2才児くらいの知能を持つ?
よく聞かれるこの話。齋藤さんは否定的だ。
「例えば人の2才児は鏡に映る自分を自分と認識できますが、猫は不可能。一方、猫は聴こえる音の高さが人の4倍あるといわれ、約80Khzもの超高音を聞き取り音源の方向を特定する能力もある。単純に人間と猫は比較できません」
◆猫は、飼い主の声を聞き分けられるが、その声を聞いてもしっぽは振らない
2013年、齋藤さん率いる研究チームが一般家庭で飼育されている20匹の猫を対象に実験した結果、猫は飼い主の声を聞き分けられることがわかった。
「飼い主が猫の名前を呼ぶ声と、猫と面識のない、飼い主と同性の4人が猫の名前を呼ぶ声、計5人の声をあらかじめ録音。そして、飼い主不在の部屋にいる猫に、スピーカーから、他人3人→飼い主→他人の順番で音声を流し、猫の様子を分析しました。すると、多くの猫が最初の他人の呼び声に対して頭や耳を動かす反応を大きく示したのち反応を弱めたのですが、飼い主の声が聞こえると、この反応が大きく戻ったのです」
ただ、飼い主の声でもほとんどの猫が「鳴く」「しっぽを振る」行為はしなかったそう。やはり、猫はツレないニャア。
◆死にそうになると忽然と姿を消してしまう?
それを経験した人が多いことから、経験則として広まっているだけで、証明されているわけではないと言う。
「仮説としては、野生動物は体調が悪くなると人から見えない場所に隠れる傾向があるからでは?といわれています」
◆なぜか、猫は人間の赤ちゃんにだけは寛容
齋藤さんが最近聞くのは「猫は赤ちゃんにだけは反撃しない」という話。
「乳児の泣き声に共通する音響学的特徴や、下の方に目が大きくついているといった“幼児図式”に反応して攻撃しないのか? 非常に気になります」
◆行方不明になった飼い猫もちゃんと帰ってくるって本当?
「実例はありますが、ではどの猫もみなそういう能力があるのかというと立証されていません。飼い主が悲しみに沈んでいるとき、外見が似た猫が現れたら自分の猫と思い込む。そうした人間の認知的ゆがみの可能性も考えられます」
「死ぬ直前に消える」説もそうだが、倫理的に実験できないため証明できニャいそう。
◆犬っぽい猫が増えてきている?
飼い主がいようがいまいがお構いなし。そんなマイペースさが猫の性質だと思われていた。しかし、違う猫の様子も見られるという。
「最近、『分離不安』といって、飼い主が姿を消すとニャンニャン鳴きまくったり、ちょっと出かけようとすると不安になる猫が増えてきているようです。あくまで私の仮説ですが、かつては勝手に繁殖していたのが、今は野良猫でも去勢・避妊して保護される時代で、人懐っこい猫の方が人と共存するようになった。そうして、犬のように人に依存する性格の猫が増えてきたのでは」
うれしいようニャ、悲しいようニャ…。
※女性セブン2017年11月2日号