2017-10-23(Mon): 定住自立圏構想と図書館

結構前から関心を持って調べているテーマが「定住自立圏構想と図書館」である。「リサーチ&デザイン」を掲げるアカデミック・リソース・ガイド株式会社(ARG)では、通常の業務以外でもこういった自主的な調査・研究を重視している。

定住自立圏構想とはもともとは総務省の委員会である定住自立圏構想研究会が検討を進めてきたもので、2008年に「定住自立圏構想研究会報告書」、次いで「定住自立圏構想推進要綱」が発表されている。各地域において「中心市」を設定し、その周囲にある生活や経済でのつながりが深い自治体を「周辺市町村」として、協定を締結し定住自立圏を形成するというものだ。要するに自治体の広域連携・相互連携を進める取り組みと言えるだろう。

・総務省 – 定住自立圏構想研究会報告書
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/teizyu/080516_1.html
・総務省 – 定住自立圏構想推進要綱【PDF】
http://www.soumu.go.jp/main_content/000283569.pdf
・総務省 – 定住自立圏構想
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/teizyu/
・国土地理協会 – 定住自立圏構想情報
http://www.teijyu-jiritsu.jp/

図書館との関連で興味深いのは、

・総務省 – 全国の定住自立圏構想の取組状況について【PDF】
http://www.soumu.go.jp/main_content/000512524.pdf

等の関連資料を見ると、図書館の広域利用・相互利用が圧倒的にメニューとして採用されていることだ。公共図書館の場合、そもそも最初から図書館間での協力が図書館法に謳われ、かつ長らく実践されてきているので、この構想との相性がよいと言えるのだろう。

とはいえ、ただ広域・相互での利用というだけでは、図書館の機能を生かし切れていないように思える。さまざまな定住自立圏の情報を調べてみても、図書館については、

1.相互利用・広域利用の推進
2.図書館システムの一体運用
3.職員研修の合同開催や交流促進
4.イベント等の共同開催
5.物流配送システムの確立

が一般的なメニューとなっている。なお、ごく一部にであはるが、複数自治体間での図書館システムの共同調達が行われている。

しかし、これはもう少し深められるのではないだろうか。たとえば、滋賀県の彦根市を中心市とする湖東定住自立圏(彦根市、愛荘町、豊郷町、甲良町、多賀町)の場合、

「圏域内の拠点となる図書館の整備
 圏域図書館ネットワークの拠点機能を備えた図書館を整備する」

・彦根市 – 定住自立圏構想の取組について 湖東定住自立圏情報
http://www.city.hikone.shiga.jp/0000000847.html

と謳っている。愛荘町、豊郷町、甲良町、多賀町という近隣の町の図書館はいずれも全国的に知られた存在だが、その中核となる事実上の中央図書館機能を中心市である彦根市が担おうという意思を感じる。

ただ、ここまでの計画を組める自治体はそうは多くはないだろう。もう少し別の角度で考えると、「職員研修の合同開催や交流促進」をもう一歩深めることはできないだろうか。たとえば、人事異動を含む人事交流だ。小規模自治体の図書館職員の場合、同じ職場に長く奉職・在職することが良い面もあれば悪い面もある。「中心市」と「周辺市町村」を行き来するような人事が行えれば、定住自立圏全体での図書館サービスの向上には、一定のインパクトを持つのではないだろうか。

また、これはエリアの広さにもよるが、比較的距離が近接している自治体間であれば、各図書館の蔵書構成・コレクションに重点項目を設け、それぞれが何らかの専門性を持つ図書館という機能を持つことも可能ではないだろうか。

定住自立圏ではないのだが、いま私たちが新図書館整備の支援をさせていただいている一つに、島根県の西ノ島町がある。町名からわかるようにここは離島だ。隠岐諸島のうち島前と呼ばれる3つの島がそれぞれに独立して存在する地域である。いま、島前地域は図書館振興が図られており、西ノ島町以外の2島、海士町と知夫村でも図書館の整備が進んでいる。特に海士町はその先駆者で、その活動は高く評価され、

・Library of the Year 2014
http://www.iri-net.org/loy/loy2014.html

で優秀賞を受賞している。西ノ島町で初めて設置される図書館も来夏には開館し、知夫村でも来春に学校図書館を核とした施設がオープンします。この一連の動きのなかで私たちも広域連携に関わる提案をさせてもらっている。定住自立圏であるなしに関わらず、地域をつなぐことで広がる可能性を常に意識して行動していこう。

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